Club Pelican

THEATRE

「ガイズ・アンド・ドールズ」
"Guys And Dolls"
Music & Lyrics:Frank Loesser
Book:Jo Swerling and Abe Burrows
Director:Michael Grandage
Design:Christopher Oram
Choreography:Rob Ashford


注:このあらすじは、ロンドンのピカデリー劇場で2006年3月6-11日に行なわれた公演に沿っています。登場人物の性格や行動の描写は、当日出演したキャストの演技を、私なりに解釈したものです。また、もっぱら私個人の記憶(と語学力)に頼っているため、シーンの順番、セリフ、また踊りの振付などを誤って記している可能性があります。


第一幕

舞台の両脇には鉄筋でできた高い骨組み、舞台の背景は濃い灰色のレンガの壁。壁の左上部に"GUYS AND DOLLS"という電球の看板が光っている。

タイトルナンバー"Guys and Dolls"のメロディの前奏曲が勢いよく流れる。すると"GUYS AND DOLLS"の一文字一文字が、火花を散らしながらパン、パンと弾けるような音を立てる。途中でナイスリー(Martyn Ellis)、ベニー(Sebastien Torkia)、ラスティ(Andrew Playfoot)が競馬新聞を片手に出てきて、喧々諤々の議論を始める。最後にアデレイド(Sally Ann Triplett)が出てきて「ハックション!」とくしゃみをする。前奏曲終わり。

曲がゴージャスなメロディ("If I Were A Bell"をアレンジしたもの?)になる。途端に後ろの灰色の壁が上がる。打って変わって、その後ろには色とりどりのワンピースを着たおしゃれな女性たちと、その恋人らしいスーツを着た男性たちがいて、背景にはニューヨークの高層ビル群が立ち並び、その明かりが眩しくきらめいている。恋人たちは大きく身を翻して華やかに踊り始める。女性たちは男性たちにわざとつれない態度を取り、ハンカチをひらりと床に落として男性に拾わせる。

恋人たちが踊り終わると、奥から再びナイスリー、ベニー、ラスティが出てきて、"Fugue for Tinhorns"を歌いながら、あの馬で決まりだ、いやこの馬がいい、と競馬の話を始める。ナイスリー役のMartyn Ellisは声量があり、声がよく通る。容姿も小太りで愛嬌のある顔立ちをしている。

通りにははしゃぐ女たち、競馬とギャンブルの話題に興じる男たちがたむろしている。そこへ、赤い軍服に身を包んだ救世軍の一団が、賛美歌"Follow the Fold"を合唱しながら行進してくる。タンバリンを持ったサラ・ブラウン(Kelly Price)は、人々に向かって飲酒や賭博をやめるよう必死に呼びかけるが、誰も一向に耳を貸さない。あきらめたサラは教会の集会へ参加してくれるよう、力ない声で言い残して去る。サラ役のKelly Priceは目のぱっちりした美女で、金髪の巻き毛のウィッグをかぶっている。

ナイスリーたちが再びギャンブルの話に興じていると、ニューヨーク市警のブラニガン警部補(Jo Servi)が現れる。ブラニガン警部補は違法ギャンブルの取り締まりに力を入れており、胴元のネイサン・デトロイトの居場所をナイスリーたちに横柄な態度で問い質す。

そこへタイミング悪くネイサン(Neil Morrissey)が現れ、「どこも(賭場を開く)場所を貸してくれねえよ。みんなブラニガンの手が回っていて・・・」と言いかけたところで、ブラニガンの存在に気づく。ネイサンは「・・・たまたまブラニガンという人の話をしていたらブラニガン警部補がいた、というわけで」とごまかす。ネイサン役のNeil Morrisseyは背が高く痩せており、気弱っぽい冴えないオヤジだが、優しそうな雰囲気の人である。

ブラニガンはネイサンに詰め寄り、ギャンブル(Crap game、サイコロ賭博)を開くことはできないと脅して去る。ネイサンはその背中に向かってイヤミを言う。「そのほうがあんたの給料が上がるんだもんな!」 ネイサンはナイスリーたちにただ一つ、ジョーイの倉庫なら借りられるのだが、それには現金で前金1,000ドルが必要だと話す。現金のないネイサンは借用書(marker)で借りようとしたのだが、ジョーイに断られたのだ。ネイサンは「借用書は神聖なものなのに!」と憤る。(←チンピラのクセによく言うわ)

