Club Pelican

THEATRE

「オン・ユア・トウズ」
(“On Your Toes”, Music by Richard Rodgers , Lyrics by Lorenz Hart ,
Book by Rodgers & Hart and George Abbott)


第1幕(つづき)

舞台装置の転換に合わせて、ここで短い間奏曲が入る。この短い間奏曲が私は好きだったんだけど、CDには入ってない。

〔第6場〕 ロシア・バレエ団公演「王女ゼノビア」初日。開演が迫っているにも関わらず、コンスタンティンは黒いレッスン着にガウンをひっかけたままの姿。初日の舞台挨拶用のタキシードを着たセルゲイがやって来る。セルゲイは驚いて言う。「コンスタンティン、まだこんなところにいたのか!」コンスタンティンは悠然とストレッチをしながら、傲岸不遜な調子で「そう、こんなところにだよ!」と答え、更に「散歩に行ってくる」と急に外へ出て行ってしまう。セルゲイ「リハーサルには遅刻するなよ!まったく天才ってやつは!私をいつもいい気分にさせてくれるよ!」

そこへペギーが緊張した面持ちで足早にやって来て「セルゲイ!」と声をかける。セルゲイ「なにかあったのか?」ペギー「4人の奴隷役の1人が逮捕されちゃったのよ。」セルゲイ「なんだって?なんですぐ釈放するように警察にかけあわないんだ。」ペギー「もちろん、あらゆる手をつくしたわよ。でも、明日の朝にならないとどうにもならないって。」初日でただでさえ気が立っているセルゲイは激怒する。「明日の朝になってヤツが出てきたら、ヤツを絞め殺してやる!4人の奴隷は、君がなんとかしてくれ。まったく、なんて災難だ!」セルゲイは大声で怒鳴りながら行ってしまう。

新聞記者が取材に訪れる。記者「ポーターフィールドさん、ニューヨーク・タイムズの者です。開演前に取材させていただけないでしょうか。」ペギー「どうぞ、何でもお聞きください。」記者「『王女ゼノビア』ばかり上演なさっていますけれど。」つまりロシア・バレエ団は演目がマンネリ化していたのである。だからペギーは新しいプロジェクトを探していて、“Slaughter On Tenth Avenue”の上演に乗り気になっているというわけだ。ペギー「ヒット作ですから。でも、新しい企画を用意していますの。」

記者は興味深げに尋ねる。「ところで、アレクサンドロヴィチ氏は何を怒っておられましたの?何か問題が起こったとか?」ペギー「おほほほ、なんでもありませんの。初演の時はいつでもテンションが高くなるものなんです。」記者「でも『王女ゼノビア』はもう何度も上演なさっていますが?」ペギー「ニューヨークでは初めてですから。さあ、ヴェラ・バロノヴァにインタビューなさってはいかが?」ペギーは記者を促して楽屋へ行かせる。

ジュニアとフランキーが一緒にやって来る。ジュニアは黒いタキシード、フランキーはイヴニング・ドレス姿である。公演の観劇に訪れたのである。ジュニア「ミス・ポーターフィールド、今日の公演にご招待頂きまして、本当にどうもありがとうございました。それに来週公演にも出させて頂くことになって!」

ペギーはいきなり言う。「ジュニア、あなたは来週じゃなくて、今日出るのよ!」ジュニア「!?冗談でしょ?僕は振りをまだ覚えていないんですよ。」ペギー「あなた、経験を積みたいって言ってなかった?」ジュニア「言いましたけど。」ペギー「振りなんて、他の人に合わせて一緒に動いてりゃいーのよ。」んないーかげんな。ペギーは「ディミトゥリー!」と、団員のひとりを大声で呼び寄せる。

