Club Pelican

Swan Lake in Tokyo 7

2003年4月6日(再追加公演最終日夜公演)

主要キャスト。白鳥/黒鳥:首藤康之、王子:トム・ワード、女王:マーガリート・ポーター、執事:リチャード・クルト、ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース。

今日こそホントにホントの最後です。同じ公演を、よくも1ヶ月以上も延々と観つづけたもんだ。強迫的に凝り性なところがあるとは自分でも思っていたけど、まさかここまでやるとは。自分のことながら呆れるし、ちょっと引く。こんなことはもう二度とないだろうなあ(あったりして)。

今日は私のお気に入りのダンサーたちが勢ぞろいだったのでとても嬉しかった。まずオリアーダ(Oriada)。彼女は今日も蛾の姫、ホステス、イタリア王女役で出演していた。彼女の蛾の姫は日ごとにコミカルさを増していって、表情はくるくると豊かに変化し、観客の笑いを実に効果的に引き出していた。ガールフレンドの行状に振りまわされた王室一家が、ロクに自分たちのバレエを観ていないことに、時折ちらちらと困惑した表情で目をやっては、次には正面を向いてわざとらしい舞台用スマイルを浮かべたり、より目や白目を駆使して(笑)滑稽な表情をしたり、下半身を突きだして自分を脅した木の妖怪を斧でやっつけた後、倒れた妖怪のまさに「その部分」を踏みつけたり(他の蛾の姫役のダンサーは、妖怪のお腹を踏みつけただけだった)、彼女の演技には観客みんなが大笑いした。彼女は踊りも格段にすばらしくて、前にも書いたけど、ちょうどサラーン・カーティンによく似ている。イタリア王女の踊りも、動きの一つ一つがとても美しくて、観ている方の注意をくぎ付けにする。彼女とクーパーが一緒に出ている日は、本当に困った。丸テーブルに座っているクーパーと、イタリア王女の踊りを踊っているオリアーダと、どちらに集中したらいいのか迷ったものだった。

"Swank Bar"のシーンに出てくる「ファン・ダンサー」役で、私の好きだった子は、たぶんルース・モス(Ruth Moss)の方だったんではないかと思う。むちむちした色気たっぷりなボディに、くわえタバコ、ふてくされたぶすっとした顔で、面倒くさそうな様子で腰を小刻みに振って踊る。「ファン・ダンサー」役のダンサーは、スペイン王女役もやることになっているらしい。よって彼女は今日、スペイン王女役もやったんだけど、どこの国の王女なのかはわからないんだけど、黒鳥の青年が「ロシアの踊り」で、3人の王女と踊るでしょう。その王女の3人目、ほら、あの頭に巻き貝みたいな飾りを載っけた王女、その役のダンサーが今日はなぜかいなくて、代わりにスペイン王女役の彼女が黒鳥の青年と踊っていた。

あと、同じく"Swank Bar"のシーンで、ガールフレンドと中央で踊っていた黒アフロヅラのダンサー、彼はいったい誰だったんだろう?かなりな長身でノリノリにファンキーな踊り、彼も私の超お気に入りだった。あの激しい腰づかいと両脚の振りは一生(はないだろうが)忘れないよ。と前に書いたら、複数の方がさっそく彼の名前を教えて下さった(本当にありがとうございます)。ヘンドリック・ジャニュアリー(Hendrick January)だそうだ。やっぱ、彼に目を止めた方々は多かったのね。だってね、あの踊りは1回観たら忘れられませんよ(笑)。踊っている最中の、眉根に皺よせてシャウトするあの表情も最高でした。今回の公演での"Swank Bar"のシーン、私は映像版よりも大好きであった。あの音楽に、70'sの踊りがあんなにもマッチするだなんて、チャイコフスキーも思いもよらなかっただろう(←当たり前だ)。

前に書いた感想で、白鳥の群舞の中にとてもすばらしい子がいるんだけど、名前が分からない、と何度か書いた。その後、やはり彼らに注目していた方々がメールを寄せて下さり、彼らの名前を教えて頂いた。まず、第1幕でコーギー犬の散歩をして出てくる士官、また白鳥の群舞でも、小柄な身体ながらも、ダイナミックで美しい踊りを見せていたのは、キム・アマンドセン(Kim Amundsen)である。パンフレットのダンサー紹介では最初に載っている。写真が横顔だったので分かりにくかった。この子は本当にきれいな子だ。色がとても白くて、顔は小さく、長い睫毛に紅い唇と、はっきりいって美しい女性にしかみえない。

