Club Pelican

Swan Lake in Tokyo

2003年3月2日(夜公演)

主要キャスト。白鳥/黒鳥:アダム・クーパー、王子:ベン・ライト、女王:マーガリート・ポーター、執事:スティーヴ・カーカム、ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース。

劇中バレエ「蛾の姫」の姫役は、今日もオリアーダ(Oriada)というダンサーだった。この人はホントによい。身振りや表情などの演技が、毎回ビミョーに違っていて、そのそれぞれがすごい笑える。いろんなやり方を試して変化をつけているとか、あるいは観客の反応がどう違うか見てるのかな。それに、この人は踊りも非常にすばらしい。彼女は今日はイタリアの王女役もやったんだけど、色気たっぷりで茶目っ気があり、それに足の使い方もシャープで美しく、それになんだかとても目立つんである。イタリア王女つながりのせいかもしれないけど、サラーン・カーティンの存在感によく似ている。この人は後でけっこうくるかもしれない。

白鳥/黒鳥はアダム・クーパー。さて、どういうことから書いたらいいのかな。・・・まずひとこと言わせて下さい。今日のクーパーは最高だった。断言できる。完璧だった。これほどの踊りは、今まで目にしたことがない。私はもう怖くて映像版が観られないかもしれない。今日のクーパーの踊りのイメージが壊されるのがイヤだから。

第二幕、クーパーの白鳥が舞台奥から飛び出してくる。舞台を左奥から右へと回り込むようにジャンプしながら前にやって来た彼の動きを見て、ああ、今日はかなりやってくれるぞとすぐ分かった。王子をはねつけ、威嚇する。今日はあの長い腕が、更に長くみえる。鋭いキレのある腕の動き、しなやかにたわむ脚、ぎこちなさの微塵もない、完璧な曲線を描いて舞う肢体。ゆっくりなだけか、或いは速いだけのスピードではなく、音楽を手玉に取るかのように、あるときは音楽を先取りし、あるときはぎりぎりまでためて、そして一気に爆発する。そして、重さがない。浮き上がってる。飛んで落ちてるんじゃない。ふわりと浮いて、一瞬止まって、そしてまた地上にふわりと降り立つ。私は、非人間的な動きには批判的だったはずだ。クーパーのぎこちなさや重さが好きだったはずだ。でも、今日ばかりは、まるで魂を抜かれたように呆然としてしまった。

王子役のベン・ライトと二人で踊るシーンも、そのタイミングはぴたりと合っていて、妙な間が全然ない。二人のいずれも、相手を待っていない。適当な距離をとって無難に合わせているんではない。クーパー君の白鳥は、やはり振りが毎回ちがう。決まった型をいくつか持っているのか、それともその場で自然に違うふうになってしまうのか。こんなに感動しているのは、私だけなのかな?私が今日偶然に感傷的になっているから、こんなふうに涙がちょちょ切れちゃうんだろうか?白鳥のソロが終わった。まだ音楽が終わっていないのに、観客の間から我慢しかねたように激しい拍手が起こる。私だけじゃない、みんなが今日は偶然に感傷的になっているらしい。

第二幕が終わる。休憩時間。客席が明るくなる。前に坐っていた人が大きな声で叫んだ。「よかった!よかった!」後ろに坐っていた人たちも話し始める。「すごいよ。やっぱり違うよ」、「きれい」、「観にきた甲斐があった。」 私は膝が震えて立ち上がれない。ここで友だちに会ったら、すごい泣きたい気分。これが「感動」っていう感覚か。私はめったに感動しないから。

第三幕、黒鳥の青年のクーパー君、今日は心なしか無精ヒゲのメイクも濃くて、ワルそうな目つきに更に凄みがこもっている。三人の王女たちとの踊りや、王子のガールフレンドを相手にしての「ハンガリーの踊り」、女王との踊りも、見事にそれぞれの相手との息が合っていた。リフトやサポートも自然でぎこちなさが皆無。やっぱりクーパー君、今日は絶好調だ。「ハンガリーの踊り」では、特にガールフレンド役のブラッドリーの踊りもすばらしく、とてもかっこよかったし、女王との踊りでも、ポーターはクーパー君に持ち上げられたとき、かなり危険な程度まで思い切り脚を高く上げていた。そのせいで、二人のこの踊りは、今日の公演の中で最もダイナミックなものとなった。

