危険な関係」を初めて観た時、「これは私のための舞台だ!」と思いました。音楽でも映画でも舞台でも、「良し悪し」で言うのとも違う、「好き嫌い」で言うのとも違うと感じた時、「これは私のためのもの」、「これは私のためではなく、誰か他の人のためのものだ」と思うのが、何かぴったりくるのです。
歪んだバロック音楽、タイムスリップしたようなほの暗い照明、密室的でありながら奥行きを感じるセット。そして何よりも言葉がなくても饒舌に語りかけてくるパフォーマンス。観終わった後に、胸の痛み、やるせなさ、切なさや様々な感情が渦巻く不思議な感動を覚えました。
私は多分、アダムがカッコイイ、一人勝ちな役をずっとやっていたら、この先ずっとファンであったかわからなかったと思います。
ヴァルモンという人物に対するアダムの解釈は、決して表面的なものでなく、何枚も皮を剥がして 心の底を覗いてみる感覚で、私はここまでやろうとするとは予想してませんでした。そして一番大事な物語の本質を伝えるために、自分がどうすべきか真摯に取り組んでいるんだと、本当に、アクターなんだなと。
きっとまだまだ発展途上なのだと思いますが、これから先が楽しみになりました。
第一幕の最後のセシルを犯すシーンに関して、あそこまでやらなくても、という意見があるようですが、私はあれはあのままの方がいいと思ってます。
人間は時として残酷で罪深い側面を見せるけど、しかしそんな人間の「負」の部分をあえて見据えることによって、逆に人間のピュアな部分に触れた時、美しさや感動をいっそう感じるのだ、とヴァルモンとトゥールベル夫人のパ・ド・ドゥを観て思いました。
本当に、視覚、聴覚、想像力すべての感覚をフル回転させた日々でした。いまだにフラッシュバックが起きて心がどっかに行っちゃったりしますが、暫くはこのままでいようと思います。