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Stories

バーミンガム・ロイヤル・バレエ
(Birmingham Royal Ballet)

「ホブソンズ・チョイス」
(“Hobson's Choice”)

(2005年10月12、13、15日、ヒポドローム劇場、バーミンガム)

by あび


登場人物とキャスト:

ヘンリー・ホブソンHenry Hobson(父親)-David Morse/Jonathan Payn
マギー・ホブソンMaggie Hobson(長女)-Isabel Mcmeekan/Angela Paul/Ambra Vallo
アリス・ホブソンAlice Hobson(次女)-Silvia Jimenez/Lei Zhao
ヴィッキー・ホブソンVickey Hobson(三女)-Carol-Anne Millar/Laura Purkiss
ウィル・モソップWill Mossop(靴職人)-Robert Parker/Christopher Larsen/James Grundy
フレッド・ビーンストックFred Beenstock(穀物商の息子)-Chi Cao/Mateo Kemmayer
アルバート・プロッサーAlbert Prosser(弁護士)-Jonathan Payn/James Grundy/Rory Mackay
ヘップワース夫人Mrs Hepworth(地元の名士)-Marion Tait/Andera Tredinnick
救世軍Salvation Army-Angela Paul, Nao Sakuma,Lei Zhao, Joseph Caley, Tyrone Singleton, Kosuke Yamamoto/Samara Downs, Momoko Hirata, Josephine Pra, Joseph Caley,Alexander Campbell
呑み友達、医師、市民、看護婦、借金取り-Artists of Birmingham Royal Ballet

「危険な関係」がロンドンで上演されたとき、新聞批評の中で引き合いに出されていたのが、マクミラン作品とこの「ホブソンズ・チョイス」でした。マクミランはDVDなどで見ることは出来ますが、後者はバーミンガム・ロイヤル・バレエのオリジナル作品であり、シアターTVなどでの放映を除けば日本では殆ど見る機会の無い作品です。今回幸運にも複数回見ることが出来たので、作品内容と感想を書いてみました。

「ホブソンズ・チョイス」はデヴィッド・ビントリーによって89年に発表されました。原作は英国の劇作家ハロルド・ブリグハウスによって1916年に発表された全四幕の戯曲で、"A Lancashire Comedy"という副題が付いています。スコアはやはりランカシャー出身の作曲家ポール・リードPaul Readeによるオリジナルです。

Hobson's Choiceという言葉は元々「えり好みの出来ない選択」を意味する諺で、中心人物であるヘンリー・ホブソンが陥る状況も暗示しています。舞台となるのはマンチェスターに程近い街サルフォード。時代は1880年のヴィクトリア朝。

(場面ごとのト書きはプログラムより抜粋。以下、敬称略で失礼します。なお、作中の台詞は全て筆者の脳内吹き替えであり、BRBおよびダンサーとは全く関係ありませんのでご容赦ください。)


第一幕

躍動感にあふれた前奏曲に続いて幕が開くと、内幕に描かれた店並みが現れる。やや下手よりに緑の窓枠の付いた店があり、扉上部に「Boots Hobson Shoes」という看板が下がっているのが見える。時刻は夜。少し霧雨。

やがて内幕も引き上げられ、靴屋の店内が現れる。下手にショウウィンドーで挟まれた戸口があり、すぐ傍にコートと傘用のスタンドが置かれている、奥には天井まで靴箱がつめられた戸棚とカウンター。机上には台帳と羽ペンが見える。右手奥には踊り場つきの階段があり、寝室に通ずるドアが見える。上手の手前にもドアがあり、キッチンなどに通じているようだ。ドアの前にはテーブルと何客かの椅子がおかれている。

突然戸口が開きコートを羽織った初老の男が現れる。この靴店の主ヘンリーなわけだが、明らかにものすごく酔っており、登場するなり戸口にへたり込む。そのままポケットから酒瓶を取り出し、よろよろとコップに注いで客席に向かって乾杯、そして一気飲み。ついでにしゃっくりしながらよろよろとコートを掛ける。

