午後12時半にロンドンのマーブル・アーチに到着して、ラッセル・スクエアに向けて歩いていたところ騒ぎがあり、爆発事件があったことを知りました。報道通り一部道路が封鎖され、劇場もチケット販売を一部休止しているところもありました。
サドラーズ・ウェルズに問い合わせたところ、公演は予定通り行なうとの事でとりあえず胸をなでおろしたのですが、油断は出来ないと早めに劇場に出かけて、アダムがスタッフと話しながら楽屋口に入っていくところを見ることが出来てやっと安心した次第です。
スタッフの人も客足を懸念はしても、今日は早くからリハーサルを入念に行なっており何が何でもやると力説してくれました。
結局空席がちらほらあったものの、熱心な雰囲気の観客で座席もほぼ埋まり、15分遅れで無事開演しました。
マシュー・ボーンも恋人らしいセクシーな男性と一緒に見に来ていました。髪型が変わっていましたが、多分アーサー・ピタだと思います。彼らは最初、二階袖に座っていたのですが開演直前に舞台左手の最前列に移動していました。
そして舞台。うまい言葉が見つからないのですが、とてもアクの強い作品だと思いました。とにかく眼が離せないのです。
ポスターや写真だとエロティックなイメージが先行してますし、それも大きな重量を占めているのですが、繰り返される振り、動作、そして目線や手の動きに観る者の不安や興味を掻き立てるものがあり、最後まで眼を離せませんでした。この作品は心理劇でもあったんだということに気づかされました。
日本公演を観た方によると、振付も日本で見たときより多少変えているとのことでした。
全体的に客席もノリがよく、メルトゥィユ夫人がカードでいかさまをする場面、プレヴァンが罠にはめられる場面などコミカルな箇所では笑いが起きてました。
余談ですが、私の二列前の客席に小学生の男の子がいたんです。ご両親に連れられて来ていたのですが、一幕最後のレイプシーンでは身を乗り出して見ていました。他人事ながら親御さんはどうやってフォローするのか気になりました。(^_^;)
舞台はスムーズに進んでいましたが、二幕開始時、幕が開けると同時に椅子の一つが横倒れになってしまいました。召使によって脇に運ばれていきましたが、引き上げられずにしばらく放置されていました。少しひやりとしてしまいましたが、出演者の皆さんは何事もなかったかのように振舞っていましたので、すぐ筋のほうに戻ることが出来ました。
また、感動したのがサラ・ウィルドー。彼女の舞台を見るのは初めてだったのですが、踊りと振りだけで感情が伝わってくるのです。「雄弁なダンサー」そんな言葉が頭に浮かびました。
アダムも負けないくらい雄弁ですから、二人が結ばれるシーンは、単にラブシーンというよりも、戸惑いや赦しといった様々な気持ちを含んだ、より大きな愛を感じさせるものがありました。書いててこそばゆいですが、素晴らしかったです。客席から拍手もおきていました。
カーテンコールではジャパニーズ・イングリッシュなブラボーコールもありましたが(私も叫んでしまいました)、立って喝采する人もかなりいて、個人的にとてもうれしかったです。
へそ曲がり評論家が何を言うかは知ったことではありませんが、ロンドンの観客はちゃんと評価してくれたのでは?と思いますし、そうであることを強く望みます。
個人的に8月までは観に行かない予定でしたが、今月中にもロンドンに行けないかしらと思うくらい吸い寄せられる作品でした。本当に8ポンドのサークル席でもよいから何度も見たい作品です。
帰る頃、地下鉄は相変わらず閉鎖していましたが街は普段どおりでした。安直な表現ですが、イギリスの強さを見たような気がします。
21日の昼過ぎに着いたのですが、ちょうど、例の爆発事件の直後で、ガトウィックの鉄道駅で、ロンドンの地下鉄が全面閉鎖になっていると知りました。物々しい警備で、やっぱり恐ろしかったです。
その日の夜、『危険な関係』の初日だったので、劇場に電話して、キャンセルされないと確認して、ほっと一息つきました。7月7日の夜は、ロンドンの劇場はほとんど休演でしたからね。
まだ地下鉄に乗る勇気が出なくて、バスばかり利用しています。なにしろ、ついた日に爆発騒ぎで、22日は、反テロ法に基づいて、地下鉄で容疑者が一人射殺され、もう一人が逮捕される、という出来事があったので、地下にもぐっていくのは、やっぱり、ちょっと怖いんですよね。
着いた日にキングスクロス駅にあるメモリアル・コーナーに献花をしました。朝晩見かけるのですが、やはり胸が痛みます。
さて、『危険な関係』、ロンドン初日!すばらしい!プロローグからエピローグまで、食い入るように見てしまいました。音楽がとてもいいですね。それと、二人のSarah、がすばらしいです。特に、Marquise de Merteuil !