だけど、私がいちばん息を呑んだのは、王子と黒鳥の青年との「タンゴ」。感想を書くごとに凄い凄い、っていってばかりだけど、今日の方が凄かった(ごめんね、いーかげんで)。なんかね、緊迫感というか緊張感がパンパンに張りつめてて、凄絶なエロティックさと、カミソリみたいな、背中が粟立つような鋭さ。黒鳥の青年は、王子にぐったりと体をもたせかけたかと思うと、くるりと身を翻して王子から離れる。王子はまるで操られたかのように青年の後を追いかける。青年はそれを見てかすかに冷笑を浮かべ、王子に手をさしだして再び王子と踊り、王子の体に自分の脚を絡みつかせて哄笑する。王子はもう彼の思うがままだ。はっきりいうとね、あれは、激しく官能的な「セックス」だった。

今日の黒鳥の振りは、映像版にほぼ同じ。クーパー君の回転も、ゆっくりとした、かつ鋭いキレのあるもので、映像版を彷彿とさせる。クーパー君の黒鳥の青年、王子を心理的に追いつめていく。怖じ気づいた王子を押さえつけて、冷たい笑いを浮かべた顔を王子の頬に近づけ、顔を背けようとする王子の耳元に唇を寄せる。王子の腕をねじ上げるとき、クーパーは嘲笑を浮かべた顔をとつぜん暴力的な、憎悪と憤怒に満ちた表情に一変させた。「オレが好きなんだろ!?オレとヤりたいんだろ!?ええ!?そうなんだろ!?」ものすごい迫力。黒鳥の青年が王子を離して、いったん舞台から姿を消したとき、ピリピリと張りつめていた雰囲気がようやく緩んで、思わずため息をついた。

「黒鳥のパ・ド・ドゥ」コーダの群舞、これは観てる方もエキサイトしやすいけど、ダンサーもそうみたい。今日は特にみんなノリが良くて、ダンサーの数人はかけ声をあげていたし(わざと?)、クーパー君も声は出さなかったみたいだけど、かけ声をあげるように口を開いていた。

もう何回も書いたけど、とりわけ白鳥たちの群舞はどんどんよくなっている。獰猛で不気味な迫力に満ちていて、第四幕、白鳥の群れが、王子のベッドの上で、一斉に羽ばたく場面、すごい怖くて気持ち悪い。もちろん、女性ダンサーを交えた群舞もすばらしくて、話は前後するけど、第三幕の王子と王女たちとの踊りや、黒鳥の青年のために女たちが踊るシーンでは、女性たちの美しい動きが目立った。

初日のカーテン・コールのあの大騒ぎは、まあ初日だし、あんなもんだろうと思う。みんな、せっかくの初日だから、ちゃんと盛り上げてやりたい、と思っていたのだろうし。でも、今日は、私は夢中になって拍手喝采した。こういうこと言うのは少しシャクだが、男性のブラボー・コールがなにしろ凄まじかった。今日は男性の観客の方が興奮していたんじゃないかな。現実的に、女性よりは男性の方が、見る目が冷静で厳しいのは事実だし、それだけに、今日の公演はホントにいい出来だったんだと思う。

カーテン・コールは、いつも途中で強制的にうち切られてしまう。もうこれでおしまい、という目印は、舞台上のダンサーたちも、観客と同じように拍手をすること。今日もダンサーたちのお辞儀が拍手に切り替わった時点で、ああそろそろおひらきだな、と知った。観客たちの中に、両手をバイバイ、というふうにぶんぶん振る人が出始める。すると、にこにこ笑っていたクーパー君、なんとそのマネをして、同じように両手を高く挙げてバイバイ、というふうに振った。観客がドッと笑う。観劇っていうのは、結構楽しいもんだな。

