Club Pelican

NOTE 13

"NEWS23" アダム・クーパー インタビュー
(TBS、2005年1月28日放送)

クーパー君が筑紫哲也と対談するのか?いったい何を話すんだ?と心配していたら、インタビュアーは草野満代だった。実際に舞台を観た上でインタビューしたらしいので、まずは一安心。

ちなみに私のみるところ、筑紫哲也は、ダンス作品に関してはまったく無知識、無関心。マシュー・ボーンとの対談(2002年"The Car Man"日本公演時)でも、手近にある新聞や雑誌に載った紹介記事を読んだだけに過ぎないことがバレバレな、面白味のない質問ばかりしていた。

クーパー君が部屋に入ってくる。黒のハイネックのセーター、黒のズボン、黒い靴と黒づくし。でもスーツタイプのジャケットはモノクロの縦縞模様。これは明らかに私服ではないであろう。コイツの好みはこーいう系統ではない。胸ポケットからは、形よく折りたたんだ白いハンカチまでのぞかせている。妙に笑える。

クーパー君はご機嫌な笑顔を浮かべ、「ハッロ〜♪」と草野満代に挨拶。草野は片膝を少し折って挨拶し(これ、貴族とかじゃない人に対してもやるの?)、"Please sit down."と言ってソファーを示す。クーパー君は"Thank you."と礼を言って腰かける。さすがは英国紳士。

「オン・ユア・トウズ」、「リトル・ダンサー」、「白鳥の湖」の映像が次々と流され、彼の経歴を簡単に紹介。「危険な関係」リハーサル時に撮影された写真も映される。

草野「あの、アダムさん、ちょっと立って頂いてもいいですか?」 クーパー君は同時通訳の音声が聞こえるイヤホーンを左耳に当てている。クーパー君が立ち上がり、同時に草野も立ち上がる。

草野は手をかざしながら驚く。「大きい〜!身長、どのくらいですか?」 クーパー「(日本語字幕、以下同じ)180センチくらいかな。("I'm about 180 centimetres tall.")」 フィートじゃなくてセンチメートルを使うところが、いかにも日本慣れしている。クーパー君、テレビで中村獅童と話したときにも、映画"Billy Elliot"を邦題の"Little Dancer"と呼んでいたなあ(笑)。

草野「ああ、大きいですね〜。あとね〜、この脚が長いの!」 草野よ、早くもキャスターとしての立場を忘れたな。完全にはしゃいどる。カメラがクーパー君の脚をズーム・アップ。クーパー君は「スタイリストのおかげだよ。あとヒールね。(It's my stylist. And my heels.)」と言って大爆笑。やっぱりこの気取った格好はスタイリストのセンスの賜物であったか。

草野(笑いながら)「・・・そうでしょうか?どうぞお座り下さい。」 クーパー君は再び"Thank you."と言って座るが、そのとき一瞬、プリエっぽく開いた脚が長いのなんの。今さらだけど、クーパー君の脚の長さって、身長の半分以上もあるんじゃない?うふっ。

クーパー君と草野は再び向かい合って座る。またもやクーパー君マジック。草野満代の顔と体が異常にデカく見える。これだから恐怖なのよ。クーパー君と一緒に画面におさまるのは。小柄な日本人の女でも巨大にみえてしまうから。

草野「あの、バレエのダンサーの方って、わりかしこう、華奢な人が多いんじゃないですか?」

クーパー「ほとんどのバレエダンサーは、私ほど背は高くありません。バレエダンサーとしてのキャリアに役立ったので、背が高くてラッキーでした。イギリスには背の高い女性ダンサーが多いので、彼女たちよりも背の高い私が相手役を演じることができたのです。("Yes, most ballet dancers aren't quite tall as me. I was very, I'm lucky actually, that I'm so tall really helped to my career in ballet, because lots of tall women dancers are in England, and I mean that I'm quite to do big part with them, because I was so much taller.")」

