Club Pelican

THEATRE

「危険な関係」
"Les Liaisons Dangereuses"
Based upon the novel by: Choderlos de Laclos
Direction: Adam Cooper and Lez Brotherston
Choreography: Adam Cooper
Music: Philip Feeney
Designs: Lez Brotherston
Lighting: Paule Constable
Sound: Andy Pink
Conductor: Stephen Lade
Vicomte de Valmont: Adam Cooper/Simon Cooper
Madame de Tourvel: Sarah Wildor/Natasha Dutton
Marquise de Merteuil: Sarah Barron/Yolande Yorke-Edgell
Madame de Rosemonde: Marilyn Cutts
Madame de Volanges: Yolande Yorke-Edgell/Wendy Woodbridge
Cecil de Volanges: Helen Dixon/Natasha Dutton
Chevalier Danceny: Damian Jackson/Daniel Davidson
Comte de Gercourt: Richard Curto/Barnaby Ingram
Prevan: Simon Cooper/Barnaby Ingram


注:このあらすじは、2005年1月22日-2月16日に東京で行われた公演に沿っています。登場人物の性格や行動の描写は、当日踊ったダンサーの演技を、私なりに解釈したものです。また、もっぱら私個人の記憶に頼っているため、シーンや踊りの順番、また踊りの振付などを誤って記している可能性があります。


第一幕

舞台は白い幕で覆われている。開演が近づくと、その白い幕が徐々に風をはらんだようにふくらんでいく。突然、「ギギーッ、ガチャン!」という鋭い音が響き、同時に客席のライトが落とされて真っ暗になる。

白い幕が端からゆっくりと開かれる。白い幕は舞台前面と中央とに2枚あり、巻き取られていく白い幕の端に沿って、燭台を持った黒装束、黒い仮面の男が1人ずつ歩いてゆく。

松明や燭台を持った黒装束と黒い仮面の人々が行きかう。中央には1組の男女が抱き合っている。人々はあちこちで顔を寄せたり、耳打ちしたりして何事かをささやきあい、また顔をあわせたまま意味ありげに立ち止まる。クーパー君によれば、これは当時の社交界の裏社会を形成していた人々を表しているそう。

舞台の両脇は大きなガラス戸、天井はくすんだ銀色で、人々が歩き回るのに従って、彼らが持っている松明や燭台の光が銀の天井に反射する。舞台奥には倒れた椅子や壊れて朽ちた窓枠などが転がっている。このシーンはラストにつながっている。

あたりにはろうそくの匂いが漂い、また白い煙が舞台をかすかに覆っている。不気味な音楽、効果音、ささやき声が重なる中で、黒装束の男(いつもサイモン兄ちゃん)が燭台を舞台前面中央に置く。

音楽が始まる。同時に左奥のソファーに座っていた女がマントを脱ぐ。まとめた黒髪、オレンジ色のロング・ドレスで、胸元と袖口には黒レースの豪華な飾りがついている。首には何連もの黒曜石のネックレスを巻き、腕には黒レースで縁取られた黒曜石の腕輪をはめている。メルトイユ侯爵夫人である。

次に右脇のマネキンに手をかけていた男がマントを脱ぐ。光沢のある白い上着とベストを着て、白いズボンを穿いている。上着とベストの襟口から前ボタンに沿って、淡い花模様の刺繍がずっと入っている。背中まで伸びた明るい栗色の長髪。ヴァルモン子爵である。

メルトイユ侯爵夫人とヴァルモン子爵は、黒の仮面をつけたまま、両腕を外側に湾曲させてゆっくりと上げて下ろし、人形のような姿勢で静止する。

それからふたりはゆっくりと舞台の中央に進み出てくる。仮面をつけたままキスをする仕草。先にメルトイユ侯爵夫人が仮面を脱ぎ、次にヴァルモンが仮面を脱ぐ。

メルトイユ侯爵夫人とヴァルモンは、両腕を湾曲させたままさっと前を向き、それからお互いの手を取って踊り始める。ふたりが関係を持ったことが、体を重ねて前後に腰を振るという、かなりきわどい動作で表される。

