Club Pelican

THEATRE

伝統版「白鳥の湖」
(Traditional Swan Lake)

注:参照映像は、1) ルドルフ・ヌレエフとマーゴ・フォンテーン、2) マイヤ・プリセッカとニコライ・ファデーチェフ(ナレーション付きなので分かりやすい)、3) トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団が踊ったやつです。また、「白鳥の湖」は、ストーリーに微妙な異同がある場合が多いらしいので、これはあくまで基本的なあらすじです(多分)。


第一幕

むかしむかし、どっかの国の話。ある日、国中がお祭り騒ぎをしている。その国の王子様が誕生日を迎えたのである。村の人たちは総出で飲めや歌えやの大騒ぎである。そこへ当の王子様と母親の王妃が現れる。父親の王様はいない(早死にしたのか?)。王子はやたらと母親の王妃に気を遣っている。マザコンのボクチャンらしい。村人たちは王子をお祝いする。

王子は成人になったので、王妃はそろそろ嫁をもらって孫の顔を見せてくんないかな〜、と思っている。でも王子にはまだその気がないらしい。若者やきれいに着飾った娘たちが踊り、道化が場を盛り上げる。王子も踊りの輪に加わり、娘たちと踊る。でも王子の「運命の恋人」は、第二幕にならないと登場しないことになっているので、ここで王子に甘酸っぱい恋が芽生えるがどうかは、まだ気にしなくていい。

日が暮れ、宴も終わって村人たちが去ると、王子はふと寂しさと虚しさにとらわれる。「オレの人生こんなでいいのか。」人間だれしもそう思う時があるものだ。それを見た王子の「ご学友」たちは、ここは一発狩りにでも出かけてウサ晴らししようぜ、と王子を誘う(生き物を殺して気を晴らそうなんて、とんでもない連中だ)。王子はそうしよっかな、と夜の森に出かける。


第二幕

王子は獲物を物色中である。ふと、空から白鳥が舞い降りてくるのが見える。王子はあれを殺したれ、と弓をかまえる。ところがびっくり、その白鳥は地面に降り立ったかと思うと、なんとも美しい娘に変身したではありませんか!・・・この変身真っ最中の場面は観客からは見えない。王子の演技によって示されるらしい。でもここまで鋭い読みができる人はまずいないだろう。

その美しい娘は王子に気づかず、王子の傍までやってくる。王子と鉢合わせした娘は、びっくりして、怯えた表情で羽ばたいて(もう人間の姿のはずなんだけどね)逃げ出す。王子は娘を追いかけようとして、手にした弓を向こうへ投げやり、害意がないことを示す。王子は実に簡単に娘に追いつき、なおも逃れようとする娘を引き留め、いきなりだが愛を告白する。娘は最初はおどおどびくびくふにゃふにゃぷにょぷにょしていたものの、次第に王子が悪いヤツではないということが分かり、彼と言葉を交わす。

二人がいい雰囲気になったところで、悪魔のロットバルト(フクロウの格好をしている)が現れ、二人の邪魔をする。王子が本気で娘を好きになり、永遠の愛を誓ってしまったら一大事、娘にかけた呪いが解け、今度は自分が死んでしまうのである(悪魔なんだけどね)。悪魔は娘をどやしつけ、王子から引き離す。王子は娘の姿を見失い、娘を探しに行く。

湖に白鳥たちが次々と舞い降りる。みんな美人のお姉ちゃんたちである。彼女たちが鈴なりになって踊っているところへ、王子があの美しい娘を探してやって来る。やがてあの娘が現れる。娘は王子に自分の身の上話をする・・・らしいのだが、確かに説明しているらしいジェスチャー(マイム)はあるのだが、それらが何を意味するのか分からない。本に書いてあったところによれば、娘は白鳥たちを殺さないように王子に頼み、自分はオデットという名前で、元々人間の王女だったのだが、悪魔に呪いをかけられて白鳥にされた。この湖は自分の母親が流した涙でできたものだ(「白髪三千丈」といい勝負だな)。自分は夜の間だけ人間の姿に戻れる。もし自分に永遠の愛を誓ってくれる人間の男性が現れれば、この呪いは解け、自分は人間の女性に戻る、ということを話しているのだそうだ。

王子はそこで早速オデットにプロポーズし、彼と彼女は愛の踊りを踊る。ちなみに、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団のこのマイムシーンは特に笑える。オデット「ステキな王子様がアタシに愛を誓ってくれればあー、アタシ人間に戻れるのよねー。」王子「その王子様って誰?」オデット(王子を指さして)「それは、あ・な・た!」王子「僕?いいよ、じゃ、誓っちゃう。永遠に君を愛しま〜す。結婚して!」オデット(一応迷ってみせて)「う〜ん、どうしよっかなあ、うふっ、でもいいわよ」ていう感じである。

その後はドリフもコントのネタにしたくらい有名な「小さな白鳥の踊り」(あの4人のお姉ちゃんが、お互いに腕を複雑に組んだまま踊るヤツ。でも、プリセッカが出ている映像版では、6人で踊っている)とかが続く。私はこの「小さな白鳥の踊り」が好きでない。ヘンだ。それにどうしても志村けんのチュチュ姿を思い出してしまう。最後に、ずんちゃちゃちゃっちゃちゃちゃっ、っていう音楽に乗って、白鳥たちが横一列になって順番に「最後のお披露目」の踊りをする。これもプリセッカのでは振りが大分違う。

夜が明け、オデットは王子に別れを告げる。もう白鳥の姿に戻ってしまうのだ。白鳥たちは去り、王子は森に一人佇む。


第三幕

宮殿では盛大な舞踏会が開かれる。各国から王女たちを招き、王子にその中から花嫁を選ばせようというのである。王妃と一緒に玉座に坐った王子は浮かぬ顔である。オデットを裏切って他の女を選ぶことなど考えられない。

各国からの客による民族舞踊が繰り広げられる。チャールダーシュ、ナポリ、マズルカなど。王女たちもまた鈴なりになって踊り、王子は一応彼女たちと踊るが、もちろん気に入った女の子なんているわけない。王妃は機嫌を損ねる。

そこへいきなり来客を告げるファンファーレが鳴り、不思議な貴族の男(あの悪魔)に連れられて、黒い衣装をまとった美しい女性が現れる。王子はびっくりする。この女性はオデットに生き写しだ!