それから、白鳥の群舞、「大きな白鳥」の1人として出てきていた(舞台向かっていちばん右、もしくは右から2番目に位置することが多かった)子がいた。彼は他の群舞のダンサーより踊りが別格に秀でていて、しなやかで強靱、ジャンプは高くて力強く、バランスの保持、ポーズの美しさ、どこをとっても明らかに優れた子だったんだけど、これはニコラス・カフェツァキス(Nikolas Kafetzakis)ではないか、ということだった。もしそうなら、この子はリヨン公演で白鳥/黒鳥を代役で踊り、すごい好評を得たダンサーのはずである。また、それはダミエン・スティーク(Damien Stirk)だったのではないかと教えて下さった方もいて、今となってはどちらだったのかよく分かりませぬ。とはいえ、教えて下さったみなさん、ホントにホントにどうもありがとうございました!!

もう1人のガールフレンド役、トレイシー・ブラッドリー(Tracy Bradley)もとてもよかった。彼女のガールフレンドは何回か観たけど、ひとつだけ言うなら、彼女はあんなメイクをしなくても充分にかわいいのに、どうして目じりをとんがらせたような、きつくて濃いめのアイメイクをするのか。そんな必要はないのに。あんなにきれいな顔立ちをしてるじゃないか。ちょうど、こないだの「ダンスマガジン」(新書館)6月号39ページの写真で、黒鳥の青年役のクーパー君に支えられているのがブラッドリーだ。ついでにいうと、彼女がガールフレンド以外の役、特に第3幕の王女役で出演しているとき、彼女の髪型は公演ごとに毎回違っていて、しかもその髪型のそれぞれがとてもかわいかった。自分であれだけきれいにまとめられるなんていいなあ。更についでにいうと、この「ダンマガ」6月号39ページ右上にあるクーパー君のアップ写真、こりゃあんまりじゃないか。これじゃただのマヌケな外人のニイちゃんだ。もっとマシな写りなのはなかったのか。なんでクーパー君はオフ写真に限って写りが悪いんだろう。

メイクに関して更につけ加えると、エマ・スピアーズ(Emma Spears)さん、アナタの女王メイク、あれも要改善だと思います。もしかしたらワザと、トランプの絵柄によくあるクイーンみたいなメイクにしたのかもしんないけど、特に正面顔がちょっとヘンでした。

今日の白鳥/黒鳥の青年役は首藤康之君だった。最後の最後で、ようやく当たった。前もってお断りしておく方がいいと思うのだけど、ここから先は、首藤君のシリアスなファンである、という方は、お読みにならないことをおすすめします。これは私個人が抱いた感想なので、絶対的な真実であるとはいえませんし、彼のファンであるあなたが傷つくようなものを、無理に読む必要はありません。

私は去年から、もっと具体的にいうなら、去年4月に行なわれたAMP「カー・マン」東京公演の時から、今回の「白鳥の湖」公演について、キャスト情報の開示とそのタイミングとをめぐって、とかく不安な気持ち、甚だしくは不愉快な気分になることが多かった。

キャストを事前に発表しないのは「AMPのポリシー」だそうだが、しかしその割には、去年の秋に今回の「白鳥の湖」公演のチケットが売り出された当初は、アダム・クーパーについては「出演交渉中」とか、「出演決定!」とか、彼らは始終アダム・クーパーの名前をちらつかせていたのである。大阪公演の主催者のサイトに掲載された、今となっては大笑いな広告文のトリックを覚えている方も多いだろう。つまり、アダム・クーパーの名前でチケットを売ろうとしているのがみえみえだったのである。

