Club Pelican

THEATRE

「招待」
"The Invitation"
Choreography:Kenneth MacMillan
Music:Matyas Seiber
Scenery and Costumes:Nichoras Georgiadis
Lighting:John B. Read


注:このあらすじは、小林紀子バレエ・シアターが2005年7月22、23日に東京の新国立劇場で行なった公演に沿っています。登場人物の性格や行動の描写は、当日踊ったダンサーの演技を、私なりに解釈したものです。また、もっぱら私個人の記憶に頼っているため、シーンや踊りの順番、また踊りの振付などを誤って記している可能性があります。


主な登場人物。少女(The Girl)、少年(Her Cousin、少女のいとこ)、母(Her Mother、少女の母親)、姉妹(Her Older Sisters、少女の姉たち)、家庭教師(The Governess、少女の家の住み込み女家庭教師)、妻(The Wife、招待客の1人)、夫(The Husband、前記の妻の夫)、招待客の子どもたち(Children)、芸人(The Entertainers、雌鳥役1人、雄鶏役2人)、招待客たち(Guests)。

不穏で緊迫感の漂うメロディの前奏曲がけたたましく流れる。幕が上がると、舞台の左右に半裸の女性の銅像、中央奥にやはり半裸で横たわった男性の銅像、その右にも男性の銅像が置いてある。背景は淡いこげ茶色の紗幕で、墨で書きなぐったような樹木が描かれている。照明はほの暗い。

舞台の真ん中で少年が寝転がっている。紗幕の奥では母親が丸テーブルの前に座って招待状の封を閉じている。少年は肘をついて右側にある女性の銅像を一心に見つめている。彼はやがて立ち上がり、女性の銅像の胸に手を触れようとする。母親がそれに気づき、厳しい表情で椅子から立ち上がる。母親のほうを振り向いた少年は、慌てて手を引っ込めて逃げ出す。

母親と2人の姉が腕を組み、歩調を合わせて歩いてくる。姉たちは襟のぴっちり閉じたドレスを着て、つば広の帽子をかぶっている。姉たちはふと母親の腕から離れ、腕を伸ばして女性の銅像に手を触れようとする。しかしその都度、母親に腕をつかまれて止められる。ここはアラベスクをした姉の片腕を母親がつかんで支える、という振りになっている。また、姉たちは自分の太腿から胸を撫で上げる。彼女たちは思春期にあるのである。

母親は姉たちの両手をつかんで引き寄せる。姉たちは身もだえするかのように母親から逃れようとする。彼女らは互いの腕を複雑にからめた状態で、その場で立ったままのたうつ。やがておとなしくなった姉たちに母親は指図し、銅像のすべてに布をかけさせる。銅像は顔だけを残して体がすっぽりとおおわれる。母親と姉たちは、再び腕を組み、整然と歩いて去ってゆく。

少女がひとりで現れる。少女も白いサマー・ドレスを着て、つば広の帽子をかぶっている。髪は長く後ろに垂らしている。少女は帽子を投げ捨てて踊る。手足を長く伸ばし、くるりと回転し、軽く跳びはねる。そこへ少年がやってくる。

少年は少女に近づく。ふたりは見つめ合う。少年は少女に明らかに気がある。少女も少年に好意を持っているようだ。少年は少女の胸に顔を寄せようとする。少女はとたんにびっくりして身を離す。だが、遠くから振り向いたその顔には、うっすらと笑顔が浮かんでいる。少年と少女は踊り始める。

ほほえましい踊りで、手をつなぎながら一緒にジャンプしたり、キスをするかのように顔を近づけては、その度に照れて顔を離す。少女は少年の背中にもたれかかり、少年は嬉しそうに少女を高々と頭上に持ち上げる。少女も気持ちよさそうに手足を伸ばす。

少年は少女に不意にキスをしてしまう。少女は驚くものの、今度は逃げないで少年に抱きつく。ふたりは床に座る。少女は少年を後ろから抱きしめ、少年は少女の肩に頭をもたせかける。