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2003年2月28日

主要キャスト。白鳥/黒鳥:アダム・クーパー、王子:アンドリュー・コルベット、女王:マーガリート・ポーター、執事:スティーヴ・カーカム、ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース。

王子役のコルベットの踊りがすばらしかった。もともと大きい体格の人なんだろうけど、動きがとても大振りで力強く、しかも抑制が効いている。かなり強固なバレエの背景を持っている人らしい。王子というと、表情とか身振りとかの演技に目がいきやすいだろうけど(心理的な人物設定が深いからね)、でもコルベットは踊りでもいいものを見せてくれる。王子が女王にしがみついていくシーンでの二人の踊り、それから酒場から叩き出された後のソロの踊り、とても印象に残った。たぶん場合によっては、白鳥とのデュエットでも負けてないと思う。

今日は劇中バレエ「蛾の姫」が大ウケだった。特に姫役のダンサーが実にイイ。パンフレットの写真からすると、オリアーダ(Oriada)という人だと思う。たぶん初日にも姫をやった人だけど、表情も身振りも演技もはっきりしていて、すごい笑える。もちろんあの踊り(笑)もすばらしかったけど。木の妖怪が姫にせまるとき、わざとあのヘンな飾りが付いている股間(ほほほ・・・)を、姫の方にぐいっと突き出すんだけど、姫はそれをギョッとした顔でのぞき込んだ後、白目をむいてヘナヘナと失神しかけ、蛾の侍女たちがあわてて姫を支える。それに、アホな木こり男と愛のデュエット(?)を踊っているときに、王室一家が観劇しているバルコニーの真下に二人が近づいてきて、そのときガールフレンドが、木こりのあのぴらぴらしたブラウスを面白そうに手でつまむ。それに気づいた姫はヤキモチを焼いて、デレデレする木こりの頭をはたいて、彼を引っ張って舞台中央まで引きずっていく。あと、姫がかっこよく最後の踊りをキメて、客席の方にわざとらしい舞台用スマイルで顔を向けようとしたその瞬間、ポーチを拾いに舞台に降りてきたガールフレンドと鉢合わせする。姫はびっくりしてまたまた白目をむいて倒れ、痙攣を起こしたまま幕が降りる、というオチになっていた。

で、こんなことをいっては失礼なんだけど、この姫役の人、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団に出てくる女装のダンサーそっくりなの。ちょっとオカマ顔。体格も肩幅が広くて筋肉質で、かなり男っぽい、かな・・・。この蛾の姫が登場した瞬間、私、「あれ?男の人?」と思った。次の"SWANK BAR"には女装した男が出てくるから、それでも不思議はないように思っちゃうんだよね。でも女だよな、と思っていると、隣に坐っていた人たちが、ひそひそ声で「男の人かしら?」「まさかあ!」と話しているのが聞こえた。やっぱりそうみえるよな〜。オリアーダの蛾の姫は、すごいおすすめです。

今日の白鳥/黒鳥はアダム・クーパー。王子役のコルベットとは、前にも組んだことがあるのかな?コルベット王子は、イメージ的にはアンブラーに少し似ていて、動きも大きくてパワフルだ。クーパー君は、相変わらず緩急おりまぜたスピードで、たとえば白鳥が自分に触ろうとした王子をはねのけるシーンでは、ああ、ぶつかる、というぎりぎりのタイミングですれ違い、かなり鋭い迫力がある。クーパー君の今日の白鳥も、攻撃的で警戒心の強い野生の動物、という雰囲気だった。白鳥たちの群舞とともに、王子と白鳥とが初めて踊るシーンの最後、王子と白鳥が舞台の前から奥へと、速いスピードで駆け抜けていくでしょ?二人が舞台の奥へ消える瞬間、映像版では違うんだけど、クーパーの白鳥は王子をいきなりはねのけるの。おとなしく撫でられていた動物が、なぜだか急にまた威嚇してくることがあるけど、あれに似てる。私、思ったんだけど、クーパー君、どうも白鳥の解釈を複数もってる。白鳥1、白鳥2みたいな感じで。相手(王子役)が誰かによって使い分けてるくさい。

