Club Pelican

THEATRE

「ガイズ・アンド・ドールズ」
"Guys And Dolls"

クラップ・ゲーム開催当日、ギャンブラーたちがぞろぞろと集まる。彼らがずらりと居並ぶと、彼らの胸ポケットには一様に赤いカーネーションが飾られている。ベニーが念を押す。「いいか、これが賭場に入る目印だからな。」 ネイサンも現れる。博打仲間のハリーが「今日はすばらしいお客さんが来たんだぜ。ビッグ・ジューリ!」 言うなり、ギャンブラーたちの後ろから、白いコートを着た、チビで小太りの男、ビッグ・ジューリ(Nick Cavaliere)が姿を現わす。

ビッグ・ジューリは無言のままカーネーションを手でもてあそび、葉巻を口にくわえる。観客は大爆笑。このNick Cavaliereがまたいい味を出してるのである。コロコロした体つきに目はつぶらでぱっちり。でも人相悪い。ネイサンは寄っていって挨拶し、ビッグ・ジューリの肩や胸を親しげにポンポンと叩く。だがネイサンはビッグ・ジューリが拳銃を持っていることを手触りで察知し、ヤバい人物が来てしまった、と真っ青になる。

「おや、おや!」とブラニガン警部補が現れる。ブラニガンは集まったギャンブラーの名前を一つ一つ挙げていき、「ギャンブラーが勢ぞろいだ。これは何の集まりかな?」と疑い深く尋ねる。みなが押し黙る中で、たまたまアデレイドが通りかかる。それを見たベニーが咄嗟に答える。「ネイサンの結婚祝いパーティーなんです!」 ベニーは言うなり、仲間全員に「ヤツはいい男だ、ヤツはいい男だ、ヤツはいい男だ・・・」と歌わせる。

アデレイドは狂喜してネイサンに抱きつく。「どうして言ってくれなかったの?」 ネイサンはベニーを睨みつけながら「サプライズにしようと思ったんだ」と答える。ネイサンは何とか結婚を引き伸ばそうとするが、ブラニガンやアデレイドに急かされる。ネイサンは観念して"Adelaide"を歌い、彼女への愛と感謝を述べる。この作品では、ネイサン役は歌の担当ではない。ネイサン役のNeil Morrisseyもそんなに歌が上手なわけではないが、そのしゃべるような自然な歌い方が渋くて良い。ギャンブラーたちも合唱する。

みなが去った後、ネイサンはスカイがホテルにいないことを知らされる。やがて救世軍の行進が近づいてくる。ネイサンは一人一人の面子を数える。ところがいつも最後尾にいるはずのサラがいない。ネイサンは呆然とし、ふ〜、と後ろに倒れて気絶する。

舞台が暗転すると、間をおかずに、舞台の右端に色とりどりなフリルでふくらんだ袖の、南米風の衣装を着た青年が現れ、細長い太鼓を手で叩き出す。弾んだリズムの明るいラテンな音楽が演奏され始める。でも、よく聞くと救世軍がいつも歌っている賛美歌をラテン風にアレンジしたものである。背景には大きな白い満月が浮かんでいる。

黒髪に南米風の衣装を着た男女が数人現れ、音楽に合わせて踊りだす。ここはキューバのハバナである。彼らの間を縫って、サラとスカイがやって来る。サラは淡い紫のツーピース、スカイはダブルのダーク・スーツに帽子、薄いグレーのネクタイ姿。やっぱりこういう濃い色の衣装のほうが、クーパー君のスタイルの良さが強調されるわ〜。うなじから肩、背中にかけての線がきれいでカッコいいこと♪

サラはガイドブックを片手に、熱心にあたりを見物して回る。「この教会は200年前の建造で・・・、」「この牢獄は・・・」といちいち読み上げ、後ろにいるスカイは苦笑しながらも少々うんざり顔。スカイはサラの手を引っ張ってようやく食事に連れて行く。途端に舞台の右袖からU字型のカウンターが出てきて、舞台はにぎやかなレストランとなる。スカイとサラはカウンター席につく。

