Club Pelican

THEATRE

「オン・ユア・トウズ」
(“On Your Toes”, Music by Richard Rodgers , Lyrics by Lorenz Hart ,
Book by Rodgers & Hart and George Abbott)


第2幕

〔第3場〕 “Slaughter On Tenth Avenue”のリハーサル。セルゲイ、ペギー、ジュニア、フランキーが見守る中、シドニーの弾くピアノに合わせて、コンスタンティンとヴェラが踊っている。コンスタンティンの表情は面倒くさそうで明らかにやる気ナシ。ふたりは踊り続けるが、コンスタンティンの足の動きがどこかおかしく、次第にふたりのタイミングが合わなくなる。ヴェラはコンスタンティンの体に何度もぶつかり、彼の脚につまずきそうになる。ついに癇癪を起こしたヴェラがコンスタンティンの脚を蹴っ飛ばし、リハーサルは中断。

コンスタンティンは逆ギレしてシドニーを怒鳴りつける。「きさま、ちゃんと僕のステップをカウントして、足の動きに合わせろよ!」ヴェラがすかさず反論する。「いいえ、彼はちゃんと私の足の動きに合わせているわ。」苛立ったコンスタンティンは、いきなり「だいたい、その女はなんだ?」と、今度はリハーサルを見学していたフランキーに怒りを向ける。ペギーがなだめるように言う。「私のお客さまよ、コンスタンティン。」

ジュニアがセルゲイに申し出る。「モロシン氏に教えてさしあげてもいいでしょうか?」セルゲイはうなずく。ジュニアは背を向けているコンスタンティンに近づいて言う。「モロシンさん、ステップをお見せします。」 ・・・・・・・・・。 奇妙な間。観客は大笑い。そりゃそうだ。あの偉大なイレク・ムハメドフに、アダム・クーパーごときがステップを見せる、なんてね(笑)。コンスタンティンは沈黙して答えず、無表情のままゆっくりとジュニアに向きなおる。

ムハメドフ、じゃない、コンスタンティンは怒りのこもった口調でゆっくりと言う。「ステップを見せる、だとお〜?」セルゲイは必死にコンスタンティンをなだめる。「コンスタンティン、落ち着いてくれ。」 だがジュニアは「アレクサンドロヴィチ氏はかまわないと言いましたよ」と言い、はっきりと指摘する。「バロノヴァさんは拍子にきちんと合っています(ヴェラ、満足げな笑いを浮かべる)。でも、あなたは拍子に外れています。」

コンスタンティンはもう噴火寸前。「なんだと!?」セルゲイが「もういい!」と割って入る。コンスタンティンは自分の脚を叩いて断言する。「僕はこの生涯、一度たりとも拍子を外したことはない!」 しかしジュニアは更に強い調子で言う。「あなたは拍子に外れています!だから僕があなたに・・・」と言いかけたところで、とうとうコンスタンティンが大爆発、ジュニアの胸ぐらをつかんで締め上げる。周りの者があわててふたりを引き剥がす。

とりあえず収まったか、と思った瞬間、コンスタンティンはネクタイを直すジュニアの背後から再び襲いかかり、ジュニアを床に押し倒して何度も殴りつけ、更にさんざんケリを入れる。だがジュニアも猛反撃、自分を羽交い絞めにするコンスタンティンの脚を思いっきり蹴っ飛ばし、コンスタンティンの髪を引っつかんでその頭をぐっと持ち上げ、ふたりはそのままくんずほぐれつの大乱闘になる。イレク・ムハメドフとアダム・クーパーの乱闘。こりゃ面白いわ。なんかリアリティがあるのよね〜。ロイヤル時代のふたりを知っている人はさぞ笑えただろうな(このふたりは実際は仲が良いみたいだけどね)。

セルゲイは駆けつけた楽屋口番に「警察を呼べ!」と叫び、ヴェラはやめてやめて、と小声で言い(でも自分は安全地帯に避難している)、シドニーはコンスタンティンを止めようとしてふっとばされ、床においてあった椅子を巻き込んで倒れ、ペギーとフランキーが彼を助け起こす。

やがてセルゲイが舞台装置を安定させるのに使う砂袋をひきずりながら、格闘するコンスタンティンとジュニアに近づく。セルゲイは力いっぱい砂袋を持ち上げ、それを振り下ろす。重い砂袋はコンスタンティンの後頭部を直撃、ムハメドフ、いやコンスタンティンは寄り目になりながら(笑)、ふらふら〜、ばたん、と気絶して床に倒れる。