本日のクーパー君、白鳥の方は、初日ほどよくはなかったと思う。なんかぐらぐらして、とにかく一生懸命こなそうとしている感じがした。ただ、これは私の体調や気分の問題かもしれないから、あまり真剣に受け取らないで下さい。なぜかというと、私は別のことで、ちょっと気持ち的に没入できなかったからです。白鳥が王子に近づいていくシーンが始まったちょうどそのとき、舞台向かって右のスピーカーから流れる音声が、いきなりおかしくなった。音が途切れて、ザーザーという砂嵐のような雑音が入ってくる。非常に耳障りで、気になって気になって踊りに集中できない。最後には、右のスピーカーからの音声が完全に途切れて、左のスピーカーからしか音楽が聞こえなくなった。

それでもクーパー君は踊りを続ける。アダージョが終わったときには、周りの人たちが「音がひどいわ。」「うん、ひどい。」「右の方がおかしくない?」とささやき始める。音声はその後もちなおしたかのように思えたが、白鳥のソロの場面で、またおかしくなった。ザーザーという音、それから音が途切れる。でもクーパー君はやはり踊り続ける。音楽があろうがなかろうが、踊りのよしあしには関係ないだろ、なんてことは言わないでほしい。そんなのはマンガの中だけの話である。そうでしょ、ミロノフ先生。音楽はやはり大事だ。音楽の状態がきちんとしていてこそ、こちらも踊りに集中できる。まして、あの音声で、ダンサーのクーパー君は、よく踊り続けられたものだと思う。テープ演奏でもかまわないけど、それならせめて音声は完璧に調整していてほしい。

音声のトラブルのせいか、第二幕と第三幕の間の休憩時間が「会場の都合により」延長された。そして第三幕、クーパー君は見事に復活した。まるで仇を取るかのようにノリノリだった。

舞台右の丸テーブルの上に足をがっと広げて坐る。それだけで目が離せない。足が床に着いているよ〜。ぷらぷらしてないよ〜。ううっ、かっこいい〜〜〜〜。映像版にはみえないけれど、ナポリの踊りの最後にさしかかって、クーパー君はタバコをくわえる。すると、執事がライターに火を付けて、クーパー君の方にさしだす。クーパー君は、ポケットに両手を突っ込んだまま、顔だけさしだしてタバコに火を付ける。くわえタバコが堂に入っている。タバコを指の間に挟んで吸う。ああ、白くて節が骨ばってて、なんてきれいな指なの。ところで、アタシ、なんで彼のこの程度の仕草に、こんなに字数を費やしてるんだろ?

コルベットとクーパーとの「タンゴ」は、初日よりも凄かった。コルベットの踊りがダイナミックなせいか、二人で絡むとスピーディーかつ凄みがある。クーパー君、左の腿を高くあげて王子の腰を挟み、そうして上半身を思い切り後ろにのけぞらせる。官能的で残酷な笑いを浮かべながら。ひええ、もうダメ、誰か助けてー!!

群舞が回を経るごとにすばらしくなっていく。特に白鳥たちの踊りは鋭くて力強く、なんともいえない迫力がある。やっぱり「習うより慣れろ」だ。で、群舞の中に、東洋系らしい男性ダンサーが一人いる。ジョン・チュウ(Jon Chu)という人。名前からすると中国系だろうか。いつも前の方で踊っているし、なんだか目立つ。人種のせいかな。それから、子どもの王子役を演じているギャヴ・パーザンド(Gav Persand)は、えらいこと小さくて華奢な人である。本当の子どもみたい。幼年の王子と同時に白鳥も踊っているので、カーテン・コールでは白鳥メイクのまま王子のパジャマを着て出てくる。ちょっとほほえましい。

