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NOTE 11

「危険な関係」特番メモ

「危険な関係」の特番「真矢みき in London 〜世界一美しい男と出逢う旅〜」が放映された。番組自体は、断片的な取材をチケット販売のCMや宣伝用写真、また聞くのも恥ずかしいアダム・クーパー様礼賛の美辞麗句(「世界中のダンサーの頂点に立つ」、「名門バレエ団の頂点に君臨していた」、「踊りの神に愛された男」等)でリンクしていくという単純な構成だった。

しかしその断片的な取材自体は面白くて、またインタビュアーの真矢みきが実に知的で感性の豊かな人だった。彼女のおかげで番組が数倍も興味深いものになったと思う。

まず番組が始まる前。「ダック引越センター」のCM、羽賀研二バージョンがあるとは知らなかった。女を口説いている羽賀に、「ま〜だこんなことやってるのお〜」という女性客たちのコメントがキツい(笑)。

次の画面が真っ黒になり、ナレーションとともに画面中央に白いテロップ。「もし私に信ずる神があるとすれば、それは踊ることを知っている神である(「踊ること」部分だけが赤字)。」 改行して「ニーチェ」。イヤ〜な予感。

ロンドンの街を歩く丸坊主の男性がカメラに向かって近づいて来る。黒のレザー・コート、セーター、マフラー、ズボンと黒づくめ。これはDAKSの30万円のコートざんすね〜。・・・・・・じゃなくて、よりによって羽賀研二の次に始まるなあー!!!

ナレーション「踊りの神から愛された、世界で最も美しい男がいる。・・・・・・アダム・クーパー!」 クーパー君がカメラの前で角を曲がる。画面いっぱいに「アダム・クーパー Adam Cooper」というでっかいテロップ。今回も期待を裏切らない、恥ずかしいこと極まりない始まり方をしてくれた。

「オン・ユア・トウズ」の映像を流してくれたのは嬉しい。

中村獅童のコメント。「肉体美と、肉体からかもし出される、芸術だなー、と。それは、昨日今日、培ったものではなくて、幼少のころから色々な、タップ・ダンスであるとか、いろいろなものをこう、肉体で学んできたっていうことを想像したりしながら見ていましたけども、とても感動しました。」

岡江久美子のコメント。「いま世の中、ヨン様とかベッカム様とか騒がれていますけども、私の心の中の憧れの君はですね、アダム・クーパー、あなたです、という感じですね。本当に、何回、私のこの胸をね、むんずとつかまれたことか、それほどお慕いしている方です。」 ちなみに岡江久美子の旦那は大和田獏。

あの宣伝写真、左正面に上半身ハダカでロン毛ヅラのクーパー君、右後方にハダカの女が背中を見せて座り込んでいる写真が映る。またリハーサル写真多数。

クーパー君のアップ。丸刈りに紺のパーカー姿。右目尻の下に青アザがある。リハーサル中のアクシデントでできたというアザかな。"I don't like to repeat myself too much, all I like is to take on new challenges, you know, risky things tend to be more exciting than safe things."(聞き取りはかなり怪しいので優しい目で見てやって下さいねん。) 対する真矢みき「またステキな言葉を聞いてしまった。」

番組のスポンサーを紹介している間に、白い背景に黒のTシャツとズボンで踊っているクーパー君の映像。おそらく「オン・ユア・トウズ」のテレビCMと同時期に撮影したものと思われる。踊るクーパー君の影が美しい。

真矢みきは元宝塚女優で、花組のトップ・スターだったという。「5、6年前に、宝塚の男役をやっているときに、彼のVTRを頂いて。ファンの方から。・・・・・・(感を込めて)衝撃的だったな〜。」

ナレーション「その作品は『白鳥の湖』。まだ日本公演が行われる前だったが、名前すら知らない、一人のダンサーの存在感に圧倒され、スリ切れるほどテープを観たという。」 「スリ切れる」って、何このナレーション、とこの時点では思ったが、これは真矢みき自身が後で言っていた言葉だった。

真矢みき「ああ、悔しいなあ、と思ったのがいちばん印象的で(←気が強い)。なぜかっていうと、あんなに、あの、ふつう舞台人っていうのは、生がやっぱりいちばんで。あたしもそうなんですけど、生を観て頂きたくって。いくらステキなステージができたとしても、ビデオじゃ伝わらない、DVDじゃ伝わらないっていう新鮮感があるんですけど、アダム・クーパーは違うかった。」