「危険な関係」の実際の公演の様子が映る。プロローグ、メルトイユ侯爵夫人(サラ・バロン)とヴァルモン(アダム・クーパー)が、舞台の中央でゆっくりと黒い仮面を外すところと、第一幕の最後、ヴァルモンが逃げるセシル(ヘレン・ディクソン)を捕まえ、彼女を肩の上に持ち上げて下ろし、床を這って必死に逃れようとする彼女を、いたぶるような笑いを浮かべながら見下ろすところ。

クーパーの声がかぶる。「外から見るとすべてがお行儀よく見えるけれども、実際にはとてもお行儀がよいとは言えないという点が気に入りました。そして感情が複雑に絡み合っているのがおもしろい。それをダンスで見せたらすばらしいだろうと。ダンスはボディランゲージなので感情を表現しやすいし、それは世界共通で、どこでも上演できて、誰でも作品を楽しむことができます。("I love the fact on the outside it seems that everything is so proper, and, but what is happening is far from proper. And it's quite interesting mixture of emotions, and I thought it will be great to show in a dance context, because dance is so good for showing emotions, because it's body language and a sort of universal language, you can take it any around the world, and people can really enjoy, understand the story.")」

草野「この作品をその、バレエとは呼んでほしくない、というふうに言っておられますけど、これはどういうことなんでしょう?」

クーパー「バレエというものはもっと大がかりなもので、バレエでは常に物語が優先されるとは限りません。物語は二の次になっています。私は重要な登場人物だけで物語を語ることに関心があるので、この作品は別の名称で呼んだほうがいいと思うんです。ダンスシアターとかダンスドラマのほうが、バレエと呼ぶよりも正確だと思います。("Ballet tends to be for much big company, and in ballet, the story doesn't always come first, the story is usually secondary to the style of dance. So in sort of calling it 'ballet', because I mainly concern with telling the story with just these central characters, I prefer to call it something different, so 'dance theatre' or 'dance drama' is more accurate, I think, than 'ballet'.")」

「危険な関係」公演の様子。第二幕冒頭の群舞のシーン(これは嬉しい!)、トゥールヴェル夫人(サラ・ウィルドー)とヴァルモンが結ばれるシーンの踊り(クーパーがウィルドーを逆さに持って振り回し、床に下りたウィルドーをクーパーが背後から抱きしめる)。

草野「舞台の中で、こう、セクシーな場面というのがたくさんあって、観てるほうがちょっとドキドキしちゃうんですけども、今までのクラシックのバレエだと、ああいう場面ていうのはない、ですよね?」

クーパー「ありませんね。セクシーなシーンはこの物語にとって、とても重要で不可欠なんです。それもクラシックバレエでは難しいと思うところで、バレエの舞台設定が非現実的なので、感情表現がリアルにならないのです。("No, you don't. I mean that sexy scenes are so integral to the story, and have to be there really. That's one part of another thing about classical ballet which I find difficult. The emotion's never real, because it's always set in a sort of unreal place.")」

「少なくとも今回は感情や情熱やセックスの核心に迫ることができます。それは時には観客にとって耐え難いものかもしれませんが、少なくともリアルであり、何かを隠そうとするものではありません。("So at least, in this dance theatre, you can get really down to the nitty-gritty of emotions, passion and sex. And sometimes I can be quite, ah, hard to watch for the audience, but it's at least real, and it's not trying to hide anything.")」

「危険な関係」のプロローグ、ヴァルモンがメルトイユ侯爵夫人の首筋にキスをし、次にメルトイユ侯爵夫人がヴァルモンの背後から、彼に口づけをする場面が流される。しかしクーパー君のこのコメントは、第一幕の最後、ヴァルモンがセシルに乱暴するシーンと、第一幕終了後の観客の反応を念頭に置いてのものだろう。