ジュニアはフランキーの手を握り、不安そうにつぶやく。「僕にできるだろうか?」フランキーは「チャンスじゃないの。がんばって!」と励まし、彼にキスをして客席へと去る。ペギーがディミトゥリー(Ewan Wardrop)をジュニアに紹介する。ディミトゥリーは裸の上半身に金銀の腕輪やネックレスなどの装飾品を着け、下は紫色に金糸や銀糸の刺繍が入った豪華なハーレム・パンツを履いている。ペギー「ジュニア、彼は宦官長(『先っぽをちょん切った男』?それで観客は笑ってたの?ご教示請う)の役よ。彼に話を聞いて。それからロシア人のフリをするようにね!」ペギーはジュニアに言い含めると、「やれやれ、なんてことなの!」と嘆きながらも、「うふふふ〜!!」と興奮した様子でまた足早に去っていく。Kathryn Evansはとてもエキセントリックな演技で、表情やセリフだけで観客を爆笑させていた。

ディミトゥリー「君は4人の奴隷役の1人?」 ジュニア「そうらしいんだが。」 ディミトゥリー「じゃ、そうなんだろ。」 ジュニア「でもいきなり今日出る事になったんだけど。」 ディミトゥリー「じゃ、そうなんだろ。」・・・いいかげんなバレエ団だな〜。いきなりだが、Ewan Wardropは超イイ男である。見とれるほどの美男だ。私は2002年春のAMP「カー・マン」東京公演でルカ役をやっていた彼を何度か観たが、こんな声をしていたのね。なかなかシブイ声。うふ。

ディミトゥリー「よく聞いて。ストーリーはこうだ。王女は最高の贈り物をした男と結婚する。一人目の男はおもちゃの人形を持ってくる。二人目は宝石を持ってくる。三人目の男はサーベル・タイガー(もしくはシベリアン・タイガー)を持ってくる。でも貧しい青年には贈るものがない。そこで王女は自分の奴隷を贈り物として差し出すよう彼に助言する。その奴隷が君だ。さあこっちへ。」

ジュニアはディミトゥリーの後に続こうとする。が、途中でゴシップ紙の女記者に行く手を阻まれる。記者「お話を聞かせて下さらない?」ロシア人のフリをするよう言われているジュニアは、曖昧な笑いを浮かべながらこくこく、とうなづき、しばらくおいて答える。「・・・ダー。」記者が訝しげに尋ねる。「あなたはロシア人なの?」ジュニアはまた答える。「ダー。」記者「あなたの身の上を教えて下さらない?どうしてロシア・バレエ団に入団したんですの?」

さて困ったぞ。ジュニアは横を向いてしばらく考えた後、一気に話し出す。「え〜っと・・・僕は、ノヴゴロドのニシニ(?)で生まれました。僕の父は貧乏で、僕の母は貧乏で、ついでに僕も貧乏でした。僕がこーんなに(手を自分のフトモモの辺にやる)小さい子どもだったころ、ある日、僕はジャガイモを植えていました。そこへ、白馬に乗った貴婦人が通りかかりました。すると急に馬が乗っていた貴婦人を放り出して、あっという間に駆け去ってしまいました。その貴婦人は皇女タマーラ・・・タマローヴナだったのです!(←誰だよそれ)皇女は僕に言いました。」

ここでクーパー君、なんとウラ声のオネエ口調で話し出す!!「『なんて可愛いじゃがいもなの。ぼうや、これを私にくださらない?』」アダム・クーパーのウラ声&オネエ口調に観客は大爆笑。クーパー君はなおもウラ声で続ける。「『ああ、これで私の命は救われたわ。私はどうやってあなたに恩返しをしたらいいのかしら?』」クーパー君、今度は両手を組み合わせて必死に懇願するマネをする。「僕は言いました。『ただただ僕をどうかロシア・バレエ団に入団させて下さい!』と。・・・これが僕の身の上で〜っす。」ジュニアはそう言い捨てると、逃げるようにその場を走り去る。4人の奴隷役の1人(Mike Denman)がその後ろ姿に声をかける。「お〜い、ジュニア、体にも青い塗料を塗るのを忘れるなよ〜。」