ピンクのドレスを着た女の子がそれを見つけ、怒った表情で走り寄ってきて少年と少女を引き離す。彼女は気が強く、少年に恋しているらしい。女の子は少女をかばった少年の上に馬乗りになる。更に多くの子どもたちが押し寄せ、全員が少年の上に乗っかって土饅頭状態になる。

メガネをかけた男の子がやって来てみなを引き離し、少年と少女を助ける。少女は泣き出してしまっている。気の強い女の子は男の子に向かって唇を突き出し、キスをする真似をする。ませたガキでもあるようだ。やがて彼女は全員に号令し、銅像にかぶせてある布を剥いでしまう。

むき出しになった銅像の裸体を子どもたちはしげしげと見つめる。少女は女性の銅像を見て、戸惑った表情で自分の胸を見つめ、それから背を向けてしまう。あまり見たくないらしい。

だが気の強い女の子が、少女を男性像のところへ引っ張っていき、少女の頭を押して男性像の股間にぐっと近づける。無邪気なようだが、かなり生々しい演出だった。少女は一目見てショックを受け、飛び退くと顔を両手で覆って泣き出してしまう。男の子たちは超気まずそ〜な表情。

そこへ女性の家庭教師が現れる。襟元がきっちり閉まったこげ茶色の地味なロング・ドレスを着て、細長い杖を持っている。家庭教師が杖で床を突くと、鋭い音が響き渡る。子どもたちは緊張した面持ちで一列に並ぶ。家庭教師は子どもたちの身なりを整え、気の強い女の子の肩を激しく揺さぶって叱りつける。女の子は怯えて泣きそうになっている。

やがて母親と少女の姉たちも現れる。パーティーの招待客たちが次々とやって来る。ドレスやスーツは20世紀初頭、ヴィクトリア朝晩期のデザインで、いずれも身なりのよい上品な夫婦ばかりである。少女は姉たちとともに並んで立ち、緊張した面持ちでそれを迎える。

妻がひとりで現れる。彼女は緑のドレスを着ていて、沈んだ表情で後ろを振り返る。その後に仏頂面をした夫がやって来る。ふたりは腕を組むが、なんとなくそらぞらしい雰囲気である。すぐに夫は妻から離れ、並んだ子どもたちを眺める。さっそくロリコン起動か。

夫はやがて少女に目を止める。夫は少女に近づき、少女は夫にぎこちなくお辞儀をする。妻が近づく。夫はごまかすように少女の隣にいた少年を妻に紹介する。しかし、少年が妻の手を取ってキスをしようとした瞬間、夫はふたりの間を突っ切って、すぐにまた少女に近づき、彼女の顎を軽く撫でる。少女は興味津々な様子で、無邪気に夫の胸に顔を寄せる。妻は不安げな表情になる。

招待客や子どもたちがいなくなったところで妻と夫が踊る。妻はひたすら夫にすがりつくようにして踊り、夫はいちおう相手はするのだが、その顔は無表情、感情のない動きで妻をまるで物のように振り回す。夫は妻を受け止めても、すぐに彼女の手を避け、彼女から離れてしまう。

また妻のほうも、夫が彼女を抱き寄せると両手でそれを突っぱね、上半身を後ろに反らせる。妻と夫は憎み合っているのか愛し合っているのか分からない。少女が舞台の奥でその様子を不安げな表情で見つめている。

だが、再び他の人々がやって来ると、夫と妻は何事もなかったかのように腕を組み、作り笑いを浮かべて去る。

女家庭教師の監督の下、子どもたちがダンスのレッスンをする。男の子と女の子がペアになり、明るい音楽に乗せてコミカルな振りで踊る。手をつないだままぴょんぴょん跳びはねたり、くるくると元気よく回る。ここでも一緒に踊る相手をめぐって、子どもたち同士の熾烈な男女の戦い(笑)が繰り広げられる。

大人たちも現れてその様子を眺める。少女は相手にあぶれ、舞台の脇に立って子どもたちの踊りを眺める。いつしか夫が舞台の逆側の脇に立っている。少女と夫は互いに見つめ合う。