ヴェラは気絶したコンスタンティンに躊躇なく真っ直ぐに駆け寄る。「おお、セルゲイ、なんてことをしたの!?私の美しい恋人が!」 結局この女はコンスタンティンが好きなんである。警官がやってくる。「何事です?」 セルゲイはあわてて弁解する。「違うんです、警官殿、これは間違いです。」 警官「間違い?(倒れているコンスタンティンを指さして)じゃあ、あれは何です?」

ジュニアもごまかし笑いを浮かべて言う。「そうです、警官殿、私たちはバレエのあるシーンを練習していたんです。彼は疲れて倒れちゃっただけなんです。」 警官「シーン?」 ジュニア「そうです、ほら!僕はあの男を殺すんです。・・・こんなふうに!」 言いながら、ジュニアは倒れているコンスタンティンやペギー、セルゲイたちの間を縫うようにして、即興で踊ってみせる。クーパー君、狭いスペースの中にも関わらず、両腕を伸ばし足を高く上げてダイナミックに、かつコミカルに踊っていました。ジュニアは最後に後ろ向きに何度か回転しながらジャンプして着地し、両手を広げてポーズを決め、警官に言う。「ほらね!」 観客、笑い声とともに軽く拍手。

警官「なるほど。いいバレエですな。上演の際には僕にチケットをいただけませんかね。」セルゲイ「警官殿、あなたにボックス席をプレゼントいたしますよ!お騒がせして申し訳ありませんでした!」 ペギー「本当に、なんとお詫びを申し上げていいのか分かりませんわ!」

警官が去った後、セルゲイはまだ倒れているコンスタンティンをのぞきこむ。「コンスタンティンは大丈夫かね?」 ヴェラはコンスタンティンの頭を手で支えながら答える。「ああ、セルゲイ、彼は大丈夫よ。彼は踊れるわ。頭がダメになっただけだから!」 意識はいちおう戻ったものの、足元のおぼつかないコンスタンティンは、みなに支えられながら去っていく。

セルゲイはペギーを部屋の隅に呼び寄せてコソコソ話をする。「ペギー、ちょっと話があるんだが。・・・我々は、ジュニアにチャンスを与えてみてはどうだろう?」 ペギーはガッツポーズをして答える。「もっちろんそうすべきよっ!!」

セルゲイはジュニアに近づいて話す。「ジュニア、主役として踊ってみないかね?」 ジュニア「主役!?無理ですよ!」 フランキーがジュニアを促す。「ジュニア、言いなさいよ!」 ペギー「何を?」 フランキー「彼はダンサーだったんです!ドーラン一座の主役だったんです!」 ペギーは両手を叩いて嬉しそうに叫ぶ。「あのドーラン一座の!?」 だがセルゲイはピンとこない顔。「ドーランって誰かね?」 ペギー「ジュニア、私はあなたが12歳の時の舞台を観たわ。」 セルゲイ「これで決まった。そうだな、名前は・・・ジュニアヴィッチ・ドーランスキーだ!(←やっぱり無理矢理ロシア人にする)」

〔第4場〕 そして“Slaughter On Tenth Avenue”公演初日がやってきた。コンスタンティンが黒いタキシードに白いマフラーを引っかけた姿で楽屋口に現れる。彼は楽屋口番に言う。「バロノヴァ嬢に僕が来ているって伝えてくれ。」 楽屋口番「彼女は興奮状態です。(ヴェラのヒステリックな口調と身振りを真似て)『彼ったら遅すぎるわ!』、『彼ったら遅すぎるわ!』・・・って、彼女は2回言いましたぜ。」 コンスタンティン「とにかく、僕がここにいると伝えてきてくれ。」

ガウンをまとったヴェラがコンスタンティンに走り寄る。「ああ、なんてハンサムなの!あなたが来てくれるなんて嬉しいわ!来てくれないと思っていたもの!」 コンスタンティンはヴェラを抱きしめる。「大事な初日だもの、もちろん来るさ、君のために最前列を取ったんだぜ。」 ヴェラ「ああ、私は幸せだわ!」

コンスタンティン「あの音楽教師が踊りだしたら、俺は大ブーイングしてやるんだ!(口に手を当てて正面を向く)ブーブーブー!!」 ヴェラ「だめよ、だめ。」 コンスタンティン「(また口に手を当てて正面を向いて)『おまえは拍子を外している!ブーブーブー!!』」 ヴェラは甘えた口調でなだめる。「だめ、だめよ。ねえ、舞台が終わったら私のところへ来てくれる?」 コンスタンティン「もちろん行くよ。・・・だが、君はあいつと寝たんだろ?」 ヴェラ「いいえ!いいえ!あれはただのジョークよ(←はあ?)。私が愛してるのはあなたなのよ。」