歌手が現れてゆっくりしたテンポのラテンな感じの歌を歌い始める。が、実はこれも救世軍の例の賛美歌をアレンジした曲である。賛美歌をアレンジなんかしちゃっていーのだろうか。スカイ「飲み物は?」 サラ「ミルク・シェイク!」 スカイは苦笑しながら、カウンターのおばちゃんに「ドルセ・デ・レチェ」と注文する。おばちゃんは瓜みたいな果物をドン!と真っ二つに切ると、中に何やらなみなみと注ぎ込んで、ストローを挿して二人の前に置く。

サラは一口すするなり「おいしいわ!」と感嘆し、ストローをとっぱらって直に一気飲みしてしまう。「おかわりちょうだい!」 カウンターのおばちゃんは無愛想にまたドン!と果物を切り、おかわりを作ってサラの前に置く。サラはスカイに聞く。「普通のミルクじゃないわ。何が入っているの?」

スカイは答える。「牛乳に砂糖と、それから少しばかりの香味料が。」 サラ「なんていう香味料?」 スカイは目をそらしてしばらく黙り、すばやく答える。「・・・バカルディ。」 観客がドッと笑う。バカルディとはラム酒の名前である。サラは自分が普段は排斥している酒を口にしてしまったのだ。しかしサラはバカルディと聞いても分からない。「こんなにおいしいミルクだったら、子どもも喜んで飲むわよ!」 観客がまた笑う。

サラは2杯目もずずず〜っ、とあっという間に飲み干してしまう。折しもフロアでは人々が踊っていて、中央で赤いドレスを着た魅力的な女(Pip Jordan)が男(Taylor James)と一緒にセクシーな踊りを踊っている。すっかりご機嫌になったサラは、立ち上がると上着を脱いでスカイの顔に叩きつけ、音楽に合わせて左右に体を揺らしながら踊りの列に加わる。途中、サラは両脇を通りがかった2人のボーイが、トレイの上にともに「ドルセ・デ・レチェ」を乗せているのに気づくと、両手に持って交互に盗み飲みし、いよいよご機嫌に踊る。スカイは彼女のそんな様子を楽しげに見つめている。

挙句にサラは酒瓶を手に持ってぐいっと飲み干し、男たちとともにカウンターの上によじのぼり、彼らと一列になって並んで踊り始める。踊りながらカウンターを一周し、最後は男たちの股下を横になってすべりながらくぐり、床に降り立つ。スカートがめくれあがって下着が見えそうになっている。足元のふらついたサラを、赤いドレスの女と踊っていた男が抱き支える。酔っぱらったサラは男の背中に腕を回し、「ありがと♪」と男の頬にキスをする。

それを見た赤いドレスの女が激怒する。女は男とサラを睨みつけたまま、傍に立っていたスカイの腕をぐいっと引っ張り、自分を抱きかかえさせる。女は脚を上げ、むきだしになった片脚をスカイの肩に乗せる。ここでクーパー君は、女性ダンサーに腕をつかまれた瞬間に「踊りモード」になったのが分かった。引っ張られながら(身の翻し方がきれい)女性ダンサーの背中をかかえ、女性ダンサーが脚を上げた瞬間に彼女の体の前にさっと入り込んで静止。あの上着を脱いだ肩と背中が踊りの体勢に入っている。女はサラと男を見てニヤリと笑う。

今度は男がムッとする。男はサラの背中を押して上半身を前に曲げさせたり、サラの両腕をつかんだまま、自分の股の下をぐりんとくぐらせて元に戻したりして女に見せつける。サラは操り人形みたいにされるがまま、サラのギクシャクした奇妙で滑稽な動きに、観客が大笑いする。

男女がペアになっての踊りが始まる。サラは男と、スカイは赤いドレスの女と組む。ここでの踊りは男性が女性を持ち上げたり振り回したりというリフト技が多かった。踊れないサラは男に容赦なくぶんぶん振り回されて悲鳴を上げる。彼女は恐怖のあまり顔がこわばり、男の首に必死にすがりつきながら、その両手を祈る形に組んで神様に助けを求める。