ふたりは交互に相手の背後に回ってキスをする。ともになんとなく強引で暴力的な仕草で、彼らが相手を支配し支配されるという関係にあることをうかがわせる。

メルトイユ侯爵夫人、ヴァルモン、その場にいた全員が一斉に同じ踊りを始める。メルトイユ侯爵夫人とヴァルモンは離れて人々の中に紛れ込み、ヴァルモンは女性を抱きしめ、メルトイユ侯爵夫人は他の女性と抱き合っている男性の体に貼りつく。ふたりはこの裏社会でやりたい(ヤリたい?)放題に振舞って、人々の関係を彼らの思うままに撹乱しているようである。

ふとメルトイユ侯爵夫人が奥に立っている男性のマントをはぎ、彼を前に連れ出す。彼は淡いグレーの布地に刺繍や宝石の飾りがついた上着に、グレーのベスト、黒い膝丈のズボン、黒い靴下という衣装で、カールのついた黒髪のかつらをかぶっている。メルトイユ侯爵夫人が彼の仮面を剥ぐ。ジェルクール伯爵である。

メルトイユ侯爵夫人とジェルクールが踊り始める。彼らは体を重ね、またもや腰を振りながらあえぐ。メルトイユ侯爵夫人は次第に暴力的になり、ジェルクールの腕をねじりあげてキスをしたり、彼の両腕を強くつかんで自分の体を抱きしめさせたりする。ジェルクールは苦しそうだが、その都度メルトイユ侯爵夫人の要求するとおりにしてしまう。

その間、ヴァルモンを含めた人々は輪になってそれを眺めている。あの両腕を湾曲させた姿勢で、メルトイユ侯爵夫人とジェルクールの関係に進展があるたびに、大きく息を吐くように上半身を上下させる。

メルトイユ侯爵夫人はジェルクールを床に倒し、彼の体をまたいで悠然と歩く。それから振り返って彼に接吻を求めて手を差し出すが、ジェルクールは衣服の乱れを整えると、彼女に一礼して背を向けて去る。ヴァルモンは舞台奥の中央でその様子を眺めている。

メルトイユ侯爵夫人はジェルクールに去られて憤然とした表情になり、彼を追いかけようとする。ヴァルモンがさえぎる。メルトイユ侯爵夫人とヴァルモンは再び踊り、そこでも関係を持ったことをうかがわせるダンスが踊られる。

メルトイユ侯爵夫人とヴァルモンは背中合わせになり、それぞれの手で自分の顔を上から下へ撫でる。この仕草は他のシーンでも繰り返し出てくる。「マスク」をかぶったり脱いだりすることを示すようである。そして前を向き、お互いの胸に手を当てる。これも後で何度も出てくる仕草で、秘密を持つことを表す。

音楽と効果音が大きく響きわたり、ヴァルモンが正面の燭台を持ち上げ、舞台奥で閉まりかけている大きなガラス戸の向こうに消える。メルトイユ侯爵夫人はひとりそこに残る。耳をつんざくように轟く効果音がぴたりと止むと、舞台は一転して明るくなり、優雅なバロック風の音楽が静かに流れる。

ヴォランジュ夫人の館。ヴォランジュ夫人が現れる。ヴォランジュ夫人は淡い水色と白のストライプの布地に、胸元に花模様の刺繍があるロング・ドレスを身につけている。

メルトイユ侯爵夫人とヴォランジュ夫人はお互いの頬にキスをして挨拶、二人で踊る。手をつないで回ったり、並んで同じ振りを踊ったりする。これは他の登場人物の間でも見られる踊りで、そのとおり彼らが(本気だろうが嘘だろうが)仲間であることを示している。

メルトイユ侯爵夫人とヴォランジュ夫人は左のテーブルについてカードで遊ぶ。ヴォランジュ夫人はしきりに部屋の外を気にして、右奥の扉を見やる。メルトイユ侯爵夫人はその間にヴォランジュ夫人のカードをのぞき見て、胸元から隠しカードを抜き出して使う。

メルトイユ侯爵夫人がカードに勝ち、ヴォランジュ夫人は参ったわ、というふうに両手を上げる。扉が開いて、セシル・ヴォランジュが現れる。淡い黄色に小花模様が散った布地で、袖と裾に白いレースの飾りがついた膝下丈のドレス。こめかみの髪を後ろに引いて、そのまま背中に長く垂らしている。