ところが、今年の1月末、公演まで1ヶ月を切った頃あたりから、今度は首藤康之君が雑誌やテレビに多く登場するようになった。私はそれらをみて、このぶんだとアダム・クーパーが踊るのは、おそらく1回か2回くらいに過ぎず、メインは首藤君なのだろうと思った。ちょうどその頃、「雑記番外」にも書いたけど、Bunkamuraに対して私が決定的な不信感を抱くことになった出来事があって、これは絶対にクーパーの出演が少ないことへの言い訳の布石を打っているのだ、と考えたのである。私にはもうBunkamuraを信用する気持ちが一切なくなっていたばかりか、彼らのやることなすことすべてが疑わしいものに思えてならなかった。

しかし、白鳥役に取り組む首藤君を取材したテレビ番組、バレエ雑誌やBunkamuraのサイトに掲載された「リヨン公演」のリポートなどから、どうも首藤君はある種のエクスキューズ、もしくは保険としての役割を引き受けさせられているのかな、という印象を持つようになった。そして公演期間に入ると、彼の出演回数が異常に少ないこと、また昼公演への出演の方が多いことで、「トリプルキャスト」の1人としての首藤君の実質的な比重は、東京公演前におけるマスコミへの露出の多さとは、実際には釣り合わないものなのではないか、という思いをますます強くしていた。そうなると、クーパーの名前でファンをふりまわし、そうして必要以上の量のチケットを買わせておいて、今になってそうした「過去」をうち消そうとするかのごとく、今度は首藤君をマスコミに出してその煙幕がわりにするとは、いくらなんでもあんまりじゃないか、と情けない思いになった。

白鳥/黒鳥役の3人の中で、最も多く出演して頑張ってくれたのはジーザス・パスター、その次は僅差でアダム・クーパーである。ただし、マスコミの扱いが最も大きかったのは首藤康之君だった。キャスト情報を小出しにされたおかげで、予想外の大金をつぎ込む羽目になった(弱みにつけこまれ、いいようにいたぶられているような気分だった)ことに加え、クーパーのファンである私は、首藤君ばかりがマスコミに取り上げられていることに、正直言ってヤキモチも焼いた。なのに、ふたを開けてみれば、首藤君はほとんど踊っていない・・・。彼が出演するのは、おだやかでやさしい年輩客の多い昼公演ばかり。それだけに、表面的な辻褄合わせのために、話題をすり替えることがその主な目的である、としか感じられないような宣伝に、あえて駆りだされていた首藤君に対しては、非常に複雑な感情が湧いた。こうして私の中には、首藤君に対するあまりよくない先入見が、あらかじめできあがってしまっていた。首藤君にはまったく気の毒なことだが、この日の公演が始まる前、私はやや意地悪な気持ちになっていた。

そして第2幕が始まり、首藤君の白鳥が舞台に登場する。彼の踊る姿を観ているうちに、私は肩すかしをくらったような気分になっていき、そして完全に気抜けしてしまった。確かにこれほど他の2人との差がありすぎては、出演回数の少なさや昼公演にかたよった出演は、至極もっともな、というか妥当な扱いだろう。これは今日たまたま調子が良いかどうか、という程度の問題ではないと思う。なるほど秘密兵器だ。最後まで秘密にしとけばよかったのに。

部分的なあのステップが、ムーヴメントが、ポーズが、ジャンプがどう、というんではない。無理にアラ探しをする必要も感じなかった。踊りは全体としてコチコチしたこぢんまりとしたもので、彼は振付を順番どおりに正しく機械的にこなしていた。バレエ・コンクールの規定部門かなにかを観ているような気分になる。どうしてこの人が主役を踊っているんだろう、と不思議だった。それとも私が「曰く言い難いもの」を察知できるほどの、鋭い理解力と感性とを持っていないからだろうか?見る人が見れば、また違うように感じるのかなあ・・・。演技についても、白鳥はそういう役だからいいとしても、黒鳥までもがほとんど無表情、もしくは表情に乏しくて、どういうことを観客に分からせたいのか、あまり読みとることができなかった。

また、それを自分のものにしていって更に発展させるというなら、他人を模倣するのはまったく正しいことだ。でも、ある数ヶ所だけを切り取ったように模倣して、しかもそれが観ている方にはっきりと分かられてしまうとなると、観ている方はどちらかといえばその模倣にマイナスな印象を持つ。はっきりいうなら、首藤君がクーパーの独特な動きを、部分部分で真似していたのには、いささか寒い気分になった。どうせなら観ている方に分かられないようにやってほしい。ふと、ジーザス・パスターは偉かった、といきなり思った。ジーザスさんは、アダム・クーパーにはない自分の特性を効果的に利用かつ強調して、自分のユニークさを観客に印象づけようとし(そしてそれは大成功した)、同時に自分にはないクーパーの特性と自分との差が目立たないようにして、自分の弱点を観客に察知されないように工夫していったのだ。