ここの踊りの振付では、女性が男性の体にひっついた状態で、男性が中腰になって片足でだん、だん、だん、だんと大きく足踏みをしながら回転していく振りが面白かった。さてクーパー君はもちろんどのリフトも完璧よ♪姿勢はびしっとしてきれいだし、動きは優雅だし、女性の体を逆さに高く持ち上げて振り下ろすところもキレがあって美しい。わずかに笑みを含んだ表情もクールでいい。この群舞の中で動きが最も安定していたのは、まちがいなくクーパー君ペアよ。

最後は男性が女性の体を斜めに倒した状態で支えて終わる。だが、赤いドレスの女とスカイのペアだけは、女がスカイの体を斜めに倒して抱きすくめたまま、むちゅちゅちゅう〜と情熱的なキスをしている。クーパー君、女性ダンサーに支えられているとはいえ、長時間あの体勢で辛くないのか?荒川静香選手の「イナバウアー」なみの柔らかさだ。

サラは憤然とした顔で女とスカイを引き剥がし、女にビンタを食らわす。女も負けずにやり返す。サラはまたビンタする。女が再び反撃し、サラは身を伏せてかわすが、起きなおった瞬間に殴られる。女が更に殴りかかろうとしたところで、サラは近くにあった「ドルセ・デ・レチェ」を飲みながら「待って、待って」と言う。女が勝ったと思って背を向けたところで、「ドルセ・デ・レチェ」を飲み終わったサラが女の肩を叩く。女が振り返った瞬間、サラは女の顔にグーでパンチする。女はノックダウン。

スカイがサラの体を肩の上に乗せ、男も赤いドレスの女を肩の上に乗せて、二人は舞台上を右往左往する。抱え上げられた女たちは相手を至近距離に発見するやいなや、両腕を伸ばして空中で相手につかみかかる。スカイと男はあわてて離れる。

彼らを除いた全員が舞台の左に集まって集団で陽気に踊る。その後ろでは、いまだにサラと女がモメている。女に首を絞め上げられて白目を向いたサラの顔が、踊る人々の頭上に浮き上がる。これには大爆笑した。これ、実はクーパー君と男性ダンサーとで彼女の体を持ち上げているんだよね。

再び男女がペアになってタンゴのような踊りを踊り始める。今度はスカイとサラが組んで踊っている。スカイとサラは後方で踊っていて、なんで前にこないんだろ、と不思議だった。ところが、人々が踊り続ける中、ふとスカイは踊りをやめ、一輪のバラの花を拾い上げてサラに手渡す。サラとスカイは抱き合う。人々は男女ともに床に伏せた状態で踊り終える。すると彼らの後ろに、抱き合ってキスをしているサラとスカイの姿が浮き出る。

舞台上から人々がいなくなる。スカイはサラを支えながら歩く。すると、赤いドレスの女が男に持ち上げられたまま現れる。女はサラを見つけると両腕を振り回して怒鳴り、サラもファイティング・ポーズで女に向かっていく。スカイがあわててそれをとめ、男も女を抱え上げたまま去っていく。女は最後まで怒鳴り続けながら姿が消える。

スカイは「もう試合終了だ。君がチャンピオンだよ」とサラに言う。サラは片手を上げて「イエ〜イ」とガッツポーズ。スカイは穏やかに笑い、優しいまなざしでサラを見つめる。今にして思えば、クーパー君のこういう細かい表情の変化に注意するべきだった。「生中継旅日記」で悪口言ってしまって申し訳なかったな。

背景には大きな満月。スカイは「気分はどう?」と尋ねる。サラはまだ酔いが冷めていない。「ぜんっぜん大丈夫!」と言ったあと、「私の気分はどうか聞いてみて」と"If I Were a Bell"を歌い始める。サラはご機嫌で「もし私が鐘ならば、キンコンカンコンと響くわ」と歌いながら、体を鐘のように左右に揺らす。透明感のあるきれいな声の人だけど、「もし私が橋ならば燃え盛るわ」というところでは力強いこぶしをきかせて歌い、観客の笑いを誘っていた。