セシルは母親に近づいてキスをすると、少女らしい可愛いドレスの裾を手で広げて嬉しそうな顔をする。セシルは赤い紐にぶら下がった鍵を母親に手渡し、膝を折ってメルトイユ侯爵夫人に挨拶する。

それからセシルはテーブルの周りに沿って踊る。この舞台では、セシルだけがトゥ・シューズを履いてポワントで踊る。セシルはメルトイユ侯爵夫人に興味を感じた様子で、メルトイユ侯爵夫人の椅子の背に手をかけて片脚を高く上げ、メルトイユ侯爵夫人の背後からいきなり顔を出して彼女に微笑みかける。

メルトイユ侯爵夫人はムッとした顔をする。だがセシルは無邪気に両足を揃えて回転しながらテーブルの後ろを回る。長い髪とドレスの裾がひらひらと美しく翻る。メルトイユ侯爵夫人はその間も、こんなガキ、という表情でセシルを眺めている。

メルトイユ侯爵夫人と母親はその後もカードで遊ぶ。セシルはその隙に、テーブルの上にあった鍵をそっと拾い上げる。彼女は母親を見つめたまま、悪戯っぽい笑顔を浮かべて、トゥで歩いたり、アティチュードで回ったりしながら、鍵を持ってこっそりと部屋から出て行こうとする。メルトイユ侯爵夫人はそ知らぬ風を装っている。

だがセシルが扉を開けようとした瞬間、ヴォランジュ夫人は「セシル!」と叱咤し、前を向いたままセシルに手を差し出す。セシルは気まずい表情で戻ってきて、母親の手に鍵を戻す。メルトイユ侯爵夫人は面白そうにその様子を眺める。セシルに興味をそそられたようである。

セシルは真ん中の空いた椅子に座らされるが、じっとしていられない。イジけた顔で椅子からずり落ちたり、乱暴に足をバタつかせたりしては母親に叱られる。母親が見ていない間に、セシルは母親に向かってこっそり舌を出す。セシルは自分もカード遊びに加わろうとして、カードを手に取って母親に見せるが、まったく相手にされない。

ついにセシルは癇癪を起こし、椅子から立ち上がってカードをつかむと、それらをぶん投げて両腕を振り回して地団駄を踏む(ちゃんと踊りになっている)。しかし母親に睨まれると、セシルは萎縮した態度で床に落ちたカードを拾い集めて母親に手渡す。ヴォランジュ夫人はセシルを舞台右端の椅子に一人で座らせる。

突然もったいぶった音楽が流れ、ステッキを持ったジェルクールが現れる。ヴォランジュ夫人はあわててセシルのドレスや髪を直し、彼にセシルを紹介する。セシルは不審そうな顔をしながらも、いちおう愛想笑いを浮かべて彼にお辞儀をする。

メルトイユ侯爵夫人はジェルクールの姿を認めるなり憤然とした表情になり、鍵を手でもてあそびながら部屋の奥の椅子に移動する。

ジェルクールは気取った表情でふんぞり返り、厳しい視線で値踏みするようにセシルの姿を眺める。ステッキで彼女の顔を持ち上げたり、彼女の周りを歩いて眺めたり、背後から彼女の髪の香りを嗅いだりし、セシルは嫌悪感に満ちた表情で飛び上がる。

ヴォランジュ夫人はセシルをジェルクールと踊らせる。まずジェルクールが両腕を湾曲させた姿勢で、ゆっくりとステップを踏んで前に進み出る。次にセシルが同じように踊って前に出てくるはずである。だがセシルは動こうとしない。

ジェルクールは横目でセシルをちらっと見る(この表情が笑える)。ヴォランジュ夫人がセシルの背を押し、嫌がるセシルの手を無理やりジェルクールの手の上に重ねさせる。

その後も、セシルはジェルクールの手と自分の手を極力重ねないようにしながら、実に嫌そうな顔でなんとか踊る。しかしジェルクールが彼女にキスしようとしたり、彼女の体を撫で上げたりするので、セシルは遂に逃げ出してメルトイユ侯爵夫人に助けを求める。