ゴシップ紙の記者、今度はその奴隷役の1人をつかまえる。「ねえねえ、ヴェラとモロシンの関係はどうなっているの?」奴隷役の1人は得々と話し出す。「彼らは芸術家だからねえ。芸術家というものは、時にはうまくやるけど、時にはうまくやれない。ある日はラブラブ、次の日にはヴェラがモロシンの首を絞めて殺そうとしているって具合さ。」ペギーがそれを見つけ、彼をさりげなくどついて向こうへ追いやる。「あら、良い取材ができましたかしら?」「ええ。全部教えて頂けましたわ。」記者は嬉々として去っていく。

ヴェラが来て不思議そうに尋ねる。「ペギー、さっきジュニアが楽屋にやってきたわよ。どういうことなの?」ペギーはあわててごまかす。「おほほほ、それはサプライズよ!」ヴェラ「サプライズ?それはいいわね。私はサプライズがだ〜い好きよ!」

コンスタンティンが誰かを待っている。やがて黒い帽子にダーク・スーツというマフィア風な男が現れる。男は懐からぶ厚い茶色の紙包みを取り出してコンスタンティンに手渡す。「金は用意したぞ。今夜だな?」コンスタンティン「今夜だろう。」ギャンブルの約束らしい。男はすぐに立ち去る。

通りかかったペギーがそれを見とがめる。コンスタンティンは一瞬しまった、という顔をするが、金の入った包みをガウンのポケットに押し込むと、素知らぬ顔でストレッチをしてごまかそうとする。だがペギーは彼を問い詰める。「コンスタンティン、それは何なの?」コンスタンティンはワザとたどたどしい英語でぶっきらぼうに答える。「僕は偉大なダンサーであるばかりじゃないんだ。昨日、彼はギャンブルで多額の金をすった。そして今日、気前のいい僕は、彼のためにロシアの銀行から金を融資してやった。いいことだろ?」ペギーは皮肉たっぷりに言い返す。「いいことだわね!」

ペギーが去った後、コンスタンティンはウォーミング・アップをする。ここからはムハメドフファンのためのサービス・シーン。ムハメドフは両腕を伸ばして片方の脚をさっと横に差し出すと、そのまま片脚を真横に伸ばしたままぐるぐると回転し始めた。時おりかすかに膝を曲げて勢いをつけながら、何回も何回も何回も回転しつづける。体の軸は真っ直ぐでブレることなく、片脚は横90度(以上?)にピンと伸ばされたまま、一定の速さを保って回る。やがてゆっくりと脚を下ろしながら徐々に動きを緩めたかと思うと、合間をおかずにほんの一瞬ふんばって、その場でさっとジャンプして回転し、片膝立ちのポーズで緩やかに着地して片腕をさっと上に挙げた。同時にカーテンが閉じる。お見事。客席から一斉にブラボー・コールと拍手。

その拍手が鳴り止まないうちに、カーテンの間からセルゲイが現れる。うまい演出だ。セルゲイが舞台挨拶をする。「観客のみなさま、今夜、ロシア・バレエ団は、みなさまのために『王女ゼノビア』を上演いたします!」

幕が上がると、金や銀や宝石のアクセサリーを身につけ、原色系の布地に金銀の紋様が入ったきらびやかな、アラビアかペルシャかといったオリエンタルな衣装をまとった宦官や衛兵、侍女、奴隷たちが、同じく華やかな色彩と紋様のヴェールを掲げて縦一列に並んでいる。彼らが左右に散っていった一番奥には寝椅子があり、最後に二人の侍女が捧げ持っていた水色の羽根扇を持ち上げると、そこにはヴェラ演ずるゼノビア姫(Sarah Wildor)が座り、気だるい表情で手鏡をのぞいている。