次に第一幕、ヴァルモンとメルトイユ侯爵夫人が手をつないで同じ振りで踊った後、メルトイユ侯爵夫人がヴァルモンの顔を両手で挟んで、セシルのほうに向けさせるシーンが映され、画面に「バレエを始めたきっかけは?」というテロップが入る。

クーパー「偶然、バレエの世界に入りました。幼くしてダンスを始めましたが、タップにバレエ、芝居、歌・・・と、いろいろなことをするのが好きでした。バレエを職業にしようと思ったことはなかったのに、18歳でバレエ団に入団してしまった。("I went by accident really into ballet. I started dance when I was quite young, and I used to love in all sorts of performing, tap, ballet, acting and singing. But I never thought I would have my career in ballet, and I found myself within a ballet company at 18.")」

「でもおかしなことに、当時そこは自分の居場所ではないと感じていました。バレエ団に入団して2年もしないうちに、バレエ以上のことがしたくて、脱出する方法を探していました。アーティストとしてパフォーマーとして振付師として、もっと探求すべきことがあると確信したのです。("But funny enough, the weird I felt at that time was that I wasn't really in right place. I think, when I went into the ballet company and within two years, I needed to do more than just ballet, so I was looking for way out really. Even if I enjoyed what I was doing there, I knew there is more for me as a artist, as a performer to explore, and as a choreographer.")」

草野は次にちょっと踏み込んだ質問をする。クーパー君がいまだにずっと複雑な感情を抱き続けていると思われる、正統的とみなされているバレエとその業界の現状についてである。

草野「日本でも最近、バレエの人気ってすごく高くなっているんですけど、ただ一方で、バレエっていうと、ちょっと敷居が高いっていうイメージもついてまわるんですが、それについてはどんなふうに思われますか?」

クーパー「私がバレエについていらだちを覚えるのは、非常に型にはまっていることです。枠を広げて一般の人たちにも見やすくしようとする人が誰もいないんです。いまだにバレエは秘密めいていて、一部の人しか楽しめないもののように見えます。("I think, the thing I find frustrating with ballet is very set in their ways. Nobody is pushing boundaries to make it more accessible for everyday people. It still seems to be like something secret, only a few people can enjoy.")」

カメラがクーパー君の顔をアップに撮る。このカメラマンは優秀だ。この言葉を口にしたときの、クーパー君の表情の変化に気づいたのだろう。クーパー君はどこかを見つめながら、目を細めて、口の端をかすかに歪めた微笑を浮かべている。なんだか冷たく自嘲している感じの表情だった。

「そこで私が試みていることは、バレエやさまざまな分野のものをふまえながら、バレエをもっと敷居の低いものにすること、普段は映画やミュージカルしか行かないような人たちが楽しめて、熱中するような作品をつくることなんです。("That's why, you know, what I try and do is to take my background which is ballet and other areas, and make it more accessible, make it a part of production that people can enjoy, who usually only go to cinema or who just like to see musical or theatre, but they can all enjoy and get involve in this.")」

草野「そのあたりはやっぱり、アダムさんのモットー、"Fearless"っていうことだそうですけれども、それと関係があるんでしょうか?」

クーパー「バレエの世界でみんながしていることは、とても安全なことだと思います。同じことを繰り返しているだけですからね。でもエキサイティングで、今までになかったものをつくろうとするなら、危険を冒さなければならないし、それを恐れてはいけない。失敗を恐れすぎると、大きな危険を冒すことができないからです。("Yeah, I think, (しばらく沈黙する) again in ballet, people are very safe, with what they do, by doing same thing again and again and again. What I find is that if to create something exciting and create something never done before, you have to take risks! And in order to take risks, you have to be fearless. Because if you are worried too much about failing, then you never gonna take big enough risks.")」

「私は危険を冒すことを楽しんでいます。失敗する時は失敗するし、成功する時は成功する。少なくとも何か違うことを試みることが大切なのです。そういうモットーを持つのは良いことだと思いますよ。("And I enjoy taking risks. If I fail, I fail. If I succeed, I succeed. It doesn't matter. At least I'm trying to do something different, and I think that it's the good motto to go by.")」