スペインの踊りの後、王子とこの黒いドレスの女性(黒鳥、オディールなどと呼ばれる)とが踊る。オディールは、王子にオデットへの愛の誓いを破らせるためにやって来た、悪魔の化身である。オデットとはうって変わって、このオディールは時に冷たく、時に情熱的で、王子を誘っては突き放し、次第に王子を魅了していく。私はこのオディールが好きである。とにかくかっこいい。オデットは時にどつきたくなるが、オディールはクールで美しい。

オディールは王子に向かって、「私はあのオデットなのよ」というように白鳥を真似て踊る。王子はもうオデットのことなど忘れ果てて、オディールに夢中である。こいつはアホだ。そしてついに、王妃にオディールと結婚すると宣言し、オディールに永遠の愛を誓ってしまう。つまり、オデットを裏切っちゃったのだ。これでオデットは人間に戻れない。

その瞬間、雷鳴が轟き、オディールとロットバルトとは王子を嘲笑いながら、かき消えるようにいなくなる。王子はようやく我に返り、ショックのあまり王妃の胸にすがる(マザコンなので)。彼は直ちにオデットの許へと向かう。王妃は「あれえ」とばかりに気を失い、後ろ向きに倒れて女官や侍従に支えられる。


第四幕

白鳥たちが湖畔に佇んでいる。そこへオデットが飛び込んできて、翼をばたばたさせながら、仲間に王子の裏切りを訴える。

オデットはすっかり力を失い、今にも息絶えんばかりである。王子がオデットを探してやって来る。王子は必死こいてオデットに謝り、オデットは王子を許してやる。二人は再び愛を誓う。ロットバルトが現れ、二人を引き裂こうとする。オデットはすっかりあきらめて死を覚悟する。王子は力を振り絞って抵抗し、オデットを取り戻そうとする。・・・ここから結末が悲劇とハッピーエンドとに別れる。

〈悲劇バージョン〉王子はオデットの後を追うが、突然、悪魔の魔力によって湖の水が大氾濫し、王子は水に溺れて死ぬ。ここでは布を幾筋も舞台に横たえて、それを揺らして荒れ狂う波を表現する。が、どうみても布を揺らしているようにしか見えず、その中で溺れるマネをする王子はかなりマヌケだ。王子が水に飲み込まれた後、もう人間の心を失い、すっかり身も心も白鳥と化したオデットが、すーっと水の上をすべっていって終わり。悲惨だ。

〈ハッピーエンドバージョン〉王子は敢然と悪魔に立ち向かって格闘し、遂に悪魔の片方の翼を引きちぎる。ここでボリショイ劇場の客は一斉に拍手喝采する。素朴でいいよな。やっぱり観劇はこうでなきゃ。翼を失った悪魔は苦しみにのたうち回った末に死ぬ。王子は愛の力で悪魔の呪いをうち砕いた!闇の力は打倒された!朝がやってくる。呪いから解放されたオデットは、人間の女性のままである。王子とオデットは、ともに抱き合いながら、愛の奇跡をかみしめて終わり。

申し訳ないんだけど、伝統版「白鳥の湖」って、王子の踊りの振付が、いかにも「添えもの」というか、割り箸の袋に入っているツマヨウジか、コンビニ弁当に入っているビンボくさい漬け物みたいに影が薄い。プリセッカが出ている映像版での王子の踊りは、素人目に観ても可哀想だ。このファデーチェフって、きっと優秀なダンサーだったんだろうに(演技はともかく)。黒鳥との踊りでのソロなんて、気の毒なくらいマヌケだ。特にキメのポーズが。きっとテキトーに振り付けたんだな。その点、ヌレエフが出ている映像版の王子の踊りはよかった。それともヌレエフがよほど凄いダンサーだったんだろう。

プリセッカ、とても美人だ。とりわけ横顔は特徴的である。一目で印象に残る美しさ。それに足がバネみたい。びん、びん、と力強く跳ね上がる。でも、このボリショイ劇場での公演が録画されたのは1957年なのに、この保存状態のひどさはなんなんだ。フィルムのコマがあちこち跳んでいるし、穴がフィルム一面にでも空いてるのか、しょっちゅう白く感光して抜けている。黒鳥のデュエットの最後なんて、映像全体が白っぽく光っていて、かろうじて人物のフォルムが見分けられるだけ。音声もひどい。モノーラルなのは当たり前だが、音がびよ〜ん、びよ〜んと歪んでる。ヌレエフのは1966年、このボリショイのと9年の間隔で録画されているのに、映像も音声もとてもはっきりしている。それとも映画のフィルムだと、時間の経過で一様に劣化するものなのかな?せっかくのプリセッカの映像記録なのに、これだけが残念。

(2002年4月27日)

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