子どもたちの踊りが一段落する。少女は夫を見つめながらひとりで踊り出す。だがそれは子どもっぽい踊りで、片脚を曲げながら上げて交互にぶんぶん揺り動かし、パワーいっぱいに何度もジャンプする、という振付である。少女は踊りながら嬉しそうに夫のほうを振り返る。

夫が少女に近づく。少女は夫の手を取って自分の胸から腰に触れさせる。夫はゆっくりと彼女の手を取って一緒に踊り始める。ここでの音楽の出だしは「ジムノペディ」第1曲そっくりだった。でもその後はどこか歪んだ不安なメロディになる。夫は少女の腰を支えて回転する。

少女は緩く開脚しているが、さっきまでの無邪気で天真爛漫な踊りとは異なっている。少女のポーズや表情はどことなくエロティックである。特に開いた脚の曲がり方やつま先の向きとかが色っぽい。

次に少女と夫はワルツのように腕を組んで踊る。夫は少女を一気に頭上に持ち上げ、少女は両脚を開いて振り上げる。この振りを繰り返していくうちに、初めはゆっくりだった音楽が徐々に速いテンポになっていく。

それに合わせて、夫は間をおかずに少女を何度も頭上高く持ち上げ、少女はほとんど逆さまになった状態で、両脚をピンと伸ばして180度開脚する。別にあからさまにエロい振付ではないのだが、なぜか官能的な雰囲気が漂っている。

少女と夫はもう人目をはばからずに夢中になっている。最後、少女は夫に抱きついてしまう。母親が割って入り、ふたりを引き離す。夫は気まずい表情になり、我に返った少女は恥ずかしがって駆け去ってしまう。

動揺した妻が夫にすがりつく。夫の心はもはや完全に少女に奪われている。ここの踊りは凄かった。まとわりつく妻を夫は乱暴に扱う。妻は脚を夫の体に巻きつけ、また脚を鋭く振り上げる。激しい振りでドレスの裾がめくれ、両脚が付け根まで露わになる。その脚の迫力がまた凄い。

私が勝手に「スパルタカス」ポーズと呼んでいた、後ろに上げた片脚の爪先を手でつかんで輪を作るポーズがここの踊りでもあった。妻は夫にすがりつくとこのポーズをとり、夫は妻の体の輪に入り、そのまま妻を持ち上げて回転する。

夫は妻を拒絶し、ついには彼女を突き飛ばして去る。ひとり残された妻のかたわらを、仲睦まじげに腕を組んだ他の夫婦たちが通り過ぎていく。妻は彼らにすがるが、いつしかまたひとり取り残される。妻の目の前を、あの少女が走り去っていく。妻はそれに手を差し伸べて切ない表情をする。妻にもあの少女のような頃があったのだ。ナイス演出。

少女を探して少年が現れる。妻は少年の顔を撫でて誘惑する。少年は戸惑いながら妻の胸に顔を寄せる。妻は少年の顔を優しく手で包んで胸に抱き寄せる。ふたりは関係を持つが、ここの踊りも気味が悪くて面白かった。

妻は少年の背中にすがりつく。客席からは彼女の姿は見えない。やがて女の腕が2本、少年の背後から胸へと回される。そして白い脚がにょっきりと少年の腰を挟む。最後にもう片方の脚が少年の太股に巻きつく。妻がトカゲのように少年の体に貼りついている。そして妻はまた身をのけぞらせながら、体全体で少年の体に巻きつく。またもやドレスの裾がめくれて脚がむきだしになり、かなりエロかった。

家庭教師が母親に何かを耳打ちする。母親は血相を変え、二人は急ぎ足で歩いて去ってゆく。

野外パーティー。男2人、女1人の芸人たちが闘鶏を模したダンスを踊る。一羽の雌鳥を争って二羽の雄鶏が戦う、という設定。雄鶏役のダンサーは向かい合い、その場で何度も激しくジャンプし、また取っ組み合いのケンカになる。その様子を雌鳥役のダンサーが奥で見つめている。

