Club Pelican

Swan Lake in Tokyo 6

2003年4月3日(昼公演)

主要キャスト。白鳥/黒鳥:アダム・クーパー、王子:トム・ワード、女王:マーガリート・ポーター、執事:リチャード・クルト、ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース。

この感想は、なるべく公演を観たその日のうちに簡単なメモだけ書いておいて、後日ゆっくり時間がとれたとき、メモを基に思い出しながら詳しく書いていく、というふうにしている。ただ、いまいち記憶に自信のないところは、やはり同じシーンや踊りを映像版で確認しながら書かざるを得ない。

ところが、私は最近、映像版を観るのがイヤで仕方がない。特にクーパー君が出ているところは。公演で実際に観て自分の頭に定着したイメージが壊れるのがイヤなのである。それで映像版を観るときには、クーパー君にまともに目の焦点を合わせないよう、おのずと努力するようになってしまった。映像版を観ながら、頭の中では公演の様子を再生して本当はそれを観ているという、なんとも複雑なことをやるようになったのである。

第2幕でのクーパー君の白鳥、映像版と違うところ。「白鳥たちの踊り」で、王子とあの白鳥と白鳥の群舞が一斉に踊るシーン。同じ音楽のまとまりが最初に2回くり返されるね?その2回目、お互いにやや離れた位置で、向かいあって踊っていた王子と白鳥が、舞台の真ん中で徐々に近づき、それから白鳥が王子にもたれて、私の好きなシーン、クーパー君が身体を音楽に合わせてぐんっと伸ばすところになる(前の感想を参照してくだされ)。白鳥が王子にもたれる直前、映像版では、クーパー白鳥は右脚を横に上げ、床に着いた左脚を軸にして身体を反転させる、という動きを2回くり返して王子に近づく。今回の公演では、この動きの2回目が、軽いジャンプになっている。ジャンプしながら王子の背後から向かって左に回り込み、王子に身体をもたせかける、という動きになっていた。

その後の王子と白鳥の「アダージョ」のデュエットで、舞台前の方で呆然と座りこむ王子に、あの白鳥が警戒しながら徐々に後ろから近づいていくシーン。白鳥が舞台右後ろの方で、客席に背を向けながら、右腕で自分の頭を抱え込み、左腕と左脚を同時に後ろに伸ばす。映像版では伸ばすだけだが、この公演では、後ろに伸ばした左脚の足先だけをちょいちょい、と軽く動かしていた。鳥とか動物が片脚を上げて自分の体をかっかっと掻いたりするでしょう。あんな感じの動き。

それから、これは私は映像版の方が好きだったのでちびっと残念なのだが、王子が逃げようとする白鳥を無理やり押さえ込んで撫でるところ。私はあのシーンで、クーパー君の白鳥がいやがって脚をばたばたさせる動きが好きだった。ばたばた、には違いないんだけど、美しい流線を描いていてね。ところがこの動きは削除されていた。なぜだ。

この後、白鳥は王子から逃げ、王子はそれを追いかけてしつこく白鳥に触れる。映像版では、スコット王子はクーパー白鳥の腿にそっと触れるが、今回の公演では、王子は白鳥の足先に恐る恐る触れ、白鳥はそれをいやがって足先をまたもやちょいちょい、と動かしてはねのける、というふうに変わっている。

白鳥のソロ、最初に同じような音楽のまとまりが4回あって、それから舞台一週ジャンプにいきますね。それの3回目、映像版では、クーパー白鳥、左脚を上げながらつま先立った右脚でぐるぐる回る。ここは、動きは映像版と似ているけど、左脚を上げた姿勢でその場で軽くジャンプし、そのまま勢いをつけながら体をゆっくりと回転させていた。これが音楽と微妙に合っていて実によろし。

第3幕、女王とのデュエット。冒頭でクーパー黒鳥、女王の左後ろでこちらに背中を見せてジャンプする。これは映像版とは違っている。ワタシ的には映像版での飛び方のほうが好き。飛んでいるときの、彼の手足の位置や角度がとてもかっこいいから(でしょでしょ?)。この公演だと、クーパーの身体が女王の後ろに隠れてしまって、ちょっと見えにくい。