ふたりはむむむ〜っと熱いキスをする。そこへマフィアらしい3人組の男がやってくる。マフィアたちはお熱いふたりの横で少し困惑気味。マフィア「取り込み中かね?」 コンスタンティンは唇をヴェラの唇から離すと「話がある」と言い、それからまたむむむ〜っ、と彼女とキスをする。

ようやくヴェラがコンスタンティンから離れる。しかし、彼女は去っていく途中でふと彼の方を振り返ると、切なそうな表情でまた走り寄ってきてコンスタンティンに抱きつく。ふたりはまたまたむむむ〜っ、と情熱的なキスを交わし、ヴェラはフトモモをコンスタンティンの脚に絡ませ、コンスタンティンはヴェラの背中や尻を撫でまくる。かと思ったら、ヴェラはコンスタンティンからぱっと身を離し、今度は平然とした顔で一顧だにせず、しゃなり、しゃなりと気どった様子で去っていく。

ヴェラの姿が消えてから、コンスタンティンはマフィアに話をもちかける。「君にぴったりの仕事だ。ある男を殺ってほしい。俺自身が首を絞めて殺してやりたいところだが。」 マフィア「誰をだ?」 コンスタンティン「あの『ジュニアヴィッチ・ドーランスキー』とやらをだ!!」 マフィア「ダンサーか。」 コンスタンティンは吐き捨てるように言う。「似非ダンサーさ!!」 マフィア「問題ない。だが、金がかかる。」 コンスタンティン「金ならある。」 マフィアの男はスゴミをきかせて言う。「契約成立だ。裏切るなよ。」 コンスタンティンはたじろぎながらも、金を工面しに走り去る。

セルゲイが楽屋口にやって来る。楽屋口には初日をお祝いする花束や花籠がいくつも置かれている。楽屋口番は椅子に座ってウイスキーをちびちび飲みながら、のんびりと新聞を読んでいる。セルゲイは笑いながら彼に話しかける。「いい仕事を見つけたものだね!バレリーナの機嫌を取らなくてもいい、チケットの売れ行きを気にしなくてもいい、ただ一日中、ここに座っているだけ!」 楽屋口番「まったくそのとおりですよ!」

セルゲイは彼に頼む。「この花をミス・ポーターフィールドのところへいくつか持って行って、もうすぐグランド・エントランスだと伝えてくれ。心配ない、僕がここに座って楽屋口を見ているから。」 楽屋口番が花籠を両手に抱えて去ると、セルゲイは同じように椅子に座って新聞を読みながら、“Quiet Night”をゆっくりと口ずさむ。

彼が「あなたには私の考えていることが聞こえるでしょう」と歌うと、いつのまにかやってきていたペギーがその後をひきとって歌う。「あなたには私の胸が躍っているのが見えるでしょう。」 ふたりは一緒に歌う。「低くささやいて。でもイヤだとは言わないで。こんなにも静かな夜なのだから。」 セルゲイは穏やかな口調でペギーにつぶやく。「ペギー、“夜”を聞こう。」どこからか“Quiet Night”が流れてくる。ふたりは静かにそれに聞き入る。「・・・こんなにも静かな夜なのだから。」 歌の終わりと同時に、セルゲイはペギーをそっと抱き寄せて彼女にキスをする。

セルゲイは照れ隠しのように、とたんに陽気な声で「さあ、ペギー、グランド・エントランスに臨むとしようか!」と言って先に出て行く。しかしペギーは、セルゲイにキスをされた姿勢のまま身動きひとつしない。彼女は半眼を閉じたまましばらく呆然としていたが、やがて机の上に置いてあったウィスキーのグラスを手に取ってぐっと口に運ぶ。“You Took Advantage Of Me”の前奏が始まる。ペギーはセルゲイが去った後を睨みつけながら、つぶやくように歌い始める(歌詞はチャウの姉に書き取ってもらった。姉よ、ありがとう)。

「春になると、あたしの気持ちはひどく落ち込んで、そしてあたしの注意は自分の人生の退屈さに向かってしまう。あたしにはお酒の助けが必要だったんだわ。あんたがあたしにこんなことをする前に。ああ、あなた、あたしを引っかけてやろうなんておやめなさい。さもなきゃ、あたしはあんたに呪いをかけて仕返ししてやるわよ。あんたが現れたのは、あたしをメチャメチャにするためだったのね。結局はつまりそういうことだったのよ。」