「王女ゼノビア」でのウィルドーは、頭には淡い紫のターバンを巻き、その中央の合わせ目には宝石のブローチと白い羽根飾りを付け、上半身は同じ淡い紫の胸当てをまとい、下も同色のシースルーのハーレム・パンツに白いトゥ・シューズを履いていた。

姫はやがてソファーから起き上がると、4人の侍女たちとともに踊り始める。そのポーズの中に、トゥで立ったまま両腕を真っ直ぐ上に伸ばし、両の手のひらを頭上で交差させて合わせるというものがあり、それはロンドンの月刊ガイドブックに載っていた、キーロフ・バレエ団公演「ラ・バヤデール」中の女性ダンサーの写真とそっくり同じであった。姫はそのポーズのまま小刻みなステップを踏み、片脚を上げてトゥで回転したり、後ろ向きにジャンプして客席に向かって上半身を反らせたりして踊る。

ここから新書館発行の「MIME MATTERS」が役に立つ。姫の父であるシャー・ミンが現れる。Ewan Wardrop演ずる宦官が入ってきて、姫への求婚者である王たちがやってきたと告げる。仰々しい音楽とともにアリ・シャー、アフメド・ベン・B’DU(なんて発音するの、これ)、クリンガ・カーンが意気揚々と入ってくる。が、全員が揃いも揃って厚ぼったいターバン、顔じゅう黒々フサフサと生えたむさ苦しい熊ヒゲ、原色系の派手で悪趣味なキンキラ衣装、いかにも野蛮そうな皮のブーツという姿で、姫は一見して気に入らない様子、父王にイヤだという仕草をする。

そこへ、濃いオレンジ色のぼろぼろマントを頭からかぶったコンスタンティン演ずる貧しい青年(Irek Mukhamedov)が、衛兵や王たちの間をよろめきながらすり抜け、姫の方に必死で突進する。が、彼は衛兵たちに捕まり、宦官にあわや首を切られそうになる。姫は青年のひたむきな気持ちに打たれ、父王に耳打ちして青年の命乞いをし、刀を振り上げる宦官の前に立ちふさがって青年を庇う。

姫は全員をその場からいったん立ち去らせ、ここから姫と青年との愛のパ・ド・ドゥが始まる。パ・ド・ドゥの最初、青年は舞台やや右前面で、顔を深く伏せた状態で両手を胸に当てて正座し、姫は舞台左後方に立っている。これですでに笑えるが、それから姫がトゥで青年の方に移動していく、という展開ではなく、青年の方が舞台奥にいる姫にズカズカと近寄っていって、両手を胸にぐっと当ててから、両腕を人の形をなぞりながら下げて、「あなたの全部がいとしい、ほしい」という仕草をする。ムハメドフがまた「オウ、マイラ〜ヴ!」みたいな大仰な身振りをするものだから、ここで観客は大笑い。

青年がマントを脱ぎ捨てる。上半身は裸、下は真っ青な布地に白銀の紋様が入ったハーレム・パンツという、どこかで見たような衣装。姫はソファーに座る。青年はその足元に、客席に背を向け、右肘を地に着け、左腕を上に伸ばした状態で横たわる(これもどこかで見たような・・・)。と、ヴェラは立ち上がりつつ、横たわるコンスタンティンのハラにさりげなくケリを入れる。コンスタンティンは痛みをこらえつつヴェラについていく。

このパ・ド・ドゥも、よく目にするお約束の古典的振付のみで構成されていて、あえてトリッキーで独創的な振りなどはほとんど入っていなかった。途中、ムハメドフが横たわった状態の姫を頭上高く持ち上げたまま、途中片脚で爪先立ったりしていて、これもどこかで見たような覚えがある。

ヴェラは機会を捉えてはコンスタンティンのアタマをどついたり突き飛ばしたりし、コンスタンティンはその都度「やってらんねーよ」、という表情でヴェラを追いかける。ムハメドフのこの表情が実におかしくて、観客は大爆笑していた。姫は青年に奴隷部屋の鍵を渡す。