とはいえ、私がBunkamuraのやり方に対して抱いたイメージが、そのまま首藤君にかぶさってしまった面があるのは確かなので、この私の感想は、多分にそうしたイメージに影響されたものだと思う。今回のような間の悪いことも、たまには起こる。それに、首藤君は真に芸術的でピュアなバレエならば、きっと優れた魅力的なダンサーなのにちがいない。モーリス・ベジャール、イリ・キリアン、ジョン・ノイマイヤー、アルベルト・アロンソの作品を踊るほどの人だ。大体、これらの振付家たちの作品の方が、マシュー・ボーンの作品よりは、バレエ界の人々には断然ウケがいいだろう。

こうして、不思議な話、私は舞台で踊る首藤君が、まったく気にならなくなっていた。なんだか目に入ると、そのまま頭の後ろから出ていくようだった。肩の力がすっかり抜けて、危機感や警戒感を持つどころか、完全にリラックスして公演を観ることができた。

今日はジョン・チュウ(Jon Chu)も白鳥の群舞の中にいた。彼もいつも前の方で踊っている。力強い踊りに加え、爽やかで清潔感あふれる雰囲気のダンサー。東洋系のダンサーが欧米圏でキャリアを積んでいくのは、とても大変なことだと思う。またどこかで舞台で踊る彼に出会えるといいなあ。

休憩時間。客席が明るくなる。観客たちが次々と立ち上がる。女性客は「トイレ争奪戦」のためにバタバタと通路を走っていく。休憩時間は20分あって、もうパンフレットは読み尽くしたし、それに私のパンフレットはサインだらけで、人前で開くのは超恥ずい。毎日もらうチラシもみな同じものばっかりで、もうぜんぶ見ちゃったよ。・・・ヒマだ。トイレにでも行こうかな。並んでれば時間がつぶせる。それとも、ビュッフェでバカ高い金を払って、さほどおいしいとも思えないサンドイッチでも食べようか。ワイングラスを傾けながら、公演談議に花を咲かせるのもいいけど、でも、アタシ、友だちがいないんだよなあ・・・。じゃあ買い物しようか。"AMP"のロゴが入ってる(だけの)フセンやタオル、「白鳥の湖」のデカいロゴ入り(もちろん日本語版)Tシャツなんていいねえ。どこで着るかが問題だけど。

することがないのでトイレに行く。並んでると前後の人から話しかけられるときがある。思っていたよりストーリーはずっと面白いし、男性の踊りがとてもきれいで美しい、などと嬉しそうな顔で話されると、私もつい嬉しくなって顔がほころぶ。別の日の公演で話しかけてきた子はリクルートファッションをしていたが、やっぱり就活の帰りに観に来たそうだ。こんな若い子が、窮屈なスーツを着て、パンプスを履いて、一日中会社回りをしなきゃいけない。なにぶんこんなご時世だから、大変だろうし不安も多いだろう。うまくいっただろうか?

席に戻って再びオペラグラスの調整をする。目印は舞台の前の端っこにある照明機材。これがはっきり見えればオッケー。最前列の通路を行きかう人々の顔も映り込む。と、その中にどこかで見たことのある顔が。ジーザスさんではないですか!やっぱりこの人、素顔の方がぜんぜん美しいわ〜ん。しかしまー、体が細い細い。胴体も手足も凹凸がなくて、細くてまっすぐ。少年みたい。クーパー君も細いけど、でもやっぱり肩から胸版にかけてにすごい筋肉ついてるのは、普段着でも分かるんだよねえ。それにやっぱりクーパー君は身長あるから、ふつうの男性に比べればぜんぜん華奢とはいえ、やはり大柄だ。目の前にすると、ああ、男の人だ、と感じさせられるからね。