すると二階の扉が開いてガウン姿のマギーが現れる。いつものことで馴れたのか無表情に父親に近寄ると酒ビンを取り上げて、寝室に引き上げるよう命じる。ヘンリーはおとなしく従うものの、階段を滑りそうになったり踊り場の手すりから身を乗り出したりと危なっかしいことこの上ない。

挙句の果てに敬礼までして、「どうだ、俺は偉いんだぞー。」 「お父さん、わかったから早く寝て。」 アホ親父とは対照的に、どこまでも冷静な娘だ。やがて彼女は店内を見渡して確認した後、蝋燭を吹き消し扉の向こうに消える。

第一場 ホブソン靴店
Henry Hobson's Boot Shop

日差しが差し込んできて朝が訪れる。店先にベージュのスーツ姿の若い男が現れて店内を覗き込む。末っ子ヴィッキーの彼氏のフレッドである。タイミングよく、ヴィッキーが踊り場に現れる。赤い線の入った白い上着に緑のスカート姿。フレッドの姿を認めると椅子を引きずってきて戸口に駆け寄り、ガラス越しにキス。扉を開けると店の呼び鈴が鳴り、あわてて入ってきたフレッドが椅子に飛び乗ってベルを止める。そのままピルエットしながら飛び降りて、パ・ド・ドゥが始まる。

ソプラノ・サックスを強調した、弾むような音楽で二人が連れ立って踊る。ここ面白いのが二人とも駆けっこをするようなステップを踏んだり、お尻を突き出したまま両足をそろえて後ろ向きに飛んだりしている。いかにも若々しくて可愛い感じだ。

感極まったフレッドはヴィッキーにキスするが、彼女はいきなりビンタを食らわす。「あたしは軽い女じゃないわよ!」とすねてみせるヴィッキーだがすぐ気を取り直し、再び踊る。

ここで「マノン」を髣髴とさせる、「男性が女性の胴体を持ち上げて女性が逆さまになる」振りもあったりするが、トウの形や動作はめちゃくちゃコミカルである。あとするりと床を滑った女性が男性の足をくぐり抜けるという振りもあった。

と、二階からマギーが降りてくる。白いブラウスにブルーグレーの細いネクタイで黒地に藤色の花柄のスカート。妹たちが通常の肌色ストッキング+ピンクのトウシューズであるのに対して、彼女のストッキングとトウシューズは黒で統一されていていかにも毅然とした感じ。

しかしそんな彼女にお構いなくパ・ド・ドゥは続く。テーブルと階段の間が狭いのに、その間を連れ立ってピルエットしてリフトがある。見てるこちらは結構ハラハラする。

最後にフレッドはヴィッキーを右手でリフトして左手で力瘤を作って見せる。それでもってヴィッキーは嬉しげに指で二の腕をつついたりして、バカップルぶりを発揮してます。

やがてさすがに見かねたのか、マギーはスタスタと近づいて「くつ買わないなら帰ってくれない?」と戸口を開けて顎をしゃくる。タイミングよくも二階からヘンリーが出てきたため、フレッドはあわてて逃げ出す。

親父は当然ながら二日酔いなわけで、頭を抱えてずるずると降りてきて娘達が朝食を準備してくれたのにもかかわらず、吐き気を覚えてあっさり退場する。まあ朝食を準備しているときも、娘達はフォークや椅子などをわざと音を立てて置いていじめたり、結構シニカルだ。

呆れながらマギーが追いかけていった直後、次女アリスの彼氏アルバートが来店する。黒いスーツに黒い帽子、手には花を持っている。

ヴィッキーがアリスを呼びに退出した後、アルバートは帽子を脱いで花を渡す練習をしている。「こうかな?いやこれはおかしいな…そうだ、こうしよう!」と予行練習ばっちりだが、気づかないで頭に花を乗せたまま帽子を被ってしまったので、「あれ?花はどこに行ったんだ?」とパニック状態に。音楽もそれに合わせてアップテンポとなり、『モンティ・パイソン』の『バカ歩き省』(チャウ注:"silly walk"。パイソンズ、ジョン・クリーズの代表芸)を髣髴とさせる変なステップを踏みながら花を探す。どうもこの人はクソ真面目で少しずれた性格とみた。