そこに、再び父王や衛兵、侍女たちが入ってくる。姫は父王にすがりつく。青年も自分にチャンスを与えてほしいと父王に訴えるソロを踊る。このムハメドフのソロ、とにかくすごかったす。舞台右後方から、ムハメドフがえびぞりジャンプをして着地、片膝立ちで舞台左前方にいる姫と父王に懇願するように両腕を前に差し出す、という動きをしながら父王と姫の方に近づいてくる。

それから舞台右前方でさっと身構えると、上半身を地面と垂直に保ったままジャンプ&回転をして舞台左後方へ移動、更に飛び上がって体を斜めに傾けた状態で回転して着地、間髪おかずに今度は逆方向へ向かって、体を斜めに下げて脚の方を上に振り上げるという、さっきとは違ったタイプのジャンプ&回転をしながら元の位置に戻る。振り上げた片脚がピンと立って、しかも空中で一瞬浮いてるように見える。それから姫と父王のもとに、ジャンプをしながら真っ直ぐに飛んでいって、最後に着地したところでズバリ父王の裾にすがりついた。会場はもうブラボーの大嵐。隣に座ってた白髪のおバアちゃん、ムハメドフのファンらしくて、キャーッ、キャーッと娘のようにはしゃいでた。

またあの仰々しい音楽が響いて、宦官が求婚者たちの来訪を告げる。3人の求婚者たちが、それぞれ贈り物を携えてやってくる。1人目はヘンな人形を持ってくる。姫はダメ出しのポーズ。2人目はよろめきながら大きな箱を持って入ってきて、フタを開けるとそこには金銀宝石がぎゅうぎゅうに詰まっている。が、それでも姫はダメ出しのポーズ。一同はワザとらしく両手を挙げて「ひょおおお〜」と驚きの声をあげる。3人目は棒に吊り下げたトラ(敷物にでもするのか?)を家来2人に担いで来させる。でも、やっぱり姫はいっそう強い調子でダメ出しのポーズ。

そこへあの貧しい青年が走り込んで来る。音楽が最高潮に達したところで、彼が自信たっぷりに片腕を挙げると、青い塗料を顔に塗り、オレンジ色のマントを首から被った4人の奴隷たちが一列になって入ってくる。その最後はジュニア(Adam Cooper)で、彼は自信なさげにうつむいている。観客の間からクスクス笑いが漏れる。横一列に並んだ奴隷のマントを青年が一人ずつ剥ぎ取っていき、奴隷は前に飛び出て両腕を広げ、片膝着いてポーズをキめる。奴隷は顔と上半身を青く塗っており、下は濃いオレンジ色のハーレム・パンツ。その間もジュニアは不安そうなビクついた表情で他の奴隷の動きを見守っている。

ついにコンスタンティンがジュニアのマントを剥ぎ取る。ジュニアはぎこちない動きで飛び出て、同じように両腕を広げ、片膝着いてなんとかポーズをキめ、一生懸命にニカッと笑う。が、ジュニアは確かに顔だけは青かったが、体は真っ白なままであった。塗料を塗り忘れたのである。観客、大爆笑。

団員たち一同は呆然、コンスタンティンは「くぉぉぉんのやろおお〜」という顔をし、隣の奴隷(Mike Denman)は「オイ、ちゃんと体にも塗っとけ、って言ったじゃねえかよ」という身振りをする。だがジュニアは分からず、「えっ、何がいけないの?」という身振りを返してから、客席のほうを向いてまたワザとらしくニカッと歯を見せて笑う。クーパーは体の真っ白さを目立たせるためか、他の奴隷よりもなおさら濃い青色に顔を塗っていた。だからニカッと笑うと青い顔に白い歯が余計に目立つ目立つ。ここからは観客みんなずっと笑いっぱなしだったので、もう「爆笑」とか「大笑い」とか書きません・・・。

