Club Pelican

Leicester Diary 1

2004年9月9日 (1)

レスター市へは列車に乗って行きました。後に判明したことには、ロンドン−レスター間は、直通の高速バスも運行されていました。更にもしバスを使っていたならば、予約したレスターのホテルから目と鼻の先にあるバス・ステーションに到着し、徒歩でホテルに行けたのです。でも事前にはここまでは調べ切れませんでしたから仕方がありません。

レスター行きの列車はSt. Pancras駅から出ています。発着駅、時刻表、目的地までの所要時間は、ナショナル・レイル( National Rail )のサイト( ここ )で確認することができました。レスターに止まる列車は、30分ごとに僅かな時間差で2本ずつ運行されています。たとえば、10:00に急行、10:05に各停、10:30に急行、10:35に各停、といった具合にです。ただし、「急行」とか「各停」とかの表示はありませんでした。停車駅が少なければ早めに到着する、多ければやや時間がかかる、というふうに判断するしかないようです。

2年前にSt. Pancras駅に行ったときには、古い駅舎で乗り降りした覚えがあるのですが、今は新しい駅舎が旧駅舎の北側に建設されており、列車の乗り降りはすべて新駅舎で行ないます。ですから地下鉄のKing's Cross駅を出てからかなり歩いた気がします。実際はそう大した距離ではないのですが、私はトランクを引きずっていたせいか遠いと感じました。現在、King's Cross駅とSt. Pancras駅の間の道路は大がかりな工事が行われています。おそらくは連絡通路を整備しているのでしょう。

St. Pancras駅から、ミドランド線( Midland Line )の、確かシェフィールド( Sheffield )行き列車に乗りました。これが最も速い列車らしく、ロンドンの次はレスターに停車します。1時間10〜20分ほどかかるようです。運賃は片道36ポンド(約7,300円)でした。高い!

発車ベルが鳴って列車のドアが閉まると、列車は静かに動き出しました。列車は車内アナウンスというものがほとんどありません。発車後まもなく、「この列車はレスターには○時○分、どこそこには○時○分、・・・シェフィールドには○時○分の到着です」というアナウンスがあっただけでした。

途中で「他の列車との兼ね合いのため、○分間停車します。したがってレスターには△時△分、どこそこには△時△分、・・・シェフィールドには△時△分の到着となります」というアナウンスがあって、それっきりレスターが近くなっても、「まもなくレスター駅に到着します」というアナウンスはありませんでした。停車駅や停車時間は、一度言ったら何度もくりかえす必要はない、ということでしょうか。

レスター駅に到着しました。駅舎は大きくもなく小さくもありません。駅の規模は街の規模、レスター市は大都市ではないけど、そんな田舎でもないだろうことが窺われました。駅構内の売店で、さっそくレスターの市街地図を買いました。

駅のすぐ前は屋根つきの車の発着場になっており、タクシーが何列にもわたって客待ちをしていました。運転手たちは、それこそ全員がインド系かパキスタン系か中東系のいずれかで、数人でたむろしておしゃべりをしています。トランクをひきずった私が駅から出てくると、彼らは一斉に私に目を向けました。

このときの私は、動物に喩えていうなら、全身の針をバリバリに逆立てた状態のハリネズミでした。私の頭の中には、「外国の駅前タクシー=白タクかボッタクリ」という公式がありました。彼らが全員アジア系であったことも、その疑いに拍車をかけました(ここでツッコミを入れたい方は、もう少し待って下さい)。私は彼らから視線をそらせたまま、駅前の道路に出ました。そこにはバス停がありました。

タクシーはこわいよう、バスで行こう、でもホテルの近くまで行くバスが分からない、どうしよう、と途方にくれながらバス路線図を見つめていました。すると、「バスを探しているの?」と後ろから女性の声が聞こえました。振り向くと、それは顔だけを出して、頭から全身は大きな長いヴェールですっぽりと覆った、インド系かパキスタン系の女性でした。