「危険な関係」リハーサルの様子。ヘレン・ディクソンにピルエットの指導をしているシーン。

草野「今33歳ですけれども、いつぐらいまで舞台に立ち続けたいと思いますか?」 これは一定年齢を越えたダンサーに対する、(海外では)お約束の質問である。日本人は遠慮して尋ねないことが多いが、よく尋ねた草野。この手の厄介な質問をどうかわすかも、ダンサーの腕のみせどころだ。さてクーパー君はどう答える?

クーパー君は質問を聞くとうつむき、目を閉じて「フフフッ」と鼻で笑う。「やっぱり来たな〜」とか思ったんだろうな。そして顔を上げると、大きな声で「34歳!("34!")」と断言。だが次の瞬間には大笑いして"No."とフォロー。それから真面目な顔で答える。

「難しいですよね、人によっても違いますし。今のところ体の調子もとてもいいし、10年くらいはこの調子を保てると思いますが、どうなるか分かりません。("It's difficult, because each person is different. At the moment, I feel very fit (?) and I feel fine, and hopefully I'll continue to feel the same way for the next ten years. But, it's, who knows? ")」

「今、自分がいろいろなことをしているのもラッキーだと思います。ダンスをやめたとしても、別の形で表現できるでしょう。("Also I'm lucky now, because I do some many things. Even if I stop dancing, I will still be performing in different ways.")」 カメラがクーパー君の横顔をアップで映す。ダーク・ブロンドのまつ毛が長い。野郎だけど、まさに「けぶるまつ毛」。

草野「あの、舞台の中だと、今回の舞台だと、ものすごい色男というか、プレイボーイの役なので、なんか、あの、非常にこうやってお会いすると、すごくこう、ナチュラルな方ですね。」 クーパー君は草野の話を聞きながら、「そお?」という感じで、ふざけて目を大きく見開いて笑う。

クーパー「私はプレイボーイではないですよ。残念ながらね。自分とはとてもかけ離れているので、あの役を演じられてよかった。それに善良な役よりも、悪役を演じるほうが楽しいし、とても楽しんでこの役を演じています。("No, I'm not like that, unfortunately. (ハッハッハと笑う) No, it's (言葉に詰まり、照れたように笑って指で鼻をこする) it's always nice to play that character because it's so not like me. And always, bad characters are the fun characters to play, they're much better than to play good one, so I'm really enjoying to play this one.")」

草野「ぜひ、今回も、日本の女性をとりこにして下さい。」 クーパーは小声で「願わくば・・・そうだといいですね。("Hopefully. Very nice.")」とつぶやくと、また「ハッハッハッ」と笑う。

インタビュー映像が終わり、画面はスタジオに戻る。草野「この『危険な関係』、あのヨン様主演の映画『スキャンダル』の原作にもなった作品なんですよね。」 筑紫「何度もいろんな形でね、やられてるテーマですね。」

「危険な関係」公演の様子。ヴァルモンがダンスニー(デミアン・ジャクソン)に無理やり鍵を押し付けてから、片脚を上げて爪先を一回転させて伸ばし、ダンスニーはヴァルモンの周囲をピルエットしながら回る。ヴァルモンがトゥールヴェル夫人を後ろから抱きしめて突き放され、彼女の手を取って自分の頭を触らせる。トゥールヴェル夫人の死後、ヴァルモンの部屋を訪れたセシルをヴァルモンが乱暴に振り回す。

筑紫「まあ、あの、若い人が、今までのことに飽き足らなくって、なんとか突破口を見出そうとする、これはどの世界でもあることだけど、いいことですよね。リスクを恐れない、これも若さだしね。」 筑紫が見事なオヤジコメントでまとめて、本日のNEWS23が終了。


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