メルトイユ侯爵夫人がセシルに耳打ちし、ジェルクールがセシルの結婚相手であることを教える。セシルは驚愕する。彼女はまずジェルクール、次に自分を指し示し、首を激しく振って嫌だという仕草をする。

そしてメルトイユ侯爵夫人はわざとジェルクールの目の前に姿を現す。途端にジェルクールはうろたえ、非常に気まずそうな顔になる。メルトイユ侯爵夫人はジェルクールをきっと見据え、以前のように接吻を迫って彼に手を差し出す。ジェルクールがそそくさと彼女の手に接吻すると、彼女は勝ち誇ったように微笑する。

いつのまにかこの一部始終をヴァルモンが窓の外から眺めている。ヴォランジュ夫人がジェルクールを呼び寄せ、彼らはテーブルについて、セシルとジェルクールの結婚に関する書類を取りまとめる。

正面奥の扉が大きく開き、ヴァルモンが姿を現す。メルトイユ侯爵夫人は婉然とした微笑を浮かべてヴァルモンを迎え、彼はメルトイユ侯爵夫人の手を引き寄せて接吻する。彼女はヴァルモンにセシルを紹介する。

ヴァルモンとメルトイユ侯爵夫人は両腕を広げて中腰になり、セシルを囲んで同時に下からのぞき込むように体を伸ばす。気味の悪い爬虫類的仕草で、セシルは不安そうな顔になる。

ヴァルモンがセシルの手に接吻し、彼女の顔を撫でる。それに気づいたヴォランジュ夫人が急いでやって来て、娘をヴァルモンから引き離す。ヴァルモンはヴォランジュ夫人の手に接吻して、今度は母親の首筋を撫でてからかう。ヴォランジュ夫人は思わずうっとりしかけるが、あわてて我に返ってヴァルモンから離れる。

セシルは再びジェルクールと踊らされるが、セシルはその都度メルトイユ侯爵夫人のところへ逃げてしまう。

セシル、メルトイユ侯爵夫人、ヴァルモンが三人で手をつないで踊る。メルトイユ侯爵夫人はセシルをヴァルモンに近づけようとするが、セシルは怯えてメルトイユ侯爵夫人の隣に回りこむ。メルトイユ侯爵夫人は自分の手とヴァルモンの手を重ね、二人でセシルの手を握って彼女を見つめる。

セシルが離れた間に、メルトイユ侯爵夫人はヴァルモンと手をつないで踊る。ヴォランジュ夫人とメルトイユ侯爵夫人が手をつないで踊った振りとよく似ている。メルトイユ侯爵夫人とヴァルモンは結託している。最後にメルトイユ侯爵夫人はヴァルモンの顔を両手で挟み、セシルの方に向けさせる。

セシルはジェルクールと踊りながら、始終メルトイユ侯爵夫人に助けを求める。このとき、セシルはジェルクールに片腕をつかまれたまま、アラベスクの姿勢でメルトイユ侯爵夫人に向かって手を伸ばす。ジェルクールはステッキでセシルの背を支えて回り、セシルは嫌がって身をのけぞらせる。

セシルはまたもや逃げ出し、ジェルクールは機嫌を損ねてしまう。気を回したヴォランジュ夫人が、とりなすように彼を促して庭に出る。メルトイユ侯爵夫人は嫌がるセシルの背を押し、無理に庭に出て行かせる。

メルトイユ侯爵夫人は、目を閉じて自分の顔を手で上から下へ撫でる。前にも出てきた仕草で、表向きの「マスク」を脱いだことを示す。彼女の手はそのまま自分の胸から下腹部へと這っていく。

それから目を見開いたメルトイユ侯爵夫人の表情は、怒りと憎しみに満ちている。彼女は感情を爆発させたように、何度も両手を打ちつけ(効果音に合わせている)、上半身を大きく反らせ、体を激しく動かし、ドレスの裾をつかんで床に叩きつけるようにして膝をつく。ヴァルモンは右奥の椅子に座り、静かな表情でメルトイユ侯爵夫人の姿を凝視している。