街のギャンブラー(Crapshooter)たちがネイサンを見つけて寄ってくる。彼らは"The Oldest Established"を歌ってネイサンを称え、彼に賭場を開いてくれるよう頼む。ネイサンは彼らに賭場は必ず開くと約束してしまう。

ギャンブラーの一人が、今、スカイ・マスターソンがニューヨークに来ている、とネイサンに教える。スカイ・マスターソンは大物ギャンブラーで、インフルエンザに罹ったときもペニシリンを注射せず、熱が40度を越えるかどうか賭けたような男なのだ。(←アホか) ネイサンはスカイを騙して彼から1,000ドルをせしめることを思いつき、ナイスリーとベニーに行きつけのレストランのケーキの売り上げ数を尋ねに行かせる。

そこへネイサンの婚約者、アデレイドが現れる。アデレイド役のSally Ann Triplettはブルネットのウィッグをかぶっている。ハスキーな声音で、主役4人の中で最も役作りがうまくいっていたのはこの人であった。アデレイドは甘えたユーモラスな表情と声音で14回目の婚約記念プレゼントをネイサンに贈る。アデレイドはもういいかげん結婚したいのだが、ネイサンは曖昧な態度でごまかしてしまう。

ナイスリーとベニーが戻ってきて、ケーキの売り上げ数を報告する。ネイサンはナイスリーとベニーに、アデレイドをクラブまで送っていかせる。アデレイドは「愛してるわ〜」と言いながら、ナイスリーとベニーに両脇を抱えられてさっさと運び去られる。浮いた両足を未練たらしくバタバタさせているアデレイドに観客は爆笑。

スカイ・マスターソン(Adam Cooper)が現れる。スカイ役のクーパー君は、クリーム色のダブルのスーツに帽子、ブルーのシャツ、シルバーグレーのネクタイという格好で、髪はポマードできれいになでつけている。初めて現れたときの印象は、顔が小さい!線が細い!色が白い!というもので、幅広のスーツが少しだぶついて見えた。背は高いけど、体格のいい他のキャストと比べるとやはり華奢である。

スカイとネイサンは親しげに挨拶をし、スカイはラスベガスで大儲けし、明日はハバナへ行く予定だと話す。クーパー君、相変わらず声高いわね♪でもセリフ回しは流暢で完璧。ネイサンは感心したフリをしながら、チーズケーキとストローデルのどちらを人々はより好むか、賭けをしようと申し出る。

だが罠だと見抜いたスカイは、ネイサンに「親父の教訓」を語って聞かせ、イカサマの賭けには乗らないとネイサンにやんわりと言う。そして帽子を脱いでネイサンの襟元をさっと隠し、「お前のタイは何色だ?」と逆にからかう。答えに詰まるネイサン。

ナイスリーとベニーが戻ってくる。彼らはアデレイドの「ショウが終わったら遅れないで迎えに来てね♪」という伝言を伝える。ネイサンが「よし、もっちろんさ〜」と答えたのをスカイが聞きとがめる。スカイはアデレイドと離れられないネイサンに「罠にはまったな」と言い、女なんかくさるほどいる、とっかえひっかえすればいい、一人の女にこだわることはない、と言ってのける(←うわ、ヤなヤツ)。

しかしネイサンはこれを逆手に取る。「しかしお前はハバナへ一人で行くんだろう?どうして女を連れて行かないんだい?」 スカイ「今回は一人を選んだだけさ。その気になれば、女なんかよりどりみどりだ。」 ネイサン「どんな女でも?」 スカイ「そうさ。お前が指名した女を落としてみせる。」

ネイサンは「賭けるか?」とスカイを煽る。スカイはしばらく考えて、「よし、乗った」とネイサンと握手して承諾する。徐々に救世軍の奏でる賛美歌の音が近づいてきて、救世軍の面々が隊列を組んで現れる。その最後尾にはサラ・ブラウン。ネイサンはサラを指さして言う。「俺が指名するのは彼女だ!」 スカイは仰天して叫ぶ。「あの女を!?」 観客が笑う。スカイは顔をしかめ、手を銃の形に作って自分の頭に向け、「やられた!」とつぶやく。