私は「○○Streetに行きたいのですが」と答えましたが、一般の市民が道路名を聞いただけで、それならこのバスです、などと分かるはずがありません。その女性は、あなたは初めてここに来たのだし、大きな荷物も持っているから、タクシーで行きなさい、彼らは道を知っているし、ホテルのすぐ前に車を着けてくれるから、と私に勧めました。

私は駅前のタクシーは大丈夫でしょうか、と彼女に尋ねました。すると彼女は力をこめて、絶対に大丈夫、何の心配もいらないわ、絶対に安全よ、と断言しました。そこで私は駅前のタクシー乗り場に戻りました。インド系かパキスタン系の運転手は、ホテルの名前と住所を聞いて、ああ、分かります、と即座に車を発車させました。なんだか道をやたらとぐるぐる回って、それでも10分もかからないうちにホテルに着きました。

ホテルは普通のビジネス・ホテルです。ベッドはダブルで、衛星放送も観られるテレビ、コーヒー・紅茶セット、ヘアー・ドライヤー、アイロンなどがあり、浴室はバスタブ付き、これで1泊46ポンド(約9,300円、税込み)でした。この値段では、ロンドンなら安いB&Bくらいしか泊まれません。

ホテルの部屋でひと休みしながら、私は地図を広げて、いま自分がどこにいるのか、駅はどこにあったのか、また自分がこれから行きたい場所の位置を確認していきました。実は、私はあのタクシーが、ワザと必要のない回り道をしたのではないか、と疑っていたのですが、地図を見てそうではなかったことが分かりました。

駅とホテルとは、City Centreと書かれている、丸い形をした市の中心街の、ほぼ南北の両端に位置していました。City Centreを真っ直ぐに突っ切っていけそうに見えますが、City Centreは一方通行か車両通行禁止の道路が多く、何度も回り道せざるを得ないようでした。

地図を見ると、City Centre内の道は細かく複雑に入り組んでいて、この円形のCity Centreを囲んで環状線があり、その環状線から市の郊外へ向かって大きな道路が10本近くも伸びています。環状線の東側にはモスクがたくさんあることから、ムスリム系住民が多く住んでいると思われます。また後で分かったことですが、環状線の北側にはインド系住民が多く住んでいるそうです。環状線の南側にはかなり大きな墓地、それからいくつかの総合大学、プロサッカー・チームのホーム・グラウンドなど、大規模な施設があるようです。

市街の大体の構造を見て、レスターは相当に古い歴史を持つ街だと思いました。環状線に囲まれるCity Centreが旧市街で、環状線の外側は近代以降に発展した新市街であり、昔は都市を囲む城壁の外だったのでしょう。環状線の外側にある市街は、City Centreとは違い、細長い賽の目状に交叉する道路によって、整然と区画されています。また、ある国の古代都市では、墓地は城壁の外側の地域に作られたのが通例です。ひょっとしたらイギリスも同じで、環状線の南側にある大きな墓地は、けっこう古いものかもしれません(行かなかったから分からないけど)。

こうして徐々に頭が冷えてきたこの時点になって、私はようやく気づきました。私が駅前のバス停で困っていたとき、私に声をかけてくれた女性に対して、私はよりによって彼女の同胞のことを、悪い連中ではないだろうか、と尋ねたことにです。親切に声をかけてくれた人に、逆にひどいことを言っていたのです。あまりの申し訳なさと後悔に、思わず頭を抱えました。

大体、「アジア系だから悪い連中かもしれない」という偏見が私にはあったのですが、そういえば私自身がアジア系だったのです。もっとも肝心なことには、私はこのときほど、こうした不合理な思い込みが、いかに自分の中に強固に根づいているかを痛感したことはありません。自分の中に偏見があることは「知って」いましたが、それに「対処した」ことはなく、だからこそ偏見に基づいた態度を、実にあっけらかんと無神経に、ああやって行動化してしまったのでした。そして今回の旅行では、こんなふうに自分の中にある様々な思い込みを、自覚させられる出来事が不思議と多かったのです。