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2003年2月27日

主要キャスト。白鳥/黒鳥:ジーザス・パスター、王子:アンドリュー・コルベット、女王:エマ・スピアーズ、執事:リチャード・クルト、ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース。

王子役のコルベットは、見た目的には、アンブラーの王子姿を思い起こさせる青年王子。苦悩の表情をすると、額に竜安寺の石庭みたいな皺が浮かぶのがとても印象的だ。線の細い美少年系のライト王子とは対称的で、表情とか踊りも全然ちがう。ライト王子の踊りはとてもしなやかでやわらかく、ヘタすると白鳥と見分けがつかなくなる。コルベット王子の踊りは力強くて大きい。

キャラクターの解釈も異なるみたい。っていうか、私、今日、コルベットの王子を見て、ライトの王子が、あれはあれで一つの確立した解釈なんだ、と感じた。コルベットの王子は、内気で温和でお人好しな性格、というキャラクターだった。アンブラーのように神経質で強迫的な性格ではなく、ライトのように繊細で傷つきやすくて甘えん坊、というんでもない。コルベット王子は、いろんなことを我慢する。傷ついても、悔しくても、怒りを覚えても、それを表に出さないで我慢し続ける。母親と黒鳥の青年に裏切られても、コルベットの王子は、それをいつもと同じように、無理に笑みを浮かべて我慢しようとする。それが突然ポキッと折れちゃう。我慢してきたいろんなことが、一気に爆発しちゃう。

今日、私が目が離せなかったのが、ガールフレンド役のチヴァースだった。今日は本当に魅力的だった。美しかったし、顔の表情が生き生きとしていて、動きや踊りもとてもスムーズできれいだった。こんなにすばらしい子だったんだなあ。そりゃそうか、主役の一人に選ばれるような子だもの。今日はガールフレンドに感情移入しちゃったよ。王子のことが好きになっちゃって、王子に冷たくはねのけられたのに、王子を殴った女王の前に立ちふさがって、女王に食ってかかる。こんなに健気で一生懸命な女の子が、なんで殺されなくちゃいけないんだよう。

今日の執事はハゲだった。なんだか懐かしい人に再会したような気分だ。リチャード・クルト。顔が濃いので、チョビヒゲとアゴヒゲがあると、ちょっとフェリペ二世だが。シニカル、かつ非常にコミカルな演技で、カーテン・コールでも、わざと気取った仕草をして観客の笑いを取っていた。こいつはけっこうクセ者かもしれぬ。

白鳥/黒鳥のジーザス・パスター。昨日よりも全然よかった。すばらしかった。立ち上がって拍手する(スタンディング・オーヴェイションというらしい)観客が多く出たのも当然だ。今日は、この演目では特に不必要と思われる、オペラ歌手やバレエ・ダンサー独特の「客席目線」もなかった。ワタシ的には、自分のダンス技術のすばらしさを強調するためだけの動作(足のエクステンション、キック、バランスやポーズの長い持続など)は、あくまでこの作品では不必要じゃないかと思う(それにふさわしい作品は、他にいくらでもあるでしょう)。でも、これはこれで一つの解釈だろうし、そういうのが好きな観客だってたくさんいるだろうから、まあいいのかな。・・・やっぱり、アタシ、白鳥/黒鳥役の人には、辛く当たっちゃうな。でもね、パスター、ホントによかったよ。昨日も書いたけど、彼がいちばん大変な思いをしていると思う。今日の喝采は、パスターが本当に自分の力だけで勝ちとったものだ。

第一幕、"SWANK BAR"の踊り、すごい楽しい。映像版よりもパワーアップ。特に、黒髪のアフロヘアーのヅラをかぶった、70年代風のファンキーな衣装を着たダンサーは最高。パパイヤ鈴木みたい。でも、第三幕、「黒鳥のパ・ド・ドゥ」コーダの群舞、男性の踊りをなんであんなふうに変えてしまったんだろう?なんかおとなしくて、あんましエキサイトしない。