場所は変わって救世軍の教会。白木作りの粗末な建物。背景が通りに面していて大きな窓や入り口があり、右手に机があって大きな聖書が置いてあって、その前に木のベンチがいくつも並んでいる。さっそくスカイがやって来る。スカイは扉から真面目な表情の顔をのぞかせると、「罪人が入ってもよろしいでしょうか?」としおらしく尋ねる。サラのおじ、アーバイド(John Conroy)が喜んで迎え入れる。

スカイは入るなり突然、顔を手で覆ってわざとらしく泣き出す。「僕の心は罪の重さで張り裂けそうです!」 観客が爆笑する。ミュージカル版「スカイ・アンド・ドールズ」のスカイは、お茶目なキャラクターでもあるようだ。スカイは立っていられないほど(もちろん大ウソ演技)打ちのめされた様子で必死に訴える。「ギャンブルに手を染めてしまって抜けられないんです!」 アーバイドは驚いてスカイをなだめるが、当のスカイは嘆くフリをしながら、上目遣いにサラのほうを興味深げにちらちらと見やる。クーパー君の要領のよさそうな表情が笑える。

めったに人が来ないことを嘆くアーバイドに、この教会にピッタリな罪人たちは夜の街を徘徊しているものだから、夜どおし行進すればさぞ多くの罪人と触れ合えるだろう、とスカイはアドバイスする。アーバイドはスカイのアイディア(?)を喜び、サラならスカイのために適切な助言ができるだろうと彼女を紹介する。

教会内はサラとスカイの二人きりになる。サラはパンフレットをスカイに手渡す。スカイはさっきまでの打ちひしがれた態度はどこへやら、余裕たっぷりに口元に微笑をにじませてサラに近づき、サラはその都度あわてて彼から離れる。

スカイはふと教会内に立てかけてある看板に目をとめる。「それ、間違ってる。」 サラはムッとする「何が間違ってるの?」 スカイ「『箴言』じゃない、『イザヤ書』だ。」 聖書に書いてある言葉の出典が間違っているというのである。サラはムキになって聖書で確かめる。スカイ「『イザヤ書』だろう?」 サラは呆然として「『イザヤ書』よ」と言い、乱暴に聖書を閉じる。

スカイの傲慢な態度、また話題もいつのまにか恋愛に変化し、ついに怒ったサラは「あなたは悩んでなんかいないわ。嘘をついているのね。出て行きなさい!」と怒鳴る。だがスカイは動じない。「嘘も『罪』だろ?じゃあここにいてもいいじゃないか。それともこういうことなのか?『私たちは誰でも受け入れます、ただし、私の嫌いな人は除いて』と?」 サラはぐっと詰まる。

スカイは教会がまったく流行っていないことについて、自分にいいアイディアがあるとサラに持ちかける。明後日の集会に「罪人」を1ダース連れてくるというのだ。スカイはパンフレットの裏に罪人1ダースの借用書を書く。「ただしその代わりに、僕と夕食をともにしてくれないか?」 サラ「なぜ私と夕食を?」 スカイ「腹が減っているからさ。」 またサラはキューバのハバナくんだりまで夕食を食べに行くことを知って仰天する。

自分を口説きにかかるスカイに、サラは"I'll Know"を歌い、自分の理想の男性の姿を述べ、彼が現れるときまで自分は待つ、運命の相手が現れたらきっと自分には分かる、と言う。サラ役のKelly Priceの歌声は艶やかで透きとおった美声。それに対してスカイは、自分の恋は偶然とひらめきだと歌い返す。二人とも、もう運命の相手が目の前にいるのに気づかず歌っているのが面白い。

クーパー君はこれが最初の歌である。うん、まあいいんじゃないかな。声質がサラ役のKelly Priceと全然異なるからちょっと違和感はあるけど、この業界ズレしてない爽やかな声質こそがクーパー君の個性だよね。高音も安定して出てるし、ちゃんときれいにハモってる。

"I'll Know"の最後で、スカイはサラを抱きすくめてキスをする。彼はサラを放すと、帽子をかぶってキザに出て行こうとする。サラは冷静な表情でスカイを戸口まで送ると、彼にいきなりビンタを食らわし(力を抜いてだけどホントに殴ってた)、スカイの借用書をつきかえす。観客から笑いを含んだ「おお!」の声。スカイは痛そうに頬を押さえるが、なおも言う。「殴られたからには、またここに来ないとな。聖書にもあるだろ。もう片方の頬を差し出せ、って。ルカの福音書6章29節!」 観客はまたも爆笑。スカイが去った後、サラは心なしかうっとりした表情で、"I'll know"を静かに歌い終える。