彼女はそう言いつつコヴェント・ガーデンへ。どうも去年の12月中の撮影みたいね。クリスマスの飾りつけが街中にあるから。白いロイヤル・オペラ・ハウスが見える。マーケットの前にあるメリー・ゴーランドに、1人の若い東洋人男性が腰かけている。脚が長い。スタイルがいい。鉄板ダンサー。

真矢が声をかける。「カッコいいですね。すごいもう、絵になっている。平野さん、平野さん!」 字幕が出る。「バレエ・ダンサー 平野亮一」。彼は現在21歳、ロイヤル・バレエ団の団員である。真矢みきの「背、高いですね」という言葉に対して、笑いながら「そうですね」と返す。彼もなかなか気が強そう。

平野亮一は2002年にロイヤル・バレエ団に入団したという。小さなスタジオで、「ドン・キホーテ」第三幕のグラン・パ・ド・ドゥ、バジルのヴァリアシオンを踊っている。踊り終えた平野君に、真矢みきは拍手をしながら「完璧じゃん!」

真矢「(舞台に)立ってるときは何考えてるんですか?」 平野「えー・・・、いや、何も考えてないですね。」 真矢「『無』?」 平野「うん、なんか、楽しんでるっていうか、舞台を楽しんでる。」

次にロイヤル・オペラ・ハウスの正面と、クーパー君のロイヤル時代の写真が映る。これは初めて見ました。字幕には「マノン」とあったけど、これは「ロミオとジュリエット」のロミオだと思う。

さて平野君が自分のアパートに帰宅。ブロック・フラットだけど、割といいところなんではないかと思われる。建物は古いが、1階なのに大きな白枠の窓が並び、内装もきれい。白い壁に木目調の家具で統一している。

平野君は料理を始める。ダンサーの自炊風景を見られるとは珍しい。ナレーション「18歳でイギリスに来て3年、体が資本のダンサーだけに、食事には気を使っている。自炊のメニューは、脂肪分の少ないターキー(七面鳥)を使った鳥そぼろ。」 ほんと、七面鳥ってほとんど赤身である。

七面鳥のミンチをボウルにあけ、味付けしてフライパンで炒める。平野「いやー、こっちに来て、あんまり料理をしなかったときがあって、それでこの前、ウチの母親が・・・来て、すごく簡単で保存も利く鳥そぼろを教えてくれて。それで、いやー、すごくおいしかって。こんなら自分でも作れるかも、と思って。」

小さい平野君がバレエの衣装を着てメイクをし、お兄ちゃん、お母さんと一緒に並んでいる写真が映る。ナレーション「母、平野節子の指導を受け、バレエを始めたのは4歳のとき。いつも厳しい師匠だった母。幼いころ、甘えた記憶はない。」

ナレーションの続き。「兄、啓一も現在、カナダ・ナショナル・バレエ団で活躍している。おふくろの味の鳥そぼろ、母の期待に応えるためにも、もっと上を目指したい。まだ夢の入り口にたどり着いたばかり。」 まあ、平野君本人がバレエを好きならいいと思う。

彼の今夜のメニューは、鳥そぼろ、山盛りの茹でたブロッコリー、おそらくサーモンのムニエル、透明なボウルに入ったざく切りのトマト、主食はお米のご飯。

平野君「やっぱり主役を踊りたい。ロイヤル・オペラ・ハウスで、ロイヤルのメンバーと主役・・・僕が主役で、一つの作品を創りたいなあっていう。」

テロップ「アダム・クーパーについて」。平野君「いや、オーラが違うかったな、っていう。タップ・ダンスはするし、歌うし、表現力はすごいし、それにカッコいいし。舞台で見てたら、いっそう違いましたね。その、アダム・クーパーが出す感情とか、表現力とかいうのが。うん、すごかったですね、うん。」