更にいうなら、第四幕、最初に出てくるあの白い背景はなんなんだろう。左上に鉄柵のついた窓と、右下にドア。王子が監禁されたってこと?舞台装置の交換の事情だろうけど(第三幕と第四幕とは休み時間なしで上演される)、この作品の舞台装置全体の傾向とぜんぜん違うから、幕が上がってこれがいきなり出てくるとびっくりする。

ところで、スタンディング・オーヴェイションやブラボー・コール、すごい楽しいよ。ストレスの発散になる。さああなたもレッツスタンダップ・アンド・シャウト。

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2003年2月26日

主要キャスト。白鳥/黒鳥:ジーザス・バスター、王子:ベン・ライト、女王:エマ・スピアーズ、執事:スティーヴ・カーカム、ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース。

昨日はクーパーばっかり見ていたので、他のダンサーをロクに見てなかった。今日はそれぞれのダンサーに、なるべく注意するようにする。ベン・ライトの王子は、さみしがりやで傷つきやすい青年(少年のようにみえるが)。母親に執着しているというより、他人の愛情とか関心とかを求めていて、誰に対しても、子犬みたいにきゅうう〜〜〜ん、と鳴いてかまってほしがる。

第二幕、白鳥とたわむれているシーンでも、動物と遊んで喜んでる子どもみたい。第三幕で、黒鳥の青年にたぶらかされる場面では、たとえばアンブラーの王子だと、自分が黒鳥の青年に性的な欲求を感じてしまったことに自分で狼狽し、しかもそれを青年に見透かされ、いいようにいたぶられる、という印象だが、ライトの王子は、黒鳥の青年にホントに魅惑されてしまっていて、女王と抱き合う青年を無理矢理ひきはがすところでも、「だって、僕のことを好きって言ったじゃない?どうして他の女と?」みたいに、青年の背信を責めている感がある。

女王のスピアーズは、フィオナ・チャドウィックに少し雰囲気が似ている。でもチャドウィックの女王は、息子と同様「体は大人だが心は子ども」で、息子をかまいもしないが、しかし息子の愛情と関心は独占しておきたいという、無邪気で幼稚でわがままな女である。一方、スピアーズの女王は、表面的な権威とか体面とかを重んじる、冷たい心の母親という感じがする。

チヴァースのガールフレンドは、かなり蓮っ葉で愚かだけど、でも一生懸命で一途。たぶん「だめんず」女だろう。

白鳥/黒鳥役のジーザス・バスターは、とても優しい顔立ちで、たぶんさほど体格の大きくない人なのかな?とても敏捷、かつしなやかでやわらかい動きをする。いかにもバレエ・ダンサーという感じ。踊っている彼の表情、そして特に黒鳥を踊っている時の彼の動きは、まるで「ドン・キホーテ」のバジルやエスパーダのよう。彼が白鳥を踊っているとき、そして黒鳥の青年を踊っているとき、彼は「バレエ」、そして「ダンス」を踊っている。彼のバレエとダンスはとてもすばらしいと思う。

考えてみれば、今回の「白鳥の湖」公演で、ある意味、最も面白くない役割を背負わされたのは、このパスターだ。・・・パスターの置かれた立場を思いやるなら、彼は今日の公演、本当によくやったし、本当にすばらしかった。

ふと思い出したんだけど、第一幕で、男性の白い裸体像の除幕式のシーンがあるよね?昨日はそのシーンがちゃんとあって、裸体像として、客席には後ろ向きで、しかも顔を隠してポーズをとっていたのは、たぶんクーパーだったと思う(目元が見えた)。でも、今日の公演、あのシーンがあったっけ?なかったような気がするんだけど・・・私が覚えてないのかしら?でも楽しみに待っていたと思うんだけど。