アデレイドの勤めるクラブ、ホット・ボックス。アデレイドと踊り子たちのショウが始まる。ワンピースを着てエプロンをかけ、バケツを持ったアデレイドと踊り子たちは"Bushel and a Peck"を歌いながら踊る。踊り子たちは後ろを向いてかがみこみ、音楽に合わせてお尻だけを振ったり、アデレイドは脚を大きく広げて、股の間からバケツを取り出したりして、ちょっとお下品なショウである。最後、彼女たちがワンピースを脱ぎ捨てると、上は袖なしで胸の下で裾を結んだシャツ、下は超ミニのジーンズで、彼女たちは脚を高く上げて踊り、また一列になってライン・ダンスをする。

閉店したホット・ボックスにネイサンがいる。ネイサンはテーブルにつきながら"Bushel and a Peck"を口ずさむ。ガウンを着たアデレイドが現れる。アデレイドは医者からもらったという精神医学の本を手にしている。風邪が長引くのは精神的な原因からきているのかもしれないというのである。

アデレイドとネイサンは結婚をめぐって言い合いになる。「あたしの田舎じゃ、14年間も婚約する人なんていないわ。」 ネイサン「狭い田舎での場合だろ。」 アデレイドは田舎の母親にとりつくろうために、自分たちが14年前に結婚したと母親に嘘をついたことを告白する。ネイサンは仰天する。アデレイド「そして2年後には・・・」 ネイサン「離婚したと?」 アデレイド「赤ちゃんが生まれたのよ。名前はあなたと同じ、ネイサン、よ♪」 ネイサン「(ヤケになって)それはどうもありがとう!」 アデレイド「どういたしまして。」 結局、ネイサンとアデレイドの間には子どもが5人いることになっていたのだった。

そこへ落としたイヤリングを探しにアデレイドの同僚がやって来る。彼女はネイサンが賭場を開くせいで自分のデートがドタキャンになったことを口にする。それを聞いたアデレイドは「またクラップ・ゲーム(サイコロ賭博)!」と激怒、ネイサンは彼女の前に跪いて許しを請う。

態度をうやむやにしたままネイサンは行ってしまう。アデレイドは"Adelaide's Lament"を一人歌う。結婚していない女は色々な病気や症状に見舞われてしまう、という歌で、観客はこの歌を聴いてかなり大ウケしていた。アデレイド役のSally Ann Triplettは歌い方もユーモラスで巧みであり、崩した歌い方をしても決めるところはしっかり決めていた。歌唱力でも主役4人の中でいちばん優れている。

救世軍の一行が街中を行進していく。いちばん後ろにはサラがいてタンバリンを叩いている。またその後をスカイが不敵な微笑を浮かべて早足で追う。サラはスカイをちらりと見るが、ぷいっと無視する。彼らが去った後、ナイスリーとベニーが現れる。ネイサンに言われてスカイの様子をうかがっていたのだ。サラに無視されているスカイの姿に、ナイスリーは「ケケケケケケケ!」と愉快そうに笑う。この笑い声が妙におかしくてウケた。ナイスリーとベニーは女に振り回され、女に尽くす男のさがを歌ったタイトル・ナンバー、"Guys and Dolls"を歌う。明るい軽快な調子の曲で、体を動かしてリズムをとっている観客が多かった。

救世軍の一行が疲れ果てた様子で夜中の行進から帰還する。そこへ司令部のカートライト将軍(Gaye Brown)らが現れる。カートライト将軍は、サラたちの支部は閉鎖されることに決まったと告げる。サラやアーバイドは閉鎖しないように懇願する。その様子をいつのまにかスカイが見つめている。

スカイは進み出てカートライト将軍に挨拶する。「僕はスカイ・マスターソン、元罪人です。」 スカイはカートライト将軍には見えないように、「罪人1ダース」の借用書をサラにちらつかせながらカートライトに言う。「明後日の夜の集会に来て頂ければ、この支部の実力が分かります。」 サラはついに借用書をスカイからばっと受け取ると、「明後日の集会にぜひおいで下さい」と言う。スカイとサラの商談成立である。

(2006年3月15日)

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