この再追加公演ではサプライズがあるから楽しみにしていてね、というAMPの談話をどっかの新聞で読んだように覚えているのだが、そのサプライズとは結局なんだったのだろう?私はてっきり、(1) 白鳥/黒鳥:ジーザス・パスター、王子:首藤康之、という「夢の共演」が実現、(2) 帰国したはずのアダム・クーパーが実はまだ日本にいて、初の王子役か執事役、もしくは木こり役でびっくり特別出演、とかだろうと思っていたんだけど、ぜんぶハズれた。

ひょっとしたら、第3幕の冒頭で、王室のパーティーに赴く王女とエスコートたちを取材するBBCの記者役が、今日はどうみてもダンサーじゃない中年のハゲのオヤジで、たぶんスタッフの1人だろうと思うのだが、これだったのだろうか?と書いたら、ある方がメールを下さり、これはチャウが前の感想でホめていたゲイリー・クラーク(Gary Clarke)じゃないでスか、と指摘された(感謝っス)。ひえええ〜。だったらごめんよ、ゲイリー。でも別人にみえたってことは、これはとりもなおさずアナタが優秀な役者であることを証明している、てゆーことで(無理矢理)。

ツアー・ディレクターであるヘザー・ヘイベンス(Heather Habens)が出演していた。第3幕、あれはどこの王女なのかな。「チャールダーシュ」で、王子の相手として踊っていた。美人だ。さすがに動きも断然プロっぽかった。

第4幕冒頭、王子が手術されるときのマーガリート・ポーターの表情が不気味。舞台の縁にあるライトが下から上を照らし、女王と看護婦、執事そっくりな医者の影が、後ろの白い壁に黒く巨大に浮かび上がる。ポーターのライトに対する立ち位置がこれまた絶妙で、目をかっと見開いた女王の無表情な顔が、白いライトで下から照らされ、いっそう不気味に見える。この人はつくづく役者だ。

白鳥を殺され、王子がベッドによじのぼって、うつぶせに伏して泣くシーン、白鳥たちが次々と去ってゆき、最後に一羽の白鳥が王子の側でくるりとジャンプしながら一回転する。その瞬間、肩を震わせていた王子が、いきなりベッドの上に倒れて動かなくなる。この白鳥は死神のように、文字どおり王子の息の根を止めるのである。これはいつもは1人のダンサーが受けもっているが、今日は2人のダンサーが、ベッドの前で互いに反対方向にひらりと飛んで一回転し、姿を消していった。死んだ王子を女王が抱きしめて慟哭する中、幕が下りる。

さあ、お楽しみのカーテン・コールだ。1ヶ月以上にわたる超超超超ハード・スケジュールを、ダンサーたちは本当によくがんばった。本当にすばらしかった。オフでも気のいいニイちゃん、ネエちゃんたちばっかりだった。この1ヶ月、すごく楽しかった。感謝の気持ちで一杯だ。私のお気に入りのダンサーのみんな、これからのキャリア、頑張っていってくれ。みんなは本当に自分の実力ひとつで、日本の観客をこんなにエキサイトさせたんだよ。この日本での経験が楽しい思い出になったのなら、そしてダンサーとしての自信に少しでもつながってくれたのなら、日本人としてこんなに嬉しいことはない。

ホントにホントの最後だけに、会場はすごく盛り上がった。ダンサーたちも興奮した様子で、みんな手をぶんぶん振って声援に応えていた。何回目かのカーテン・コールで、いきなり天井から、金色の花吹雪と、そして白い羽毛とが、粉雪のようにたくさんひらひらと降ってきた。それは明るいライトに反射してキラキラと輝く。それを見て、ああ、ホントにもうお祭りは終わったんだなあ、と実感し、ついつい目頭が熱くなった。

カーテン・コールは終了したが、観客の全員がまだ拍手し続け、誰も立ち去る気配がない。しばらくして、劇場側はもう一度幕を上げてくれた。ダンサーたちは手をつなぎ、みんなで一斉に前に走り出てきてお辞儀をした。そして両手を上げて、再び観客の声援に応える。観客とダンサーたちの双方が、ともに熱狂的な拍手と歓声を上げる中で、再び幕が下りた。幕はもう上がらなかった。今度こそ本当に終わったのだった。


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