それから「4人の奴隷の踊り」が始まる。両の拳を握りしめ、片腕を上げ、もう片腕は下げて、ずん、ずん、と地を踏みしめる感じのステップを踏む。そして横に伸ばした両腕を肘から下げ、更に頭も下げる、という振りに至って、ジュニアはようやく自分の体が真っ白なままであることに気づく。ジュニアはしばらく頭を下げた状態で硬直したまま自分の体を見つめていたが、やがて顔を上げると、「うわ〜、やってしまった、くそ〜、なんでだよ〜」という表情で恥ずかしそうに胸を両手で隠し、背中を丸めて舞台から出て行こうとする。それを他の出演者が抱きかかえて止め、とにかく踊れ、とジュニアを奴隷たちの列に戻す。

ジュニアは振りを覚えていないため、他の奴隷たちの動きを横目で見ては皆の動きを真似る。よってジュニアの動きは他の奴隷よりも常にワンテンポずれていて、他の奴隷たちが右腕を上げているときにジュニアは左腕を上げ、他の奴隷たちがジャンプして着地したときにジュニアはぴょーん、と飛び上がる。

おまけに、4人の奴隷が4人の侍女たちと組んで踊るシーンで、侍女は片脚を上げて爪先立ちでくるりと回転し、奴隷がそれを支えることになっている。ジュニアは自分の相手役(だと思っている)侍女にニコニコ笑いかけながら、さあおいで、とばかりに手を差し出す。が、それは彼の相手役ではなかったのだった。本来の相手役である侍女は、支えてくれる奴隷がいなかったので転倒しそうになり、キャーッと悲鳴を上げてジュニアを睨みつける。ジュニアはあわててその腰を支え、手をそっと上げて侍女に何度も謝る素振りをする。

侍女はまた片脚を上げながら爪先立ちで回転し、奴隷は今度は片膝立ちでその腰を支える。が、必死なあまり余裕ゼロのジュニアは、侍女の腰に手ばかりか顔までピタリとくっつけ、いつまでも侍女から離れない。すでに大団円の群舞が始まり、侍女はしつこく自分の胸と腰にすがりついているジュニア(ビミョーにニヤけている)から無理やり身をはがし、逃げるように円舞の輪に加わる。ジュニアもあわててその後を追いかけるが、両腕の動きがやはり皆と完全に逆。

腹に据えかねたコンスタンティンは、えびぞりジャンプをしながらジュニアにスゴんで、彼を徐々に舞台中央から追い払い、ジュニアは舞台の端に置かれていたクッションに大股広げて倒れこむ。ところが、コンスタンティンが逆方向にえびぞりジャンプをしていたスキに、ジュニアは四つん這いになってコソコソとまた群舞の輪に戻り、風車のように肩を組んで踊っている列に紛れ込むことに成功する。コンスタンティンはその後ろの列で踊りながら、「くっそ〜」という顔でジュニアの後ろ姿を睨みつけている。

クーパー君はこの風車のように回る踊りの最中、舞台の後ろに回ってその姿が見えなくなったと思ったら、姫が座っていたソファーをトランポリン代わりにして、一人だけぴょーん、と後ろで飛び上がり、飛び上がった瞬間に客席に向かってニカッと歯を見せて笑っていた。クーパー君、頼む、お願いだからもうやめて、面白いじゃないか・・・。

周りの出演者たちがジュニアの素の上半身に布を巻きつけ、ジュニアをようやく舞台から引っ込ませる。大団円の群舞の踊りは最高潮に達し、主役の姫と青年とが最前列でフィナーレの踊りを踊っている。と、そのとき、舞台右脇から、消えたはずのジュニアがロープにブラ下がってぷらーん、と現れる。また2度目にぷらーん、と現れたとき、ナゼかジュニアの履いていたハーレム・パンツがずり下がり、ジュニアは半ケツ状態になっている(クーパー君、舞台に現れた瞬間に、ちゃんと尻を客席に向けているのは大したものである)。そして3度目にぷらーん、と現れたとき、ジュニアのハーレム・パンツは遂に足首までずり下がり、彼はそのまま舞台上でロープから落ちてしまう。

