Club Pelican

THEATRE

海賊
("Le Corsaire")

注:参照映像は、(1) キーロフ・バレエ団の踊ったやつ、(2) アメリカン・バレエ・シアターの踊ったやつです。また、これはあくまで基本的なあらすじです。飛ばし見した部分があり、そこは適当に話を作ってあります。また、登場人物の容姿に関しては、時に私のやや個人的な解釈が入っています。


プロローグ

果てしなく広がる大海原。一艘の海賊船が波間を突き進んでいる。この間にタイトルとキャスティング・クレジット。

第一幕

〈オリエントの国の海の都〉大きな広場。後ろにはトルコ総督(?)の壮麗な宮殿が立ち並ぶ。奴隷商人のランケンデムが手下に命じて市を開こうとしている。人買いの手下どもは少女たちを引っ立ててくる。この奴隷商人のランケンデムは、やってることは極悪で非人道的だが、無精ヒゲを生やした、危険な魅力にあふれた超いいオトコだ。こんなハンサムなオトコになら誘拐されてみたい。ただヘンなのに売られるのはイヤだ。

海賊のコンラッドが手下と一緒に広場へやって来る。コンラッド「ここは何ていう広場だっけ?」コンラッドの手下のビルバントは、背表紙が黄色、ページの縁が蛍光ブルーのガイドブックをあわててめくる。表紙には「イスタンブールとトルコの大地」と書かれている。コンラッドはビルバントを叱り飛ばす。「アホ、それを人前で開くと、途端に怪しげなヤツがヘンな日本語で話しかけてくるんだ。スリも寄ってくるから早くしまえ。」すると、コンラッドの奴隷で超どどど級美少年のアリが、赤と白のペーパーバックをめくる。コンラッド「そう、ロンリー・プラネットはドミトリー情報が充実、じゃなくて、いいからそれもしまえ。」

そうこうしているうちに、コンラッドは奴隷商人に売りに出されていた美少女メドーラに一目惚れ。メドーラもコンラッドに気を引かれた模様。コンラッドはランケンデムにおずおずと話しかける。「エクスキューズミー。ディス、ハウマッチ?」ランケンデムは途端に日本語で「オー、ヤスイ、ヤスイ。イッコ、ニヒャクドルネ。」コンラッドは、相手が日本語を話したので内心ホッとしたが、しかしここで日本語で返したら、なんか負けた気がするので勇気を振り絞る。値引き交渉こそ旅の醍醐味だ。「アイハブノーマニー。モアチープ、プリーズ?」ランケンデム「ニコ、ゴヒャクドル、ヤスイ、ヤスイ。」コンラッドは思わず日本語が出る。「なにげにボるんじゃねえコラ」

値引き交渉は決裂する。コンラッドは何とかメドーラと話がしたいので、アリに連れてきてもらおうと彼を呼ぶ。アリは即座に走ってきて、180度開脚でジャンプ、コンラッドの目の前に見事に着地する。コンラッドの口元が心なしか引きつる。コンラッドはメドーラと楽しくお話しするが、すぐにランケンデムに遮られる。「ノーマニー、ダメダメ。」

そこへド派手な衣装を引きずり、タニシみたいな形のターバンを頭に巻き、みるからにスケベそうな顔の、脂ぎったデブのトルコ総督が、豪華な行列を従えて現れる。女の子を選びに来たのである。ランケンデムは総督に三人の女奴隷を次々と見せるが、総督はどれも気に入らない。コンラッドはビルバントにささやく。「この三人の女奴隷の踊りってさー、長すぎだよな。」

ランケンデムは、次にとびきり美人な別の女の子、グルナーラを総督に見せる。それからとうとうメドーラも見せてしまう。総督、二人をお持ち帰り決定。ランケンデムは総督にお世辞を言う。「さすがは総督様、お目が高うございますなあ。」総督「それにしても、娘を誘拐して売り飛ばすとは、お主もワルよのう。」ランケンデム「いえいえ、総督様にはかないませぬ。」二人は顔を見合わせてふぉっふぉっふぉっ、と笑う。

コンラッドはメドーラを他のオヤジに取られてムクれる。あっ、そうだ!いいアイディアが浮かぶ。金がなければ、盗っちゃえばいいんだ!コンラッドは再びアリを呼ぶ。アリは即座に走ってきて、180度開脚でジャンプ、コンラッドの目の前に見事に着地する。コンラッドの口元がまた心なしか引きつる。

こうして、海賊の手下たちは、メドーラばかりか、他の奴隷の少女たち、財宝をぜぇーんぶ奪い取ってくる。ついでにランケンデムも。これじゃただの強盗だ。いいのか、海賊だもんな。ところで、第一幕だけでこんなに長くなってどうするんだ。


第二幕

〈海賊たちの洞窟〉コンラッドたちは意気揚々と引き揚げてくる。素顔のステキなイーサン・スティーフェル君の説明によれば、コンラッドはメドーラに自分の財宝(当然みな盗品である)を見せびらかし、みんなで宴会を開いて楽しむことにする。

んでここで、コンラッドとアリとメドーラの踊りが挿入される。もともと三人用の踊りだったのか。フォンテーンとヌレエフが踊ってる映像を見て、二人用だと思っていた。しかし、明らかに男一人は別にいなくてもいいように思える。どっちか一人にしてほしい。3Pじゃないんだから。それにしても、アリは美少年や〜。うっとり。サラサラの黒髪。薄い胸も色っぽい。それにアバラ骨がいい。まるでカタキをとるみたいにハイテンションなのもほほえましい。今まで横ちょに立ってコンラッドが踊るのをぼーっと見てるだけだったもんね。思う存分踊りなさい。