クーパー君(黒いハイネックのセーター姿)「(字幕)僕にとってダンスはとにかく素晴らしいものです。何よりも魅力的なことは音楽と一緒に踊ることで自分自身を表現できることです。またダンスには様々な表現方法があって制約がありません。普段の生活では経験できないことを舞台上では自由に伝えることができるのです。( "I think that for, I think dance is great, it can, for me anyway, the greatest thing about dance is that with music it can express emotion better than any other ****** for. And, and so, you know, you can use so many different ways of dance, and which is why any gets sense of freedom well, when you get on ****** you're doing ****** on stage, ****** your sense of freedom you don't usually experience ****** another for once.")」 ぜんぜん聞きとれなかった。誰か教えて。

アダム様ご幼少のみぎりの未公開写真2連発。お母さんを挟んでお兄さんと3人、みんなふざけて同じポーズをとったショット。5、6歳くらい?赤と白の縞々の帽子とスーツ、髪型は短いおかっぱ。子どものころはさぞ愛らしかったろうと想像はしていたが、これほどの美少年とは!今よりも色の薄い明るいブロンド、ふっくらした顔、白い肌。まるで天使のよう。

2枚目は白黒の写真で、1983年に11歳で「くるみ割り人形」に出演したときのものだという。「プロとしての初舞台」とあるが、どのカンパニーでどの劇場での公演なのか。細長いラッパを持って、とんがり帽をかぶっている。眉もまつ毛も濃く塗って、目尻にもライナーを引いてきれいにメイクしている。これもとてもかわいい。早くも将来顔が長くなる片鱗をのぞかせているが。

ローザンヌ・コンクールでのヘタクソな「海賊」のソロは見なかったことにして、ロイヤル・バレエ上級学校での集合写真。これも初見。後ろの列に熊川哲也と一緒に写っている。熊川君はにこやかな笑顔だが、クーパー君は笑っていない。なんだか寂しそうな、厳しい表情をしている。続いてロイヤル時代、「ロミオとジュリエット」第一幕最後のパ・ド・ドゥの写真。

マシュー・ボーンのコメント。「(日本語吹き替え)アダムというダンサーの最大の特徴は、彼が極めて知的であるということです。アダムがなぜあそこまで自然な演技ができるのか、それは、彼の動きがすみずみまで考え尽くされているからなんです。あんなダンサーを、私は見たことがありません。」

続けてボーンのコメント。「更に彼は、音楽に合わせた表現力が優れていて、音と遊ぶというか、とにかく考えもつかないような方法で楽しませてくれるんです。多くの人は、彼のことをセクシーだとか、美しいとか、背が高いとか、力強いとか、外見で評価しますが、私から言わせれば、アダムの最もすごいところは、考えぬかれた知的な演技と、実に豊かな音楽的センスです。」

ロンドン市内のある小さなバレエ学校。たぶん5、6歳くらいの大勢の子どもたちがレッスンを受けている。ほとんどが女の子。女の子たちは淡いピンクのレオタードにピンクの短いスカート(裾が斜めにカットされているのがかわいい)、白いタイツを穿き、バレエ・シューズは淡いピンクのサテンでゴムの止め紐が付いたもの。

その中に同じ年頃の金髪の男の子が1人だけぽつんといる。男の子は白いTシャツに黒い半ズボン姿、素足に白いバレエ・シューズ。ピアノの伴奏に合わせて、両腕を何かを抱えるように丸く広げた姿勢で、パ・ド・シャ(?)をしながら斜めに移動していく。ぎこちない。でも真面目な顔で一生懸命踊っている。踊り終わってはじめて、実に嬉しそうにニッコリと笑った。"I'd like to be professional dancer when I grow up."

ナレーション「アダムは言う。『いわゆるクラシック・バレエは、観る人にとって難しいジャンル。僕はもっと多くの人に踊りの魅力を伝えたい。』」

クーパー(椅子に座りなおして手振りを交えながら)「(日本語字幕)今までも異なるジャンルに挑んできました。音楽、歌、演技、そしてあらゆるダンス・・・ロイヤルバレエに入団して2〜3年で既に考えていたことは、いずれ異なる才能を磨くために新しい道に踏み出したいということでした。それが何なのか昔から模索し続けてきました。("I never really set out just to do ballet that was something I've fallen by accident, and I trained in all different types of performing arts, music, singing, drama, all types of dance. But even maybe two or three years in to be in the Royal Ballet, I decided I wanted to find a way to do other things and get out, and have more freedom, and really use different talents I trained that, so really very ******to looking for something to do.")」 