そんな最中、オレンジのスカートに同系色の淡いブラウス、青いリボンタイを付けているアリスが降りてくる。が、花を探し回るアルバートは気づかない。

ようやく彼女の存在に気づいて慌てて帽子をあげて挨拶すると花が落ちてくる。嬉しげに花を拾い上げたアリスとアルバートのパ・ド・ドゥ。でもアルバートの動きが早くてアリスはついていけない。動きは社交ダンスのようなのにアリスはぶんぶん振り回されている。極めつけに「ドン・キホーテ」よろしく両腕を広げてポーズを取るアルバートと、その右脇下でぽてっと前にずり落ちてしまうアリス(花つき)。それでも最後にはテンポがあって来て、コーダでびしっと決める。

と、再びマギー登場。しばし二人を眺めた後、やおら奥から茶色の革靴を取り出してくると、アルバートを捕まえて椅子に押し込むと靴を履き替えさせる。「どうですか?ちょうど良いサイズだと思うんだけど。」

履き心地を試すアルバート。「…まあ、そうかな。」 「じゃあお代は1ポンドになります。」 「って、ちょっと!買わないよ。僕はただ…。」 だが折悪しくヘンリーが戻ってきて、胡散臭いまなざしを向けるので慌てて客の振りをする。「…これ下さい。」 そして慌てて退出する。

入れ替わりのようにこの店一番の上客、ヘップワース夫人が従者を連れて登場。とたんに低姿勢になってもみ手をする親父。うーん、俗物的だ。その様子を見た妹二人がこっそり親父の真似をして笑っている。夫人は履いているブーツを見せて、誰がこの靴を作ったのかと聞く。

当然ながら店に入っていない親父がわかるはずもなく、マギーが応対することになる。そこで彼女はカウンターを叩いて靴職人のウィルを呼び出す。するとカウンター中央部が開いてエプロン姿のウィルが姿を現す。どうやらカウンターの奥が地下の工房に繋がっているようだ。

お咎めでもあったのかとびくびくしているウィルだが、ヘップワース夫人は彼の仕事ぶりを褒め、これからも彼女の靴は彼だけに作ってほしいと言い渡す。ついでにもしも店を変えるなら連絡してほしいと自分の名刺を渡す。後にこの名刺がカギになるのだがそれは第二幕でのこと、ウィルは周囲をうかがって仕事場へと退散する。「彼ってまるでウサギみたいね」とからかう夫人。

この辺はダンスなしで、マイムのみで展開する。ただ話の流れとしてはこれがスムーズだし、分かりやすい。両手を頭上に上げてひらひらさせる「ウサギ」の動作、これはマイムと言うのだろうか?人によっては前歯を突き出して、顔まねまでしていて、かなりウケる。

さて夫人退出後、再びフレッドとアルバートが店を訪れて、結局ヘンリーとひと悶着がある。男の子二人は複雑な動線をピルエットやジャンプしながら交差して、さらにその線上にヘンリー+アリス+ヴィッキーが右往左往するので見ていてハラハラする。これは不思議。古典作品の群舞を見るときよりそう感じるから。要は動きが早くて、しかもそれぞれが異なる線上に動くので、一種即発な状態に見えてしまうのである。

あと最初に店に飛び込んできたフレッドがヘンリーの姿を見て後じさりをするのだけれど、チー・チャオはムーン・ウォークをしていた。別の日に演じたマテオ・クレマイヤーは後ろとびをしていた。 とりあえず男二人はほうほうの呈で店を飛び出し、娘二人は釈明することになる。ここもマイムのみで進行。ただこれは手を伸ばす+右手で左薬指を指差すという単純な仕草でわかりやすい。

いずれ結婚するつもりなのかという質問にうなずく二人に対して、ぜーったい結婚させないと宣言する(もちろん動作のみ)父親。と、音楽が早まり、アリスとヴィッキーが交互にポワントでパを繰り返しながらヘンリーに猛抗議。何となく大声でがなっている風に見えて面白い。挙句の果てに、二人はヘンリーの両肩をつかんで足を宙に投げるようにしながらぐるぐる回る。そこにヘンリーの飲み友達が登場し、まだ明るいうちから呑みに誘う。