彼女の演技力、表現力がこの作品の質を保証しているように見えます。もちろん、AdamとSarah.Wもあいかわらず息のあった踊りで。
まだ一回しか見ていないのですが、振付については、マクミランとボーンの影響は確かに顕著に見られますが、しかし、それがアダムの血肉になっているのだと感じさせるだけのレベルに消化しつくしているな、と思いました。特に、激しい場面のリフトの連続には息を呑みました。
いやもう、まったくほんとに、驚愕しました。この公演の成功は、アダムの評価をワンランク上げることは確実です!
毎日いろいろなことが起きていますが、パトカーや消防車のサイレンに敏感になったこと以外には、いつもとかわらないお気楽な滞在です。地下鉄はあちこちで運休しているので不便なのですが、今日は様子を見るために、ちょこっと乗ってみようかな、と思っています。どきどき。
映画館のODEONもバッグのチェックを始めました。オーストラリアン・バレエを見たコロシアムや、ほかのプレイを見た劇場も、きちんとチェックをしていましたが、サドラーズウェルズはフリーパスです!いいんでしょうかね。
でもまぁ、観客の様子を見ていると、みんな楽しげに歓談していますし、なぁんにも心配していません!という雰囲気ですから、いいんでしょうね。
昨日は日曜日でしたが、『危険な関係』の公演がありました。午後5時からで、ほぼ満席でした。第一幕の終わりに、もうブラボーブラボーの絶叫が聞こえ、終幕には大喝采でした。
木曜日に見たときよりも、観客の興奮度は段違いに上がっていました。やはり、初日は様子見の気配があったのかもしれませんね。
21日に幕間にぶらぶらしていたときにちょっと話をしたのは、ロンドン在住の陽気なスペイン女性で、マドリッドの友人が「絶対見逃すな!」と薦めるので見に来た、という話でした。観客の会話にもスペイン語がけっこう聞こえていましたから、アダムのコアなファンがスペインにもいるんでしょうね。
そのスペイン人女性はフランス語ができるらしくて、「あなた、あの歌、フランス語よ!きれいな発音だったわね」と興奮気味でした。
こちらのパンフレットには歌詞は掲載されていませんから、オペラの歌い方でフランス語ときたら、もうちんぷんかんぷんです。でも、固有名詞と決まり文句はわかりますし、どういう場面かは音楽が語っていますから、歌詞がわからなくてもあまり問題ないのかもしれません。
それから、幕間のトイレで、若い女の子たちのグループが、「だれがどういうキャラクターで、どういう関係なのか、ちょっと考えなくちゃ」なんて言ってましたから、やっぱり、直前に原作を読んでおいてよかったな、と思いました。
細部は脚色されて原作とは違っていますが、キャラクターの造型や物語のエッセンスは変わっていませんから、人間関係と物語の内容がわかっているといっそう楽しめるように思いました。
あ、そうそう、昨日は終演が早かったので、楽屋の外でちょっと待ちました。そしたら、サイモンが一番に出てきたので、ずりずりと近づいてお話しました。残念ながら、アダムが休演しない限り、サイモンは出演しないのだそうです。アダムのカバーとしてパンフレットに掲載されていますので、他の役では出演しないとのこと。ウウウ、残念!
兄弟競演を見ることができた日本の観客は、ほんっとぉぉぉに幸運だったのです!あああ、うらやましいったらありゃしない!
ロンドンは相変わらず厳戒態勢で、捕り物も続いているようです。
さて今日は、7月28日の終演後、アダムが30分ほどお話をしたので、忘れないうちにそのご報告です。
終演後、StallとFirst Circleに観客が集まったのですが、なにより驚いたことは、6〜7割の観客が帰らずに残っていたように見えたことです。
評論家がどんなに意地悪をしようとも、ロンドンの観客はこの作品を楽しんでいます。観客はアダムの強い味方ですよ!