映像版で、フィオナ・チャドウィックの女王が、クーパーの黒鳥の青年に後ろから腰をつかまれて持ち上げられる。チャドウィックは両脚をぴったりと揃えたまま、音楽に合わせてぐーん、ぐーんと2回脚を跳ね上げる。これも私の好きなシーンだったのに、今回の公演では変更されていた。女王役のダンサーが両脚を跳ね上げるのではなく、黒鳥の青年が1回目は横に、2回目はほとんど縦に近いくらい、高く女王の身体を持ち上げて振りまわす。これはうまくいけば相当に美しい振りだと思うけど、でもやってる方にとってはかなり難しい力業らしくて、こちらのツボにはまったと感じたような出来のものは少なかった。でも、今日はクーパー君、ハデにやってくれた。ポーターの身体を持ち上げて、ぶーんぶん振りまわす。2回目に持ち上げたときは、ポーターの身体はほとんど地面と垂直に、空中でひらーり、と一回転していた。ギョッとしたよ。

「タンゴ」(すでにお約束)。トム・ワードは、背丈はおそらく160センチ、いや、もうちょっとあるかな・・・くらい。ただ体格は割とよくて、がっちりとたくましい感じがするし、性格も意外と食えない野郎だと見た。いっぽうクーパー君は、たぶん182,3センチくらいだと思う。・・・185はないだろう(たぶん)。だから、この二人が組むと、特にワードがクーパーをリフトするとき、少しぎこちない、やっとこさ持ち上げました、という感じの、高さのないものになってしまうのは仕方がない。でも、ベン・ライトは、そうした身長差をまったく感じさせないほどサポートが巧みだったからすごいけどね。ところで、身長の具体的な数字は、大っぴらに口に出してはイケナイ話題にもうなっちゃっているのかね?もしそうだったらごめんよ。

第3幕「タンゴ」のとき、黒鳥の青年が王子の腰を支えて上に持ち上げるシーンがある(それからぱっと手を離して王子から遠ざかり、脚で乱暴に床を踏みつけて王子を威嚇する)。私にとってこのシーンは謎で、なんでこんなふうに王子を持ち上げないといけないのか常々疑問であった(←頭を悩ませている疑問は他にもたくさんあるが。たとえば、8ロール入り398円のトイレット・ペーパーは、シングルとダブルとではどちらが結果的によりおトクなのか、とか)。今回の公演でも、クーパー君、ワード王子の腰をつかんでがっと持ち上げる。それが今日はなんだかえらいこと高くまで上げていて、まるで大人が子どもを持ち上げて、「ほら、高い高〜い」とあやしているようなカンジであった。ワードって、サエなくてグズグズしてる分だけかわいいんである。あくまで舞台ではね。

映像版では、この「タンゴ」、しょっちゅうアンブラーとクーパーの上半身がアップになってしまって、身体全体が映っていないことが多い。で、クーパー君の姿勢や脚の動きが分からない部分があった。ところが、この「タンゴ」でのクーパー君の脚の動かし方は、まさに絶品である。クーパーのこの脚が見られずして、「タンゴ」に如何なる価値があろうや。最初の方で、王子と黒鳥の青年は腕を組みあったまま、お互いの目を見つめて動かない。それからクーパー君、妖艶な笑みを浮かべて王子を見つめたまま、右脚を前にさしだして、その足先だけをヴァイオリンのソロに合わせてゆっくりと動かす。最後、舞台右でクーパー君の黒鳥の青年が後ろから王子に詰め寄る、身体を王子にもたせかけ、これまたヴァイオリンに合わせて右脚を王子の脚に絡ませる。

「王子ご乱心」のシーン、黒鳥の青年、王子から銃を取り上げようとして、王子にはねのけられ、勢いで床に倒される。王子は女王に銃口を向け、覚悟を決めた女王は「さあ撃ちなさい」とばかりに両手を広げる。執事が王子を銃撃しようとしているのに気づいたガールフレンドは、王子に抱きついて彼を庇う。銃声が響いてガールフレンドと王子は抱き合ったまま倒れ、それを見た黒鳥の青年は、執事と目を合わせてニヤリと笑う。

第4幕、クーパー君の白鳥、手先の動きがことのほか美しかった。あの手のひらから指先にかけてを、身体全体の動きの終わりにゆっくりと動かすの、そのタイミングもスピードも動きも、実に絶妙できれいである。彼が腕を音楽に合わせて動かすのも、これもどうやって説明したらいいんだろうなあ・・・。クーパー独特の動かし方というか、動かすスピードやタイミングに、独特なものがある。