群舞、特に白鳥たちの踊りは、昨日よりも迫力があったように感じた。なんといっても踏んだ場数が絶対的に少ないから、あとは数の問題なのではないだろうか。でも、ほとんど毎日、舞台に出ずっぱりで、ハードな踊りをやり続けなければならない。本当に大変だ。

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2003年2月25日(初日)

主要キャスト。白鳥/黒鳥:アダム・クーパー、王子:ベン・ライト、女王:マーガリート・ポーター、執事:スティーヴ・カーカム、ガールフレンド:フィオナ=マリー・チヴァース。

王子役のベン・ライトは、イライジャ・ウッド似のはかなげ系美青年。スコット・アンブラーの王子には「体は大人だけど心は子ども」というアンバランスさがきわだつが、ライトの王子には「体も心も思春期で未発達」という少年ぽい危うさが強く感じられる。

クーパー君は、髪は長すぎず短すぎず、イメージ的には、オリバー・カーンの髪が少し伸びて、髪の分量が多めになっているところを想像するとよいと思う。去年の夏に見たときほど痩せてはいないような気がするが、しかし映像版よりも体がひと回り華奢になっているみたい。そして胸毛もヘソ毛もなかった。ワキ毛も必要最小限の量を残してきれいにお手入れしてある。これはやはり日本仕様なのだろうか。

映像版のクーパー君の白鳥は、なんか人間のような心を持った優しい生き物、という感じだけど、今回は、舞台に飛び出してきた瞬間から、獰猛で攻撃的な動物になっていた。威嚇などという生やさしいものではなく、王子を本気で殺しかねない勢いだった。

「白鳥」の踊り、私にとっては映像版よりもはるかにすばらしかった。粗さや力まかせなところがきれいさっぱり消え失せている。非常になめらかで流麗だった。アダージョの出だし、放心したようにひとり座りこんだ王子に、白鳥が警戒しながらも段々と近づいていくところ、その最初で、クーパー君の白鳥が、つま先立った片足で回るシーンがあるでしょ?あの瞬間、私は時間が止まったみたいに感じた。彼は信じられないほどゆっくりなスピードで回ったの。それに、あのしなやかだけど鋭い腕の動き!!ホントに、あれはすごい。それに一つのムーヴメントの最後に、手首の上から指先までを、実に絶妙なタイミングでゆっくりと動かす。これをやられると、私はまるで魔法にかかったように、つい気を取られてしまうの。

音楽に対しても、「音楽と合っている」っていうより、「音楽を操っている」というか、「音楽を翻弄している」というか・・・。動きのスピードを速めたり、遅くしたり、ためたり、でもそのすべてが、音楽に合っているどころか、音楽の効果を高めてる。ボーンの言葉が浮かぶ。「アダムは音楽を完全にコントロールしている。」

クーパー君は「バレエは沈黙の芸術」と言ったことがある。舞台横のスピーカーから、チャイコフスキーのあの音楽が大音響で流されている。しかし美しい青い舞台の上で踊るクーパーの白鳥は、ひたすら静かだった。音もなく、白い流線を描きながら、舞台の上をひらひらと跳び舞っていた。白鳥のソロが終わったとき、ついに堪えかねたように、客席から堰を切ったような大きな拍手と喝采が飛んだ。

第三幕、クーパー君演ずる黒鳥の青年は、映像版に比べて顔が痩せた上に、無精ヒゲのようなメイクがしてあるので、なおさらワルくみえる。雰囲気的には、サディスティックな感じが強くなって、弄んで支配して破壊することに残酷な喜びを感じている、徹底して悪魔的な人物のようだった。映像版ではまだ顔が幼いから、どんなに悪ぶっても、まー、不良少年なのねー、かわいい〜ん、みたいな感じが出てしまう。でも今回は完璧に大人の悪い男になっていた。