スカイとサラは抱き合い、情熱的なキスをする。が、それまで微笑んでいたスカイの表情がいきなり曇る。彼はサラを引き離して「もうニューヨークに帰らないと」と言う。サラは「そんなのどうだっていいわ。ここにしばらくいましょうよ」と駄々をこねる。だがスカイは「君をニューヨークに連れて帰る」と譲らない。スカイは曖昧に言う。「こういうのはよくない。」 サラ「私はいいわよ。」 スカイ「俺がよくないんだ。」 スカイは嫌がって叫びまくるサラの体を担ぎ上げて帰っていく。

ニューヨーク。スカイとサラは救世軍の教会に戻ってくる。酔いからさめたサラはなんとなく照れくさそう。「今、何時かしら?」 スカイ「さあ、夜明けに近いんだろう。」 そこへ、大勢で「たーたったたー」と結婚式のマーチを合唱しながら、アデレイドと女たちが現れる。アデレイドは首から杓やらフライ返しやらボウルやら、大量の料理用具をぶら下げている。アデレイドはスカイを見つけると「あたし、ネイサンと結婚するのよ!みんながキッチン・シャワーをしてくれたの!」と嬉しそうに言う。スカイは笑って「それはよかった」と祝福する。

ある女が「今度は『夜』用のシャワーをしないとね!」と言うと、アデレイドと女たちはドッと笑い、また「たーたったたー」と陽気に歌いながら去っていく。サラは「彼女は恋に落ちているのね」と微笑んで言う。スカイはそんなサラを見つめる。

スカイが"My Time of Day"を歌い始める。君を愛してしまったと打ち明ける歌である。この歌は低音部が多く、緩急つけながらなめらかに歌わなければならない曲である。クーパー君はちょっと辛そうだったがよく歌っていた。ただ低音部になると声量がやや下がってしまい、声がオーケストラに消されてしまう。

だが私が大絶賛したいのは、続いて歌われる"I've Never Been in Love Before"である。もともと美しい歌だが、この曲でのクーパー君の歌声のなんと美しかったこと!特に出だし。不覚にも聞きほれてしまった。ここは観客全員が聞き入っていたに違いない。スカイは真剣な表情で、また自嘲気味に、恋したことのなかった自分が恋してしまった、自分は恋に落ちるはずなどないと思っていたのに、と歌う。その後に続いてサラも同じ曲を歌う。間奏部分で、二人は並んでゆっくりとしたステップを踏み始め(ここはとてもきれいだった)、そして腕を組んで踊る。歌い終わると、二人は抱き合って情熱的なキスをする。

スカイとサラがキスをしているところへ、例によって夜中の行進をしていた救世軍の人々が帰ってくる。サラはあわててスカイから離れる。アーバイド「サラ、どこへ行っていたんだい?」 サラ「キューバのハバナよ。」 アーバイド「夜どおしの行進よりは少し疲れるねえ。」

突然ベニーが「警察だ〜!!!」と叫びながら、教会の中に駆け込んでいく。それと同時に無人のはずだった教会の中から、大勢のギャンブラーたちがクモの子を散らすように出てくる。呆然とする救世軍の人々とサラ。スカイはネイサンをひっつかまえて、一体どういうことなのかと詰問するが逃げられてしまう。やがてブラニガン警部補と警官たちが現れる。が、ギャンブラーたちはとっくに逃げ去っている。警部補たちは「空振りだ!」と言って引き上げる。

サラの表情が硬くなる。スカイは賭場を開くためにサラを連れ出したのではないと弁明する。しかしサラは信じようとしない。「私は行くべきじゃなかった。私が行かなければ、こんなことにはならなかった。あなたはこれで賭けに勝ったの?全部の賭けに勝ったの?」 最後にサラは「私はあなたとは違うわ!教会の女よ!」と言い捨て、教会の中へ入っていってしまう。スカイは顔を曇らせ、ややうつむいて帽子をかぶりなおす。大きな満月に照らされて、スカイの影が黒く浮かび上がっている。第一幕が終わる。

(2006年3月17日)

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