メルトイユ侯爵夫人は前を睨みつけたまま、手だけでヴァルモンを呼び寄せる。彼女は胸元から赤い紐にぶら下がった鍵を取り出してヴァルモンに見せ、セシルを指さす。セシルを物にしろ、というのである。だがヴァルモンは、冗談でしょ、という風に軽く笑って首を振り、メルトイユ侯爵夫人から離れる。

しかしメルトイユ侯爵夫人はヴァルモンの手をつかみ、後ろへねじり上げて片足で彼の背中を踏みつける。それから彼女はヴァルモンの手を取って自分の体を触らせ、彼の上着の内ポケットに鍵をねじこむ。ヴァルモンとメルトイユ侯爵夫人は再び体を重ねて踊る。

その間、外では嫌がるセシルにジェルクールがセクハラをし続けている。ヴォランジュ夫人もジェルクールに全面協力する。なんと母親までがステッキでセシルを押さえつけ、ジェルクールと密着させる。この演出を見て、クーパー君もやっぱりイギリス人なんだな〜、と思った。

ヴァルモンはいったん姿を消す。メルトイユ侯爵夫人は部屋の隅で昂ぶった感情を鎮めている。ヴォランジュ夫人、セシル、ジェルクールが戻ってくる。セシルはメルトイユ侯爵夫人に近づこうとするが、ただならぬ雰囲気を察してためらう。だがくるりと振り向いたメルトイユ侯爵夫人は、一転して優雅な微笑を浮かべている。

ヴァルモンが楽譜を抱えた青年、ダンスニーを連れて現れる。ダンスニーはアイボリーの襟付きの上着にベスト、ズボンと簡素な服装。ヴァルモンは、セシルとヴォランジュ夫人にダンスニーを紹介する。

セシルはヴォランジュ夫人の背後からダンスニーを眺める。彼に好意を持った様子で、母親の背中を支えにして、笑顔で片脚を後ろにぐぐーっと高く上げる。セシルはダンスニーから手への接吻を受けている間、恥じらいながらも彼をじっと見つめている。

召使が、舞台の右にある大きなテーブル状の物を覆っていたカバーを取り払う。ハープシコード。セシルはその前に座り、ダンスニーが彼女の横に立つ。ヴォランジュ夫人は満足げにその様子を見つめている。

セシルがハープシコードを弾き始めると、左のテーブルに座っていたメルトイユ侯爵夫人とヴァルモンは思いっきり退屈そうな表情になり、メルトイユ侯爵夫人は額を手で押さえて首を振り、ヴァルモンに至っては大あくびをする。

ヴォランジュ夫人がテーブルにやって来る。メルトイユ侯爵夫人は机を叩いてヴァルモンに注意を促し、彼らは一転して両手を広げてすばらしい!という仕草をする。ヴォランジュ夫人だけがご満悦。ここはイギリスでは笑いが起きるだろう。

ダンスニーはセシルの手に自分の手を重ねて、弾き方を教える。セシルが立ち上がり、ダンスニーの弾くメロディに合わせて、ハープシコードの周りに沿って踊る。ハープシコードを支えにして、ポワントの両脚を曲げ、また高々とアラベスクをしたのが美しかった。

セシルはポワントで左のテーブルにこっそりと近づく。セシルは母親が自分を見ていないことを確認すると、再びハープシコードの前に座る。すると、いきなりハープシコードが先端を軸にして、椅子ごと回転し始める。

回転するハープシコードの上で、セシルとダンスニーは背中合わせに座り、またお互いの手をくるくると回して重ね合わせる。この手を回して重ね合わせる仕草も、後で何度か繰り返される。

ダンスニーが椅子から飛び降り、舞台右でピルエットをすると、上着の裾が美しく翻る。彼はそのまま軽くジャンプして回転しながら移動し、ハープシコードの上に立ったセシルの両脇を抱えて降ろす。セシルが真ん中で踊っている間に、ダンスニーは回転し続けるハープシコードの椅子に飛び乗り、片脚を前に高く上げながら椅子から飛び下りる。

ふたりが踊っている間、ヴァルモンはヴォランジュ夫人にしきりに耳打ちし、セシルとダンスニーから注意をそらせ続ける。メルトイユ侯爵夫人はその様子を見て、顔をそむけて笑いをこらえている。