すっかり有名になったクーパー君の“ケ○芸”だが、なんと前半期間の公演では、このハーレム・パンツが脱げる演出は一切なかったというのだ!これもいおさんの証言。「一回だけ、ちょっと腰骨あたりまでずれたことがありましたが、それはアクシデントという感じだったのです。でも、観客は大爆笑でしたから、あそこは、とことん笑いを取りに行く方がいいと判断したのかもしれませんね。」 アダム・クーパー、ウケをとるためならそこまでやるか・・・。

群舞の後ろに落ちたものの、ハーレム・パンツが足にからまったジュニアは、そのまま最後のポーズをキめている群舞の列の間から前によろけ出て、更に最前面にいる主役二人の間に割り込み、フィナーレの壮大な音楽が終わったズバリその瞬間に、舞台中央のいちばん真ん前で尻をむきだしにして倒れこむ。

そこで舞台のライトが落とされるが、コンスタンティンがジュニアにケリを入れ、団員たちがてんやわんやになっているのが見える。やがてカーテン・コールのためにライトが点灯され、我に返った一同はあわててカーテン・コールのおじぎをして作り笑いを浮かべる。シャー役の一人が自分の衣装の裾を広げ、さりげなくジュニアの股間を隠してやる。

一同がひきつった笑いを浮かべる中で幕が下りる。主役ふたりとセルゲイだけが幕の外に残り、コール・ドはそのまま幕の後ろに引っ込むはずだったのが、ジュニアは気づかず、能天気に笑って拍手しながら、つられて一緒に幕の外に出てしまう。拍手しているせいで腰に巻いた布がずり落ちていくジュニアの背後を、カーテンがするするする〜、と通過していく。セルゲイは笑顔を崩さず、白いハンカチを広げてジュニアの股間を隠す。ここのクーパー君の演技が真に絶妙である。ヘラヘラとした笑いを浮かべ、肩と背中を丸めて、ぱち、ぱち、ぱち、と拍手する姿が実に情けない。ようやく自分が場違いなのに気づいたジュニアは慌てて引っ込もうとするが、やはりハーレム・パンツが足に絡まり、ズッコケながらカーテンの後ろに倒れこむ。とどめ。

ここで誤解のないよう言っておくが(誤解する方はそもそもいないだろが)、クーパー君はもちろん全裸ではなく、パンツ(というかサポーター)一丁の姿である。このサポーターはTバックで、前はともかく後ろはバッチリ「生」である。私が観た公演のうち、前半数日は白いサポーターだったのが、後半は肌色のサポーターに変わった。ある方(特に名は秘す)の考察では、肌色のサポーターにした方が、セルゲイが白いハンカチでジュニアの股間を隠す動作が、より効果的に生きるからではないか、ということであった。

舞台に花束が投げ込まれる(この役は指揮者が担当していた)。コンスタンティンはすかさずヴェラよりも先に花束を拾い上げ、それを振って観客の喝采に応える。花束を先に取られたヴェラはムッとした表情でコンスタンティンを睨みつける。それからコンスタンティンは恩きせがましく花束をヴェラに手渡すが、ヴェラは凄い勢いでそれを奪い取ると、その花束でコンスタンティンを殴りつけ、さらに彼の足を思いっきり踏んづけてカーテンの後ろにさっさと引っ込む。コンスタンティンは痛みに顔をひきつらせながら、「やれやれ」という表情で自分も退場する。

ここで第1幕が終了。ずっと笑いっぱなしだった観客は大きな歓声を上げ、まるでカーテン・コールみたいな盛大な拍手が起こった。ああ、笑いすぎてワキ腹が痛え。

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