真矢みきと平野亮一、コヴェント・ガーデンにあるCharles Foxという舞台用メイク用品店に入る。真矢「何を買われるんですか?・・・関西弁出ちゃった。何を買わられるんですか?」 平野君(←彼も関西人)は笑いながら「シャドウをちょっと・・・。」

ナレーション「色の多さが自慢のシャドウはシーズンごとに変わったりせず、すべてが定番。」 広い机の上に円形のシャドウのテスターがびっしり。200種類近くはありそう。平野君「白でちょっと・・・ハイライトを。」 真矢「じゃあこのへん?」 平野君「はい。」 彼は白っぽい色のシャドウを指先でなぞり、色合いを確かめる。真矢「大丈夫そうですか?」 平野君「はい。」

真矢みきは「わあ、この色キレイ〜」と言って、あるシャドウを指さす。「こういうのって、ヨーロッパの色って感じがする〜。なんかねー、深みがある。」 テスターの下には"DARK BLUE-G"と表示してある。濃いグレーにしか見えないが、確かにブルー系統の色のプレートにはめ込まれている。舞台の人には、これは日本にはない色だ、とか分かるんですね。

真矢みき、平べったい箱に入った付けまつ毛(根元に小さな星型の光る飾りが数個くっついているもの)を手に取って驚いた様子で言う。「すごい!初めて見た。ステキじゃない?」 平野君(声だけ)「すごい。」 そりゃ返事に困るよな。

次に行った古着屋で、真矢みきが掘り出し物の茶色の皮のポンチョを見つけ、「かわいいー!やったー!」と目を閉じて抱きしめる。そういう真矢みきのほうが超かわいい。平野君もスタッフたちも笑っている。

カフェでお茶を飲む平野君と真矢みき。紅茶はティー・パックで、ソーサーの縁には2切れのレモンが置いてある。真矢みきが「舞台はどうですか?緊張します?」と平野君に質問しているとき、店員がミルク・ピッチャーを置いていく。平野君は真矢みきの質問に答える前に、まず店員に"Thank you."と礼を言う。彼はきちんとイギリスに馴染んでいるようだ。

平野君「いや、そんなに・・・。たま〜に緊張しますけどね。なんかすごい、いい役とかをもらうと。」 真矢「やっぱり昇格ってしていく・・・今はロイヤル・バレエ団ですよね?今はなんていう立場なの?」 平野君「今はまだコール・ド・バレエなんですよ。」

真矢「コール・ド・バレエっていう・・・。」 平野君「位・・・っていうか。」 平野君はファースト・アーティスト、ソリスト、ファースト・ソリスト、プリンシパルと順番に説明していく。

真矢みき「じゃあ、あたしがこの間、2年前に組ましてもらった人はみんなプリンシパルって、とんでもないことなのね?」 彼女は「スターダスト in 上海」というダンス・イベントで、クラシック・バレエのダンサーたちと共演したらしい。大阪公演の映像が映る。

平野君「入った当時と、トップ・スターになった後って、なんかこう、自分の気持ち的にはどうだったんですか?違うかったっていうか。」 真矢「ああ、やっぱり、見えるものがすべて違うよね。・・・・・・すごい下級生のときに、すごい頑張ってたのに、観終わって、すごいね、嬉しそうな顔をしてくれると思ったら、そうでもなかったんだよね。」

真矢は笑いながら続ける。「んで、あれー?って。相当な自信があったの、そのときに。おかしいな、と思ったら、とても完璧だということはよく分かったんだけど、疲れる、って言われたの。舞台観てて。」 平野君が「ええ〜!?」と驚きの声をあげる。

真矢「で、それ言われたときに、じゃあ何?力を抜くって、サボるってこと?とかいろいろ考えた時期があって、結局、6年くらいそこから分かんなかった。意味が。」

「それでやっと分かったときが、私はこうやって人に楽しんで頂くことができるんだ、という、楽しんでね、っていうのがやっぱメッセージで、あたし頑張ってやってるでしょ?レッスンしてきたんだもん、それは、っていうことじゃないんだ、っていう、そのシンプルな考え方の違いが、こんなに発信として出ちゃうんだなー、みたいな。うーん、それだったなあ。」