白鳥のクーパー君が前かがみになって、両腕をぴんと後ろに伸ばして手先(手羽先?)をやや下げたあのポーズ(「アエラ」に載ってた写真のポーズね)。両腕は始終伸ばしたまんまだけど、腕の振りとか、手先の微妙な動きとか、ただ単にその形がふにゃふにゃしてキレイなんじゃなくて、その動かし方が、こちらの目や注意力を奪うものがある。

今日は私にとっては特別な日だった。カーテン・コールが始まり、再び幕が上がった舞台の上に、クーパーとワードの二人が立っている。私はすかさず立ち上がって拍手した。後ろの人には迷惑だったかもしれない。すみません。でも、私だけではなかった。観客が次々と立ち上がる。あら・・・。「真っ先に立ってクーパー君に気づいてもらおう作戦」は、ものの見事に失敗しちゃったわ・・・。いいけどね〜。それにしても、昼からこんなに盛り上がるのもすげえな・・・。

ただ今日は席運があまりよくなかった。席自体はとてもよかったのだけど、私の隣に坐っているジジイが不愉快なヤツだった。なぜか一度も拍手しない。不満ならとっとと帰れよ、アンタの席の方がセンターに近いから、アタシがそっちに移ったる、とか思っていたのだけど、結局ジジイ最後まで観やがった。しかも、周りの観客がスタオベすると、なぜか自分も立ち上がる。でもやはり拍手するわけでもなく、腕を組んで黙ってカーテン・コールを見ている。このジジイはいったい何なんだ?公演に満足なのか?不満なのか?・・・何が嫌いといって、私はこのテのジジイが特別に大嫌いだ。拍手しないのが男らしいとでも思っているんだろう。でも周りが立ち上がったから自分も立ち上がる。半端なんだよアホ。

カーテン・コールが終わる。まだ拍手している人も多い中で、そのジジイはそそくさと帰ろうとする。なのに私が前を譲るのを黙って待っている。「すみません」というたった一言もない。私はこのジジイを頭の先から足元までジーロジロ眺め、前を譲るそぶりを示して、そして笑って言った。「どうぞおー。・・・さっさとお帰りになったらどうですかあー?」とっとと去れジジイ。

さて本題に戻ると・・・。うん、これで思い残すことはないよ。もう頭の中でクーパー君の白鳥をいつでも再生できるわ・・・。クーパー君、すばらしい踊りを見せてくれて、本当にどうもありがとう。あなたは絶えず前に進んでいるダンサーだ。これからのあなたの活躍が楽しみでならない。あなたのすばらしい「白鳥」での踊りに加え、あなたが本当に優しい人柄なのだ、ということをつくづく実感することができたのは、忘れることのできるはずもない、そして本当に幸福な思い出になった。

疲れているだろうに、また翌日の昼にはもう次の公演が迫っているという時でも、いつまでもいつまでも、見かねた関係者の人やスタッフに止められるまで、イヤな顔ひとつせずにニコニコ笑ってファンの相手をしていた。出てこられなかったときには、わざわざ自分のサイトの「日記」でその理由を説明していた。別にそんなこと気にしなくていいのに。

明日は来られない、と私が言ったときに、残念そうな顔をしてくれてありがとう。「ロンドンでまた会おう」と言ってくれてありがとう。あなたのファンになれて本当によかったよ。私はダンサーとしてのあなたはもちろん、一人の人間としてのあなたが大好きだ。

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2003年4月2日(再追加公演初日)

主要キャスト。白鳥/黒鳥:アダム・クーパー、王子:アンドリュー・コルベット、女王:マーガリート・ポーター、執事:リチャード・クルト、ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース。

およそ5日間にわたる再追加公演が始まった。長かったツアーも、今度こそ今週で終わり。クーパー君、ちょうどこの前日(4月1日)に更新された、自分のオフィシャル・サイトの「日記」で、またまたやってくれた(笑)。ワザとか天然かは知らないが、いずれにせよこーいうとこが大物なんだろう。むやみやたらにいきがるんじゃなくて、ふにゃふにゃ〜ん、ボクな〜んにも知りまっしぇ〜ん、えっ、なにかイケナイことしちゃった〜?がっはっは、ごみん、てなお気楽な調子で、とんでもないことをやってのける。