ダンスニーはセシルを抱えて振り回す。それからセシルをお姫様抱っこすると、音楽(ピン、という一音のみ)に合わせてセシルを高くリフト、同時にセシルはアラベスクの姿勢で静止する。お見事。

ダンスニーはセシルを下ろし、彼女の手を取って再びハープシコードの前に座らせる。そこでちょうどヴォランジュ夫人がやって来る。ダンスニーはヴォランジュ夫人に一礼する。

レッスンを終えたダンスニーに、ヴァルモンがこっそり鍵を渡そうとする。ダンスニーは驚いてためらうが、ヴァルモンはダンスニーの腕をねじり上げ、彼の手に無理やり鍵を握らせる。メルトイユ侯爵夫人に頼まれた「仕事」をダンスニーに押しつけたのである。

ここは踊りになっている。ヴァルモンはダンスニーの腕をねじり上げて鍵を握らせると、ダンスニーの腕をつかんだまま片脚を高く上げ、爪先を回転させて伸ばす。ダンスニーは鍵を無理やり握らされて突き飛ばされ、回転しながらヴァルモンの背後に移動する。メルトイユ侯爵夫人がそれに気づく。彼女は硬い表情でヴァルモンに近づき、ふたりはちょっとした口論になる。

メルトイユ侯爵夫人はヴォランジュ夫人と手をつないで並んで踊る。同じ振りで、二人の長いドレスの裾が同時に重たげに翻るのが、なぜかとても印象的だった。

次にヴァルモンがヴォランジュ夫人をつかまえて踊って彼女を抱きしめ、セシルとダンスニーから注意をそらせる。ダンスニーがセシルの額にキスをする。メルトイユ侯爵夫人がそれを見つける。うろたえるセシルに、メルトイユ侯爵夫人は唇に指を当てて微笑し、母親には告げ口しないと約束する。

だが、セシルとダンスニーが見つめあっている間に、メルトイユ侯爵夫人はヴォランジュ夫人にこっそり耳打ちし、セシルとダンスニーの仲を教えてしまう。音楽が速いテンポの緊迫したメロディのものになる。

ヴォランジュ夫人は途端に激怒して、見つめあっているセシルとダンスニーとの間に割って入り、彼に出ていくように命令する。この指さす仕草が「バシ!」という鋭い効果音に合っている。

セシルは母親に必死に抗議するが、ヴォランジュ夫人は勢いで娘をビンタしてしまう。これも同じ効果音に合わせている。セシルはぶたれた頬を押さえ、ヴォランジュ夫人も呆然として両手を自分の顔に当て、自分の行為にショックを受ける。

ヴァルモンはダンスニーにとりあえず出ていくように助言する。後悔してなだめようとする母親をセシルは激しく拒否し、メルトイユ侯爵夫人にすがりつく。ここで舞台が暗転し、セシルが中央でソロを踊る。

暗い舞台の中で、踊るセシルの黄色いドレスと四肢が浮き上がる。母親を睨みつけたまま、手足を真っ直ぐに伸ばしたまま激しく速く動かす。両脚を交互に前に鋭く振り上げる動きが美しかった。

ヴァルモンが打ちひしがれたヴォランジュ夫人を慰めている(たらしこんでいる)間に、メルトイユ侯爵夫人はセシルに何事かを耳打ちし、それを聞いたセシルは嬉しそうな顔をする。彼らは自分の胸に手を当て、またお互いの口に手を当てる。ここでほんの一瞬、音楽が止まる。

自分の胸に手を当て、お互いの口に手を当てる仕草は、プロローグでメルトイユ侯爵夫人とヴァルモンもやっていた。秘密を持ち、それを口外しない、という約束である。メルトイユ侯爵夫人は、ダンスニーとセシルの仲をヴァルモンと自分が取り持つことをセシルに告げて、彼女に秘密を守るよう言い含める。

音楽が再開すると、セシルはいきなり明るい表情になり、母親と抱き合って和解する。ヴォランジュ夫人とセシルが去った後、ヴァルモンはメルトイユ侯爵夫人に向かって拍手を送る。メルトイユ侯爵夫人は優雅にお辞儀をしてそれに応える。

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