平野君は時にうなずきながら、時に驚きながら、とても真剣に聞いていたが、最後に「6年ですか・・・」とつぶやく。

真矢みきのこのエピソードはすごく面白い。「頑張ってやってるでしょ?」と「発信」しているダンサー、俳優、芸人とかって確かに時々いる。観ていて違和感を覚えたり、白けちゃったり、痛々しく思ったりするのはなぜなのか、と思っていたけど、そういうことだったのか。

「オン・ユア・トウズ」日本公演用のテレビCMと来日記者会見(2003年11月)の映像。花束贈呈役の女性タレントと一緒にカメラに収まるクーパー君。こういうときには、たとえば有名な若い歌舞伎役者との結婚が取り沙汰されているとか、話題性が高くてマスコミが殺到するような強烈な人を選んだほうがよい。

「危険な関係」記者会見はその点で適切な人選であった。主役であるはずのクーパー君が、芸能記者たちに押しのけられて超ジャマ者扱いされていたが。

2004年4月、「オン・ユア・トウズ」日本公演のリハーサル風景。ボサボサ頭でリズムをカウントするクーパー君。場所はレスター・ヘイマーケット劇場のようだ。去年の特番でも紹介されたが、この部分は未公開映像なのでは。おお、Greg Pichery、Anna-Jane Casey、Matthew Hart、Gabrielle Nobleらしき姿が見える。

紺色の長袖Tシャツ姿で寝グセみたいな髪型のクーパー君「(日本語字幕)J・マルコビッチ、G・クローズ、M・ファイファーが出演している米映画『危険な関係』を見て、ヴァルモンの役に表現者として非常に魅力を感じました。ロイヤルバレエをやめて振付の仕事を始めた時、心の底から表現したかったのが『危険な関係』だったのです。何年も前からやりたいと思っていたので、実現できることが本当に嬉しいです。("I think ever since seen the film of 'Dangerous Liaisons' with John Malkovich, Glenn Close, Michelle Pfeiffer, it's a part that had pelt me as a performer is the role of Valmont. And, when I started choreographing again after long break off ***ing Royal Ballet, one of projects that I really really wanted to do was 'Dangerous Liaisons'. As I say I've been trying to do it for many years, so it's great to be able to do it now.")」

「危険な関係」のために行われたワークショップの映像が流れる。かなり画質が悪い。以前インタビューの中で、リハーサルはビデオでとって後でチェックしている、とクーパー君は話していたが、その一部だろう。これは大変に珍しい。2場面流れたが、一つは女性ダンサーとクーパー君が一緒に踊っているもの。そしてもう一つが面白かった。

木製の天蓋つきベッドに腰かけて女性が手紙を読んでいる。すると天蓋からクーパー君がいきなり逆さまになってぶら下がり、両手で女性の頭を抱えてキスしようとする。女性が驚いて手紙を投げ捨てて後ずさる間、クーパー君は天蓋の支柱をつたってベッドの上に降りてくる。

思わず見とれてしまったが、クーパー君が天蓋から支柱をつたって降りてくる動作がしなやかでとても美しい。なるほどこういう何てことない(?)場面でも、どうすれば美しく見えるか、きちんと計算しているわけね。

再びクーパー君。前と同じで、2004年4月にレスター・ヘイマーケット劇場で撮影されたもの。「(日本語字幕)それはモダンヴァージョンになると思います。いわゆる"バレエ"という枠を超え、踊りや歌、演劇的要素を融合した作品になります。公演は日本の観客のみなさんにとってとてもドラマチックな夜になるでしょう(←昼の公演もあるが)。世界中で一番初めに日本で公演予定ですから。("It's going to be a sort of modern version, all the story tone through dance and theatre and singing rather than just dance or just ballet, so it is a mixture of more theatre(?) co-production. So it could be a very dramatic, exciting evening, I think, for Japanese audience to see, and to be able to see the first in the world.")」

原作"Les Liaisons Dangereuses"(1782)の簡単な紹介。原作者ラクロの正式な名前はすご〜く長い。「ピエール・アンブロワーズ・フランソワ・ショデルロ・ド・ラクロ(Pierre-Ambroise-Francois Choderlos de Laclos)」だって。お貴族さんですね。