本人的には、たぶん実はそんなに脳天気ではないだろうことは、なんとなく分かるんだが。まっすぐで優しい人なんだよねい。外人でスターといえば超ヤな性格と相場は決まっているものだが、外人であるとかスターであるとか以前に、これほど性格のいいヤツもめずらしい。映画"Billy Elliot"(「リトル・ダンサー」)の監督であるスティーヴン・ダルドリーが、クーパーのことを「カワイイやつ」と言っていたことがあるが、まったく同感。よくこんなで今まで無事にやってこれたな。というか、今までさんざんオイシイ目にもヒドイ目にもあってきただろうが、基本的に影響を受けてないらしい。なんなんだコイツは。

この数年で、彼の立場はずいぶんと変化したはずなのだが、彼はそうした自分の立場をあまりよく分かっていないようだし、いまだにまるで新人のダンサーみたいに、おどおどビクビクしているところがある。なんでそんな小さなことにいちいち感動したり、またくよくよと気にしたりするのか、と私は実に不思議だ。些細なことをこの上なく嬉しがったり、気にしてあれこれ言いわけしたりする。スターならもっとどっしり構えろ、というか、他人にこのオレ様のすばらしさが分かってたまるか、オレ様のことが好きなら黙ってオレ様についてこい、程度の自信は(多少は)持ってもいいと思うんだけど。

まあ、でも、その場での具体的な、細かい一つ一つの出来事が、そんなに気になるし嬉しいのなら、いくらでもあなたの望むとおりにするわよ。いくらでも拍手しましょう。いくらでもスタオベしましょう。いくらでもあなたの名を叫びましょう。それがあなたの自信につながるのなら、お安いご用よ。

それにしても、舞台ではこんなに自信満々にみえるのに、面白いもんだね。「自分はとても内気なんだけど、でも舞台では自由でいられる」というクーパー君の言葉は、どうやら本当のことらしい。

クーパー君は完璧な、というよりほとんど信じがたいプロポーションを誇っていて、どんな格好をしてもさまになるのだが、私はこれにもう一つつけ加えたい。彼は、立ち居振る舞いが実に優雅で美しい。立ち方、座り方、身のこなし、手足の角度やその動かし方のいちいちが、とても優雅で上品である。

第3幕、黒鳥の青年に扮したクーパー君、テーブルの上に坐ってスペイン王女が踊る姿を見つめている。今日も身をかがめて執事役のリチャード・クルトとなにやら話し込んでいたが(なにか愉快そうに笑ったりしていた。凶悪な目つきや表情はもちろん崩さないが)、途中、腰をかすかにあげて、あの長い黒衣の裾をすっと手で払いながら座りなおしていた。その仕草があんまり優雅で上品だったので、思わず目を奪われちゃった。このとおり今でも印象に残っているくらいである。

黒鳥の青年といえば、今回の舞台では、王女たちや女王が青年に絡む機会が映像版よりも多く設定されている。たとえば、「スペインの踊り」、「ナポリの踊り」では、王女たちは黒鳥の青年から目を離さず、また青年も彼女たちを見つめ、うなづいたり、投げキッスをしたり、また王女たちが踊りながら、途中でテーブルに坐っている青年のところまで行き、青年が彼女たちの肩や腰に手を触れたり、軽く抱きしめたりする。

女たちが黒鳥の青年のために一斉に踊るシーンでも、寝転がってそれを満足げに眺めている青年のところへ、女王がすべるように近づいていき、青年が腕を伸ばして女王の胸から腰へと手を這わせ、彼女のスカートの裾をつかんで接吻する、という動きがつけ加えられている。

他の男たちへのドスのきかせ方もより強調された演出になっている。「ナポリの踊り」の最後にさしかかって、執事がテーブルに坐ってタバコを吸っている青年に何やら耳打ちする。すると青年はつと立ち上がり、舞台の真ん中までつかつかと歩いていく。ナポリ王女のエスコートが、舞台左奥で奔放に踊っている王女を囲む男たちの輪から、ほうほうの体で四つんばいになりながら抜け出してくる。エスコートがようやく立ち上がったところで、「ナポリの踊り」の音楽の最後の音に合わせ、黒鳥の青年はエスコートの顔にさっとタバコの煙を吹きかける。

「ナポリの踊り」が終わると、執事がまたもや黒鳥の青年に耳打ちし、クーパー君演ずる青年は、片方の眉をかすかに上げて「何?」という表情でそれを聞く。その後、青年は女王に近づいて、自分の吸っているタバコを意味ありげな視線で女王に手渡し、女王はそれを受け取って自分の唇にはさむ。青年が女王に顔を近づけると、彼女は挑発的にタバコの煙をゆらりと青年の顔に吹きかける(「ナポリの踊り」の最後のシーンと対になっているらしい)。