雌鳥役のダンサーが体をくねらせてポワントで前に出てくる。床に四つん這いになった二羽の雄鶏の上に、雌鳥が乗っかる。雌鳥は片方の雄鶏の上に乗ると、シャチホコみたいなポーズをとる。鳥の交尾は雄鶏が雌鳥の上に乗るのだが、それを逆にした振付である。雌鳥は次にもう片方の雄鶏の上にも乗る。

夫が途中で現れる。彼は中央奥の椅子に座り、このダンスを無表情に眺めている。雄鶏たちと雌鳥は見つめあいながら、床の上にうつ伏せになる。床に手をついて下半身をのけぞらせてジャンプし、ゆっくりとしなやかに着地する。セクシーな闘鶏とそれを凝視する夫。これもナイス演出。

招待客の人々、雄鶏、雌鳥が次々と現れ、入り乱れて踊っては姿を消していく。ある男女は三角関係で争い、またある男女は追いかけあっている。雄鶏が男や女の前に誘惑するか、または脅かすかのように立ちふさがって跳びはねる。雌鳥は奔放に踊って舞台を横切る。道徳の裏側に隠れた大人たちの実際の姿でもあり、また夫の頭の中の混乱を表してもいるのだろう。まるで映画みたい。

夫が険しい表情で現れる。彼はほどいたネクタイを首にひっかけ、上着を肩にかけている。彼はすさんだ様子で、ネクタイと上着を床に乱暴に投げ捨てる。そこへ少女が現れる。前に一緒に踊ったときのゆったりした、しかし不気味な音楽が流れ、ふたりはまたゆっくりと踊り始める。

少女は所詮、年上の男性に無邪気に恋しているだけである。しかし夫は少女を抱きすくめると首筋にキスをし、少女の太股を乱暴に撫で回す。少女は恐怖を感じて逃げようとする。

夫は少女の腰をつかんで片脚を上げさせ、自分の下半身に何度も押しつける。夫は少女の体を持ち上げると客席に背を向ける。少女の顔は腕と髪の毛で隠れていて見えない。夫は少女の腰を自分の下半身に押し当て、体を前後に何度も激しく揺らす。やがて夫は天を仰ぐ。彼の顔が客席から見えないところが、いっそう残酷な雰囲気を強めている。

ぐったりした少女はゆっくりと夫の体からずり落ち、床の上に横たわったまま動かない。夫は呆然としてその横に座り込む。彼は声にならない激しい嗚咽を漏らして体を振るわせる。少女の体がゆっくりと反り返る。少女は四肢を抱えてその場にうずくまる。夫は体をかがめながら姿を消す。少女はようやく立ち上がり、両手で下腹部を押さえてよろよろと去っていく。

銅像のある庭。夫は憔悴しきった表情でまろびながら現れ、右側の女性の銅像の足元にもたれかかって身を伏せて泣く。舞台の左側の奥には妻と少年が現れて再び踊る。しかし、ふたりの間にはもう親密な雰囲気はない。ふたりは背中合わせに寄り添うと、それから静かに身を離す。

少女が現れる。彼女は何かに引っかかったような、ぎこちないステップで、ポワントで歩いてやって来る。気づいた夫は少女の手を握って許しを請うが、少女は夫を激しく拒絶する。妻はその様子を見て事の次第を察する。妻は泣き崩れる夫の背に手を添えて、夫を支えながら一緒に去る。

少年は少女を心配そうに見つめている。少女は少年に駆け寄って抱き合う。しかし少年は少女の首筋にキスをする。もう少年は昔の彼ではなく、大人の女と関係を持ってしまった。少年は大人から「学んだ」やり方で少女を愛そうとした。少女は少年を激しく拒否し、彼の胸を叩くようにして追い払ってしまう。

少女は男性の銅像に近づくと、手で遮るようにして顔をそむける。また少女は2体の女性像にも近づくが、そのたびに下腹部を押さえて苦しげな顔になって後ずさる。

痛みに前につんのめった少女は、やがて上体を起こして真っ直ぐに立つ。彼女は舞台の中央に立ちどまり、前をじっと見つめる。少女は無表情だが、その手は胸の前で固く組まれている。少女の厳格な母親や女家庭教師そっくりに。

(2005年7月25日)


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