ジャンヌ・モロー、ジェラール・フィリップ主演の映画版(1959年)、グレン・クローズ、ジョン・マルコビッチ主演の映画版(1988年、邦題はともに「危険な関係」)、そしてあの「ヨン様」主演の映画版(2003年、邦題「スキャンダル」)が紹介される。

またまたクーパー君。今度は黒いハイネックのセーター姿で頭は丸坊主。最近のインタビューである。「(日本語字幕)何よりも当時の時代背景に魅了され、バレエ作品にすることを決心しました。性や陰謀に関する生々しいドラマがあり、登場人物はお互いを陥れようとする。しかしそれだけが真実ではない。作品の持つ世界観がとても興味深く、個性的な登場人物たちとの出会いは表現者にとってとても貴重なことでした。("I think because it is such a fascinating look, appeared at the time(?), that is so full of juicy drama, and, you know, it's all about …… uh, sex and intrigue, and people just being horrible to each other, but in the end, having come-uppance. It's such an interesting, subject and great meeting characters, and to get your teeth into it to a performer.")」 クーパー君、"sex"という語を口にする前に、一瞬うつむいてためらう。こういうところは実に生真面目な人だわね。

ナレーション「アーティストにとって、斬新な芸術との出会いは、感性を磨く何よりのきっかけ。」 真矢みきと平野亮一君がカウンティ・ホールにあるSaatchi Galleryを訪れる。ここ、中村獅童も来てなかった?ところで平野君、3メートルくらいある顔だけの彫像を見て、彫像の鼻の穴の中をのぞきこまないように(笑)。

次に「今、ロンドンで感性の鋭いセレブたちに大人気のスポット」、Sketchというレストランだかバーだかクラブだかが紹介される。「アート、デザイン、音楽、そして食を融合させたこの店は、三ツ星レストランのシェフが作る料理と一流デザイナーが手がけたインテリアが評判」なんだそうだ。

料理の味は分からないけど、内装やインテリアはまさに、どーいう鋭い感性を持てばこれほど悪趣味になれるのか、と感心するほど俗悪な代物。これがロンドンで現在、最もナウでヤングでイカシた店らしい。誰が行くかこんな店。

そしてこの店が「新たな芸術を生み出していく」→「それは『危険な関係』も同じこと。アダムと共同で演出を手がけるのは、デザイナー、レズ・ブラザーストン」と、ブラザーストンの「危険な関係」の舞台美術に無理矢理リンクする。

「危険な関係」の衣装イラストと舞台セットの模型が見られたのはよかった。紹介されたのはヴァルモンの衣装で、長い上着の襟元や前身ごろや裾に入る花模様、ポケットの縁飾り、ルビー色のカフス・ボタン、ベストの柄、白いブラウスの形や袖口のボタンの位置など、実に細かく設定してある。

ヴァルモンは上下とも黒の衣装だけど、襟や袖口にあるくすんだ渋い色合いの花模様が実に美しい。黒い皮手袋をはめ、下は黒いズボンに黒いロング・ブーツ。これはインタビューにも書いてあった。

舞台セットの模型を横にブラザーストンがコメント。「(日本語吹き替え)原作は18世紀に書かれた小説ですから、私とアダムは登場人物をその時代の雰囲気に合わせる努力をしました。でもそれだけではなく、今の時代に合ったものを少しずつ取り入れているんです。つまり全体的には18世紀の時代背景を大切にしていますが、細かい部分はとても新しくて、21世紀の舞台なんです。これは私たちにしか生み出すことができないものだと思います。」

舞台のセットは細かい部分はよく見えないけど、ブラザーストンのデザインなら心配ないだろう。なんかガラスが嵌めこまれた格子状の大きな窓がたくさん並んでいる。両脇にも同様の窓があり、手前に白い壁。天井も格子状になっているようだ。女性の顔が二つ上下に描かれている大きな絵があるが、これは誰の絵?