チャンス!とばかりに二人を振り払って戸口へ向かう親父の前に、今までカウンターに引っ込んでいたマギーが立ちふさがる。「お父さんがこの子達の結婚に反対なのは分かったわ。じゃあ私はどうなるの?」 妹とは対照的にマイムのみで、自分も結婚願望があることを伝える。

これに対して、ヘンリーは何ともいえない顔で客席に向かって首を廻らした後、笑い出してマギーの頭をポンっと撫でて呑みに行ってしまう。要は「嫁に行くには年をとりすぎて、貰い手がないよ」と思っているわけである。まあ失礼な。しかも妹二人も「ぷっ」という表情で笑っている。

マギーは相変わらず無表情だけど明らかに怒っており、妹二人に「さっさと仕事する!」と命令して自分は倉庫に物を取りに行く。

さて、店番より自分たちの将来を考えて頭を抱えている妹達の所へ、再び彼氏達がやってくる。まあ悩んでいても仕方ないので二組の踊りが繰り広げられる。ちなみにこの二組はとても対照的だ。アリス+アルバートは背が高く、ヴィッキー+フレッドは小柄。とりわけ、アリス役第一キャストのシルヴィア・ヒメネス(チャウ注:新国立劇場バレエ団「カルミナ・ブラーナ」で、運命の女神〔フォルトゥーナ〕役を踊る予定)はまじでかい。170以上ありそうだ。しかも美人で迫力がある。対するヴィッキー役のキャロル-アン・ミラーはちっちゃくて可愛い。他のキャストはどうだろうと思ったら、第二キャストのレイ・ツァオはもっとフェミニンな感じのアリスだった。

と、上手ドアから山のような靴箱を抱えたマギー登場。箱のせいで前が見えてないのをいいことに、カップルズはそのまま外へ退散する。店番しろよ。取り残されたマギーの方は微妙に肩を落としている。古典的ヒロインのように悲嘆にくれて泣いたりはしないが、ただそれだけに哀しみが漂う。

イザベル・マクミーカンはものすごい無表情の中に哀切感を見せていた。彼女は最初登場したとき、とても老けていてぎょっとしたのだが、この辺から段々気にならなくなってきた。プログラムで見る彼女はとても綺麗な顔立ちなのだが、舞台で登場した時は、強気で落ち着き払った空気を漂わせていて、いかにも「未婚で30代の19世紀のイギリス人女性」という感じだった。原作のマギー・ホブソンに一番近い役作りをしていたのではないかな?と思う。

対して三日目に見たアンブラ・ヴァッロは、より目が大きい顔立ちのせいもあってか、最初から「可愛いけど愛想なしで魅力を損なっている人」という感じで、このシーンでもマクミーカンより直接的に「悲しい」という感情が前面に出ていた。

それでなくてもマギー役は難しいと思う。マノンのように考えなしの10代少女ではないし、「三人姉妹」のオリガのように人生に絶望しきっているわけでもない。靴屋の仕事をするのは好きだし商才もある。ただ、なまじ頭が良いだけに父親の姿や周囲の男性のアホさが目に付いてそうで、男性優位の社会で生きていくことの難しさを感じている。この時代、結婚しない女性のできることはたかが知れているし、行き詰まりを覚えているといったところだろうか。何だか今の女性に通じるものがあるなあ。

少し溜息をついた後、店じまいをして階段を上っていく。と、ここでカウンターの上げ戸が開いて帰り支度のウィルが登場。いかにも労働者風なハンチング帽にジャケットを羽織り、今日仕上がった靴を入れたバスケットを抱えて舞台中央に出てくる。階段上のマギーは興味を引かれたように、こっそりしゃがみこんで様子をうかがう。

さて、観察対象となったウィルは上手の椅子に座って、バスケットから靴を一足ずつ取り出し、それを買ったお客さんの姿を想像して喜んでいる。まず幼児用の小さな靴を両手に持って飛び跳ね、次に婦人用の靴を持ってスイングするように手を泳がせる。そして乗馬靴を片方だけ履いてみて馬に乗った気分で跳ね回る。