(この日も満員の盛況で、私の隣は、かなり年配のイギリス人とおぼしきご夫婦だったのですが、このご主人が、カーテンコールで足を踏み鳴らして大喝采しているのを見て、ものすごくうれしくて、ちょっと涙腺が緩みました。)
男性のインタビュアー(名前なんか聞いちゃいませんとも)の質問にアダムが答えるという形で進んで、最後に客席からも数人質問しました。
最初に、司会者がパンフレットにあるAdam & LezのQ&Aを読んだか、と会場に質問し、読んだ人は挙手しました。それで、質問内容が重なっていたらごめんなさい、なんて言っていたようです。実際に、あとでパンフレットを見ると、似たような質問が掲載されていました。アダムの答えも、同じような感じでした。(そりゃそうですよね。同じ質問に違う答えをしちゃうのは、まずいでしょう。)
Q- セックス・シンボルになるのは、どんな気持ち?
A- 自分は役を演じているだけで、そんなレッテルは、他の人が勝手に貼っているにすぎない。
Q- ヴァルモンのようなダーク・ロード役を演じることについて、どう思う?
A- 自分はかなり"いいやつ"で、ヴァルモンとは全然違う。だから、そういう役を演じるのはとてもおもしろい。
Q- すでに映画化やバレエ化されている作品をどうしてまた作品化したいと思ったの?
A- マルコビッチの映画を見て、原作を読んで、すばらしいと思った。その後、コリン・ファースの映画も見た。どちらの映画もよくできていると思ったが、あらためて原作を読んで、映画と原作は別だと思った。自分は、ダンス・プレイという形で、原作のことばをヴィルアライズしなければならないと思った。
Q- 振り付けと音楽がぴったり合っているが、Lezとの共同演出はどんなふうだったの?
A- Lezのステージのデザイン・コンセプトはすばらしいよ。僕は、振り付けのためにまずシナリオを書いた。初めてのことでたいへんだった。それで、少しずつイメージをチェックをして、最後に、日本に行く前にワークショップをして、彼といっしょにダンス・ドラマを作り上げていった。すばらしい経験だった。
Q- 音楽についてはどう?
A- Philipの作品を初めて見たのは、Draculaだった。その後、会う機会があって、すぐにこの作品について話すようになった。18世紀の音楽にインスパイアされたクリエイティブな作品ができて、とてもすばらしいと思う。
Q- 日本はどうだった?
A- 日本ツアーは、いつもすばらしい。観客がとても暖かく迎えてくれる。(アダムが、日本からの観客は手を挙げて、と言ったら、十数人の手があがったように見えました。それで、アダムは気を使ったのか、日本にはよくいくし、いつもすばらしいツアーができてうれしい、なんてことを言ってまし た。)
Q- TBSの録画は終わったの?
A- まだ。スタジオ録画する予定。
Q- いろいろな背景を持ったキャストが集まっているが、キャスティングについて何か?
A- Dream Castingだ。
Q- さまざまなスタイルの振り付けをしているが、それをひとつの作品として、どうまとめるの?
A- この作品は登場人物のキャラクターが重要なので、それぞれのキャラクターにあったスタイルを作りたかった。たとえば、セシルはクラシックバレエをベースにした振り付けだが、彼女のキャラクターはnaive(無邪気で世間知らず)というよりは、silly(愚かで思慮が足りない)だと思うので、そのようなキャラクターを表現することが大切だった。
リハーサルのはじめは、どういう風に踊るかを見せて振付けていくが、最後にはそれぞれのダンサーたちがキャラクターにふさわしい動くようになり、キャラクターにあったステップになる。ダンサーの意見にも耳をかたむける。でも、振り付けの最終決定は僕の判断。
Q- 途中に歌がはいっているのは?
A- いわゆるバレエではなく、ダンス・ドラマを作りたかった。でも、ダンス・ドラマというジャンルは、すでにマシュー・ボーンがやっているので、何か他の要素がほしかった。アリアもそうだが、他にも、人間の声を使うのがいいのではないかと思った。
Q- 三人の女性とヴァルモンの関係を演じるポイントは?
A- パワーバランス。三人の女性を動かすパワーはみんな違うので、表現スタイルもずいぶん違う。メルトイユがヴァルモンをあやつるパワーは蛇のようなイメージ。セシルはヴァルモンの肉体の力に翻弄される。トゥーヴェルとヴァルモンは「長い旅」(long journey)をする。そこに生まれる葛藤がパワーになる。
Q- この作品で何を学んだと思う?
A- I don't know! (なんて正直・・・。でも、こりゃいかん、と思ったのか、ちょっとしどろもどろになりながらもいろいろ言ってましたが、要するに、この作品に参加しているみんなのパッションがすばらしいということが言いたかったようです。何を学んだかは謎のまま。わははは!)
最後に、アダムが観客に感謝の言葉を述べて、「また来てくださいね!」とおねだりしていました。