青年がわずかに顔をしかめたところで、ようやく「チャールダーシュ」の音楽が始まる。この「ナポリ」が終わって「チャールダーシュ」が始まるまでの、およそ何十秒間、音楽はまったくなく、沈黙の中で女王と黒鳥の青年とが仕掛け合いをする。何十秒といっても、音楽がないと妙に長く感じるし、そうなるとなんでか知らないが緊張するのである。そして女王と青年の二人を注視してしまう。そこで「チャールダーシュ」の音楽の出だしが響くと、これまたドラマティックに感じる。音楽の断絶を効果的に利用した演出だ。ちょっと感心した。

王子と黒鳥の青年との「タンゴ」については、もうそれこそ何度も何度も繰り返し書いてきた。しつこいけどもう少しつきあってくださいね。ここの振付自体には基本的に大きな変更はないようだ。ただし、クーパーの踊りは、映像版とは比べものになんないくらい、とにかくエロいよ。すさまじい色気がある。あの顎とか身ののけぞらせ方がたまらん(悶)。官能的な笑いを浮かべながら、顎をのけぞらせると、あの暗いライトの中で、クーパーの長い頚が白く浮かび上がるのよ〜!!ゾクッとしちゃうわ。

それに、クーパー君の黒鳥の青年、王子に後ろから手を取られて、王子に背を向けたままニヤリと笑って、それから突然、王子を振り払って一人でぐるぐると回転する。それから、クーパー君、今度は王子の頭を両腕で抱え込んで、自分の胸にぎゅうううーっと押しつけ(ここは映像版では違う)、また顎をのけぞらせて愉快そうに笑う。舞台が暗いから、クーパー君の顔には濃い陰影が入って、こちらから見える彼の顔半分が、目を閉じて残酷な笑いを浮かべているのが見える。殺気だったエロティックさ。

ちなみに、私が映像版でクーパー君にハマった問題のシーン、黒鳥の青年がタバコの灰で自分の額から鼻梁にかけて、白鳥と同じ黒い線を書き入れるとこ、映像版では、黒鳥の青年は顔を斜めに向けて、王子をみつめたまま線を書く。が、今回の公演では、青年は王子からいったん顔をそらし、顔を真正面を向けて線を書き入れたあと、それから再び王子の方に向き直ってニヤ〜ッと笑う、というふうに変更されている。見どころの一つだから、右側の端の席に座っている観客にもきちんと見えるようにしたんだろう。ちょっとわざとらしい気もするけど、でもこの方が親切なのかなあ。

映像版では、このシーンでのクーパー君の笑いは「ニヤ〜ッ」だけど、今回の公演では、クーパー君、「げっへへへ」(←あんまりな表現?)というか、「ぎへへへ」という(←余計にヒドイわ)、より野卑でイヤらしい笑いになっている。顔を少し下向きにして、上目づかいに王子を見つめ、歯をむき出してイヒヒヒ、というふうに王子を嘲笑する。

この再追加公演のチケットは、絶対に手に入れるぞ、という意気込みとタイミングとでのぞまない限り、そう簡単にはゲットできなかったはずである。いろんな意味で、この演目、あるいはダンサーに、並々ならぬ興味と関心とを持った人々が多いだろうと思ったし、アダム・クーパーをめぐっては、率直に言って、私の予想の域をはるかに超えた事態になった。カーテン・コールは、拍手どころか、歓声やスタオベがあって当たり前、という状態になっていた。私はこういう盛り上がりが大好きだし、自分がそのただ中に身を置くことも楽しくてたまらない。

ただ、私はクーパー君に、目に見えるもの、その場で気軽に得られるものに、あまりに過度に頼りすぎないよう、それだけで自分の価値を測ったりしないように、と、どこかで言いたい気持ちがあった。・・・とはいえ、前にも書いたけど、それが彼に自信を与えるというのなら、いくらでも彼の望むような反応をしてやりたい、という思いの方が、やはりはるかに強い。

これがファンというものなのかしらね。だから、カーテン・コールでのクーパー君の嬉しそうな笑顔を見るのが、本当に嬉しかった。険しい目つきや厳しい顔つきを保っていた表情がすっかり緩んで、眉と目じりが下がって、顔をやや上向け、口を開いてほがらかに笑う。カーテン・コールの最後で、両手を一生懸命ぶんぶん振る。あの長い腕を。日本にいるのも残りわずかだ。どうかいい思い出を作っていってほしい。


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