最初のびくついた様子から一転してものすごく嬉しそう。しまいには椅子ごとはねて転げ落ちるがニコニコしている。本当に自分の仕事に誇りを持っていて、靴を作るのが好きなんだなあという感じが出ている。

再び椅子に座りなおしたウィル。今度はクロッグ(木靴)を取り出す。といっても、「ラ・フィユ・マル・ガルデ」に出てくるようなタイプではなくて、靴底だけ木になっているタイプで、外見は革靴と変わらない。

吹奏楽器主体のメロディが流れ出して「クロッグ・ダンス」が始まる。もう笑顔全開で可愛いです。ポーズを取って歩き、次の瞬間には跳ね上がる。音楽とぴったりとあったタップを踏みながら、帽子を投げてくるくる回る。何というか、「萌え」ってやつですか?わたくし、保護欲を掻き立てられましたね。

閑話休題。さて、楽しげに駆け回っていたウィルだが、階段から降りてきたマギーと鉢合わせして仰天する。すると、マギーは緩やかな動作でウィルの帽子を拾い、かぶせてあげてまじまじと彼の顔を見る。ちなみに、ある公演で、ウィル役のクリストファー・ラーセンが帽子を放り投げすぎて、そのまま壁に取り付けたランプの傘に帽子が引っかかって落ちてこなかった。どうするのだろうと思ったら、マギー役のアンジェラ・ポールは帽子をかぶせるはずのシーンでウィルの髪の毛を撫で付けてあげて、顔を覗き込んでいた。

さて、そんな彼女に戸惑ったウィルは慌ててクロッグを脱いでバスケットに放り込み、へこへことマギーに渡す。「す、すみません、今日出来上がった分です。」

そのまま戸口に駆け寄るが靴を履いてないことに気づいてこそこそと戻ってきて靴を履く。今度こそ逃げようとするが、マギーはわざとバスケットをボスッと落とす。

しょうがないのでウィルが駆け寄ってきて拾い上げようとするが、マギーは素早くウィルの両手をつかんでまじまじと見つめる。手相を見ているわけではなく、品定めをしているのです。ここに至ってマギーが初めてポワントで立ち、ウィルの手をつかんだまま踊りだす。

彼は明らかに戸惑っている。「何で俺、こんなことになってるの?」と彼女を支えながらもへっぴり腰。 隙あらば逃げ出そうとするのだけれどマギーはがしっと肩をつかんで放さない。踊るうちに、彼女の表情が次第に和らいで笑顔になってくる。しまいにはかぶせてあげた帽子をふざけて投げ上げたりする。かわいいです。

音楽が盛り上がって彼女は彼に対して体をのけぞらし、求愛する。おお、積極的な展開だ。因みに原作台本では”You’re my man”(直訳:あなたは私の男よ)と言っている。

いきなりの展開に仰天するウィルは「あなたは雇い主のお嬢さんだし、俺は地下が仕事場の職人ですよ?」と訴える(もちろんマイムだ)。要は住む世界が違うと言いたいのだ。

しかしそんなことで怯む彼女ではない。いったんはうつむくものの、「そうかもしれないけど、そんな事構わないわ。私達には未来があるのよ」と逃げようとする彼を再び捕まえてくるくるとまわる。アダージオが盛り上がるにつれてついウィルはマギーを抱きしめる。慌てて手を放すものの、待ってましたとばかりに唇を突き出してキスを要求するマギー。

後ろに両手を伸ばして背を反らして何だかかわいい。けれどもあまりの事態に気持ちの収集が付かないウィルはよろよろと椅子にへたり込んでしまう。

追い詰めてはかわいそうと思ったのか、いつもの態度を取り戻したマギーはバスケットを拾い上げ、落ち着き払って帳簿付けを始める。これ幸いとウィルは戸口に向かうが、最後にマギーとばっちり眼が合う。「言っとくけれど今の言葉にうそはないわよ。」 「………。」 文字通りウサギのようにウィルが飛び出していって第一幕が終わる。

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