関係ないけど、ブラザーストンは私服のセンスもいい。白いカッター・シャツの下に丸首の白いTシャツ、黒い上着で、下は継ぎ目のある幅広のジーンズ、チャコール・グレーのスエード地の靴。クーパー君はいつも、日曜日のお父さんみたいなパーカーとかスウェットとかばっかり着ているのに。

サラ・ウィルドーの紹介。ロイヤル時代の舞台写真が2枚。1枚は「オンディーヌ」でクーパー君と踊っているところ。もう1枚は「コンチェルト」。

DAKSのCM完全ヴァージョン(たぶん)が流される。ウィルドーのことを「アダムとは何本もコンビを組んできたベスト・パートナー」と説明している。肝心なことは言いませんなー。そう、ベスト・パートナーなんですよ。オンでもオフでも。

ウィルドーへのインタビュー。ウィルドーは黒いハイネックのセーターを着て、髪は後ろで簡単にまとめている。首から肩にかけての線が美しい。顔を少し傾け、穏やかな微笑を浮かべている。質問がテロップで表示される。「複雑な感情を踊りで表現することは難しいのでは?」

ウィルドー「(日本語吹き替え)いいえ。それが私のいちばん好きなことですから。感情というものはすべて、ボディ・ランゲージで伝えることができるし、その中でもダンスは最も優れた表現方法です。私は、人間は言葉よりも身体で表現するほうが、はるかに雄弁だと思っています。アダムが演じる主人公ヴァルモンが様々な人物と関わることで、彼らの心に変化が起こり、ヴァルモン自身も変わっていく。そこがみどころだと思います。」

真矢みき、ロイヤル・バレエ観劇。彼女はこれがバレエをきちんと観る初めての経験だという。これは意外。宝塚で活躍していた人だから、彼女自身もバレエをずっとやってきただろうに。同じ舞台の人だから、逆に他の舞台作品はあまり観ないものなのかな?

演目は「シンデレラ」。王子はヨハン・コボー、シンデレラは・・・よく見えないな・・・たぶんアリーナ・コジョカル?

真矢みき、終演後に楽屋口で平野亮一君と待ち合わせ。平野君が出てくる。真矢みき「お疲れさまー!すばらしかった!」 平野君は2人の友人を紹介。ジャックとポール。ポールはアーティストのPaul Kay、ジャックは分からない(面倒だからロイヤルのサイト見てない)。

4人はパブへ出かけてビールで乾杯。店内には大きなテレビがある。サッカーの試合中継があるときには入らないほうがいい。

真矢みき「オーラがほしい、とか言ってたけど、あったよ。あとすごく、(自分の首から背筋を指して)ここがきれい。これ、言われない?」 平野君(笑いながら)「いや、言われたことないっスね。」 真矢みき、今度は平野君の首から背筋を指して言う。「ここにね、貴族の血が流れてる。」 平野君大爆笑。

真矢「本場で、引けを取らないで、人の目を惹きつけるっていうコール・ド・バレエの中の平野さんに感動した。すごいそう思った。」 平野君、今までとは打って変わって、陽気で強い口調になる。「ほんと、もし僕がプリンシパルになって、なんか踊るようになったら、チケット、招待状出します!」 そう言う平野君のグラス(1パイント)はほとんど空っぽ。

真矢みきは「危険な関係」のリハーサルスタジオを訪問。なんとサドラーズ・ウェルズ劇場である。壁にはボーンの「白鳥の湖」のポスターが見える。時期的にも(2004年12月)、毎日「白鳥の湖」公演が行われていたはずである。

「危険な関係」リハーサルは、ボーンの「白鳥の湖」が上演されている最中に、同じサドラーズ・ウェルズ劇場内で行われていたのだった。かつてクーパーが踊って大成功した役を、今は別のダンサーたちが踊っているときに。

成功することが決まっている作品が上演されているのと同じ場所、同じ時間に、成功するかどうかも分からない新作をリハーサルする。アダム・クーパー、図太い奴だとは思っていたが、ここまで図太い神経の持ち主だったか。

真矢みき「なんて言うんだろう、こういう緊張感ていうか。緊張じゃないな。あの魅力的な人がどんな生活を行っているのか。」

彼女は「危険な関係」のリハーサルが行われているスタジオのドアを開けようとする。が、ドアの小さな窓から中をのぞき見て「うわ、うわ、いいのかな!?」と声を押さえてつぶやく。窓の中に、背中が大きく開いた黒いレッスン着に、白いフレアーのロング・スカートを穿いた女性ダンサーが見える。

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