第三幕の王子と黒鳥の青年とが踊る「タンゴ」のシーンは、振りが映像版とはだいぶん違っていて、というかかなりアブない雰囲気になっている。黒鳥の青年が王子に自分の身体を密着させたり、顎や上半身を大きくのけぞらせたり、王子の腰に大腿を絡ませたりと、ゾクゾクするほどセクシーできわどい。でもなぜかクーパー君が踊ると、セクシーできわどくても、観てる方が気恥ずかしくなるようなイヤらしさがないから不思議なんだよねい。

女王や王女たちが黒鳥の青年のために踊るシーン、映像版ではクーパー君は寝っ転がっているけれど、今日は両腕をまっすぐにして後ろにつき、両足を前に投げ出して坐る、というポーズだった。

最後の場面、女王が死んだ王子を抱きしめて号泣し、その頭上の窓の外に、白鳥が子どもの姿の王子を両手に抱えている姿が浮かび上がる。終幕のあの劇的な音楽が鳴り響く中に幕が降ろされ、音楽がまだ終わらないうちに、客席から拍手がわき起こった。

再び幕が上がると、一転して明るくなった舞台の奥から、白鳥役のクーパーと王子役のライトの二人が、並んで前に進み出てきた。拍手はいっそう大きくなり、やがて次々とダンサーたちが順番に前に出てくるにつれて、最初は両手を高く挙げて拍手していた観客が、客席のここかしこで次々と立ち上がり、更に両手を挙げて拍手を送る。私も意を決して椅子から立ち上がる。立ち上がって拍手をする観客は徐々に増えていき、女王役のポーターが出てくる頃には、1階席ばかりか、2階席、3階席の観客も含め、全員が総立ちになった。拍手は鳴りやまず、また更に大きくなっていくばかりか、歓声(くれぐれもいっとくが嬌声ではない)まで上がるようになっていた。こんなのは初めて見た。おとなしい日本人が、ここまでやるのか。

そして王子役のライト、最後にクーパーが前に走り出てきたとき、拍手の音は更にいっそう大きくなり、いっそう大きな歓声が挙がった。私はつま先立ちになって、腕をなるべく高く挙げて拍手した。アダムがこちらを見て笑ってくれたような気がする(←典型的なファン心理)。ダンサー全員が手をつないで前に出てくる。拍手はまた激しくなる。幕が降ろされる。まだ鳴り止まない。再び幕が上がる。観客はいっそう両腕を高く挙げて拍手する。クーパーがふと舞台ソデに行き、一人の男性の手を引っ張って舞台に迎え入れる。クーパーは彼を引き寄せるとその頬に軽くキスをした。その次にツアー・ディレクターのヘザー・ヘイベンスらしき女性が続いて現れる。二人を含めてまた全員が手をつないで前に出て挨拶する。また幕が降りる。でも拍手はまだ止む気配がない。

また幕が上がり、ダンサーとスタッフたちは少し驚いた表情で、再び手をつないで前に出てきてお辞儀をする。しかし拍手と歓声は依然として鳴りやまない。私はもちろん、観客の全員が、カーテン・コールをこれでおしまいにするつもりはない。結局、会場全体が総立ち状態のまま、激しい拍手と歓声の中、カーテン・コールが4、5回も行われた。これほどのことになるとは、私も思わなかったが、クーパー君も同じだったらしい。控えめな日本の観客が、ここまでの反応をしてくれるとは、思ってもいなかったのだろう。カーテン・コールが繰り返されていくにつれ、彼は最初は嬉しくもちょっと驚いたような表情だったのが、最後には隣のダンサーたちと顔を見合わせて、本当に感激した様子でにこにこ笑うようになっていた。とてもいい笑顔だった。本当に嬉しかったのだと思う。

今回のツアーに参加したダンサーたちは、そのほとんどが若い子ばっかりだった。今回のような大がかりな海外ツアー、しかも極東の国での公演なんて、経験したこともない子がほとんどだと思う。ボーンがいうには、観客たちに受け入れられた、と感じることは、ダンサーたちにとって、これ以上にないほどの自信になるそうだ。これからの長くてタフな公演スケジュール、体力的にはかなりきついだろうけど、どうか楽しんでいってほしい。


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