曲がゆっくりしたテンポのものに変わる。観客たちが手や足をかすかに動かしてリズムをとりはじめる。「あたしはこのとおりのロマンティックなバカな女で、失敗しないようにしたけどムダに終わっちゃったわ。あたしにはそんなつもりはなかった。あんたがあたしをメロメロにさせたのよ。なぜって、あんたがあたしを誘惑したんだから!」

ペギーは歌いながらウイスキーを次々とグラスに注いではそれを飲み干す。“The Heart Is Quicker Than The Eye”で「ママから男とは酒を飲んではいけない、と言い聞かされてきたから、いまだにレモネードしか口にしない」ペギーは、ここで初めてママの言いつけを破ったんである。一見パワフルでクールな大人の女にみえるペギーも、結局はこの年になるまでママの言ったことを素直に守ってきたオクテな女性だったのだ。

途中で、待ちあぐねたセルゲイが再び楽屋口に戻ってくる。ペギーがべろべろに酔っぱらっているのを発見したセルゲイは、なだめるようにペギーの手からウイスキーのグラスを取り上げる。しかしペギーはすぐにグラスを取り戻すと、またそれを一気にあおる。セルゲイは困ったような表情を浮かべて楽屋口番の椅子に腰を下ろす。

ここからへべれけに酔っぱらったペギーのパフォーマンスがとてもユーモラスで楽しい。Kathryn Evansは表情や身振りで演技しながら、歌声や歌い方でも演技している。ペギーはセルゲイの横に立って歌い続けるが、段々とろれつが回らなくなってきている。「あたしは太い幹にブラ下がったリンゴみたいなもんよ。それなのに、あんたときたら、なんでかあたしを揺さぶって(shake)落とそうとするのね!」 同時に、ペギーは肩にかけたパールグレーのビーズが縫いつけられたケープの両端を握り締め、それをぶんぶんと激しくshakeする。ビーズが飛び散るほどの激しい動きに、観客は大笑い。足元もおぼつかなくなったペギーは、ロボットみたいにガクガクと歩く。「で、あたしをこんなふうに打ち負かしてどうしようっていうのよ!なぜって、あんたはあたしを夢中にさせてしまったのよ!」

ふと、ペギーはその前にある机の上にぴょんと飛び乗って座ると、セルゲイの方に顔を突き出し、彼にからむように歌う。「あたしはすっかり混乱して、ひじと耳の区別もつかなくなってしまったわ。あんたがいないときには苦しくてたまらない。でもあんたが傍にいるときにはもっとひどくなる。」 ペギーはドレスの裾を膝の上までパッとまくりあげる。仰天するセルゲイ。ペギーは足を組みかえてすばやく裾を直すと、机から飛び降りる。「ここはあたしの部屋(ここの歌詞の意味がよく分からない。ご教示請う)。ぼうや、あんたはなにも遠慮はいらないのよ。だから、ドアに鍵をかけて。そしてあたしをあんたのものだと言って!なぜって、あんたがあたしを誘惑したんだから!」

ペギーはセルゲイの腕を取り、ようやくグランド・エントランスに向かう。ペギーはセルゲイの体に寄り添いながら、「あんたがあたしを誘惑したのよ」と何度も甘えた声音で歌う。そして最後、ペギーはいきなりセルゲイの両腕をつかみ、自分と真正面に向き合わせると、「なぜって、あんたがあたしを誘惑したんだから!」と叫び、セルゲイの首を、がっ、と抱きしめる。同時にライトが消える。

うおおおおおっ!!最高〜〜〜!!カッコイイ〜〜〜!!観客は大興奮、万雷の拍手、喝采、ブラボーコール、歓声が一斉に会場中に響きわたる。本当にすばらしかった!いちばんの歌の見せ場はここ!毎回とても楽しみにしていた。Kathryn Evansの圧倒的な歌唱力と迫力、卓越した表現力にはすっかり呑まれてしまった。Evans の歌う“You Took Advantage Of Me”が収録されたCD(“The Musicality of Rodgers and Hart”, JAY Records, CDJAZ9013 )があるけれども、この公演で歌われたものの方が、もっとアクが強くて凄い迫力があった。

実は、“ON YOUR TOES”でいちばん盛り上がったのは、Irek Mukhamedovの超絶技巧でもなく、Adam Cooperの細緻なタップやダイナミックな踊りでもなく、Kathryn Evansの歌うこの迫力満点の“You Took Advantage Of Me”だったのである。

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