しかしまー、このアリの踊りに、17歳のクーパー君はコンクールで果敢にも挑戦したのね。想像すると爆笑だ。似合わん。でも一生懸命だったんだろうなあ。カワイイぜちくしょう。ローザンヌ・コンクールといえば、白人男女のお笑いコンビが、絶妙のボケとツッコミで爆笑毒舌解説をしていたが、クーパー君は果たしてどうけなされていたんだろう?男「テクニックが未熟ですが、改善点は?」女「衣装がまったく似合ってませんね。まるでちょうちん・ブルマーです。」

本筋に戻る。メドーラはコンラッドに奴隷の少女たちを解放してくれるように頼む。すっかり鼻の下がのびているコンラッドはききいれる。手下の海賊たちは面白くない。中でもビルバントは裏切りを決意し、縛られたランケンデムが悪知恵を吹き込む。

〈コンラッドの寝室〉早い話がコンラッドとメドーラの初夜だ。しかし二人ともぐずぐずと踊っているばかりで、なかなか肝心な作業にとりかかろうとしない。早くヤッちまえ。そこへ、召使いの少女が二人に花束を届ける。コンラッドが花の香りを嗅ぐと、おや不思議、頭がくらくらし始めます。実は、ビルバントがコンラッドを殺害するために、睡眠導入剤「ハルシオン」アメリカンサイズ50r錠を3週間分、計21錠を粉末にしてふりかけておいたのである。せめて一発、と悲痛な魂の叫びを残し、コンラッドはバッタリと倒れて眠ってしまう。

そこへ覆面をしたビルバントら造反者が乱入してくる。メドーラはビルバントに襲われ、ナイフで彼の腕を突き刺す。が、多勢に無勢で、メドーラは再び攫われてしまう。ビルバントはコンラッドを殺そうとするが、間一髪でアリが180度開脚ジャンプで飛び込んでくる。アリはコンラッドに20発くらい往復ビンタを喰らわせて起こす。コンラッドは目を開けたが、ハルシオンの副作用で健忘の症状が出てしまっている。「あらっ、わしはナニをしていたのかひら?」ろれつの回らない口調でつぶやくコンラッドを、アリは更にグーで10発殴る。アンパンマンのように顔の腫れ上がったコンラッドに、ビルバントは賊が侵入してメドーラを攫っていったとウソをつく。


第三幕

〈トルコ総督の宮殿〉脂ぎったデブのトルコ総督が、ニンニク臭い息を吐きながらヨダレを垂らし、いぎたない格好で眠ってやがる。彼は大勢の美女が彼を取り囲み、彼のために踊っている夢をみてニヤけている。

折しも、宮殿の門にフードとマントをかぶった巡礼たちがやってくる。「スター・ウォーズT」に出てくるジャバ族そっくりな格好である(メル・ブルックス監督の「スペース・ボール」は「スター・ウォーズ」のパロディで超笑えるのでぜひ一度ご覧下さい)。彼らは実はメドーラを救い出しに来たコンラッドたちなのだ。門衛が油断した隙に、彼らは門衛の首をかききって殺す。なにも殺さなくてもいいのにね。

目が覚めた総督はランケンデムと一緒に美女たちを集めて踊らせる。攫われたメドーラはグルナーラと再会する。そこへ巡礼に変装したコンラッドたちがやって来る。コンラッドはメドーラに密かに目配せし、助けに来たことを知らせる。メドーラはグルナーラにそれを教え、二人は何事かを打ち合わせる。

メドーラとグルナーラは踊りながら総督に近づき、総督にまとわりつくフリをする。脂ぎったデブの総督は、美女二人にかまってもらって、すっかり有頂天である。ふと、グルナーラが衛兵の槍をふざけるふりをして取り上げ、総督に突きつける。それを合図にコンラッドたちはマントを脱ぎ捨て、隠し持っていた剣を一斉に振り上げる。脂ぎったデブの総督とランケンデムはびっくり仰天、その場は一転して大乱闘になる。

そこへアリも180度開脚ジャンプで飛び込んできて加わる。コンラッドがメドーラを連れ出そうとしたところへ、グルナーラがビルバントに追われて逃げてくる。ビルバントは、第二幕ではメドーラに迫っていたが、今度はグルナーラか。美女なら誰でもいいらしい。メドーラはグルナーラをビルバントから庇おうとして、彼の腕の傷に気づく。裏切り者であることがバレたビルバントは殺される。海賊たちはトルコ総督の宮殿から脱出する。


エピローグ

再び大海原。コンラッドたちを乗せた海賊船が、帆を高らかに揚げ、白波をたてながら、意気揚々と突き進んでいる。コンラッドとメドーラは舳先に立ち、懐かしの「タイタニック」ポーズをしている。これがいけなかった。船に乗っているときには、船が沈没する映画のマネは御法度である。飛行中の旅客機の機内で、「エアポート」シリーズや「ダイ・ハード2」、「生きてこそ」等を放映してはならないのと同じことだ。突然、海が大荒れとなり、船は大暴風雨に巻き込まれ、あっという間に大波に飲み込まれて沈没する。ほらね〜。せめて「釣りバカ日誌」ぐらいにしとけばよかったのに。

どこかの浜辺。メドーラとコンラッドが打ち上げられている。集まった地元の子どもたちに棒でつつかれて目を覚ました二人は、助かったことを知り、抱き合って喜ぶ。アリやグルナーラは死んじゃって、お魚のエサになったらしい。なんつー結末だ。

(2002年5月1日)


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