2004年9月8日

レスター日記といいながら、まずはロンドン行きの飛行機の中から始めましょう。エンタテイメント・チャンネルで「ヴァン・ヘルシング」を放映していました。ウィル・ケンプが出演している映画です。あまりに面白くて2回も観てしまいました。

いま映画館で上映中の映画については、「ネタバレ」がないよう、特に気をつけなければなりません。ですからあんまり詳しくは書けませんので、ヤバい部分は伏せ字にします(字数はいいかげんです)。

主人公のヴァン・ヘルシングはヒュー・ジャックマンで、じいさんではなく、すごく男前でカッコいいヴァン・ヘルシングでした。ドラキュラ伯爵の役は誰だったか忘れましたが、非常に味のある、印象に残る役者さんです。ドラキュラ伯爵のキャラクター設定も、今までの映画にはない新鮮なものでした。

私が特に好きなのがドラキュラ伯爵の3人の妻です。普段はいずれもとても色っぽいゴージャス美女なのですが、××して×を×び、ケタケタ笑いながら人間に×いかかります。そのときの彼女らはとても不気味ですが、なんとなく痛快でもあります。それをヴァン・ヘルシングが×したりするともっと痛快です。

フランケンシュタインも出てきます。フランケンシュタイン博士も出てきて、驚いたことに、その役者さんは確かサミュエル・ウェストでした。「ハワーズ・エンド」で、レナード・バスト役をやっていた人です。出てきて×分で×××××××に×されてしまいましたが。

フランケンシュタインのキャラクターも面白かったです。特にラストは感動的でもありユーモラスでもありました。××をまとめて×を×いで×っていく姿には、あっ、ちょっとカワイイかも、と思わずときめいてしまいました。

ヒロインの女性(「アンナ」だったかな?)もいます。ただ×××たちに頻繁に×われているのに、あのセクシー衣装はちょっと危険ではないか、と思いました。胸の谷間を見せるのはかまいませんが、せめて首筋くらいは頑丈な鎧などでガードすべきです。あれではどーぞ×を×って下さい、と言っているようなものです。

ウィル・ケンプは狼男の役でした。××する途中、××した後のシーンの方が多かったのがちょっと物足りなかったです。せっかくのハンサムなのになんと勿体ない。

映画の終盤は「ゴジラ対モスラ」みたいな感じになりました。×××××××が意外にあっさり×んでしまって、あり?これって××じゃったの?となかなか気づきませんでした。更にラストはこんなんありかい!?とつい思ってしまいました。また、×の間から、×××と×××・×××と×××たちの××が×えるのは、これは感動を狙っているのか、それとも笑いを取ることを狙っているのか判断がつかず、少し戸惑いました。

いろんな意味で「ヴァン・ヘルシング」はとても面白いです。特殊技術を駆使し、またスピード感とスリルに溢れ、観ていてとてもエキサイトできる映画です。ぜひともご覧になることをお勧めします。

ヒースロー空港に到着しました。以下は今回の入国審査官の質問です。1.仕事か旅行か。 2.どれくらい滞在するのか。 3.イギリスのどこへ行くのか。 4.そこへ何をしにいくのか。 5.つい2ヶ月前(6月)にもイギリスに来ているが、このときは何をしに来たのか。 6.今回観るのはどのミュージカルか。 7.どうぞ良い旅を!

なるべく早く宿に入ってゆっくり休みたかったので、ヒースロー・エクスプレスの切符を買って列車に乗り込みました。これで15分後にはロンドン市内に到着するはずです。ところが、列車がなかなか動きません。しばらく待っていると、車内アナウンスが流れました。「システムの故障により、この列車はしばらく停車いたします。ロンドン市内にお急ぎの方は、別の交通機関にお乗り換え下さい。」  お急ぎの方、といったって、バスやタクシーや地下鉄だと、どれくらい時間がかかるか知っているでしょうに。

それから10分経ちました。まだ動きません。ホームではトランシーバーを持った駅員たちが数人も集まって、前方を見やりながら、さかんにトランシーバーで連絡を取っています。業を煮やした乗客が「一体いつ動くんだ!」と駅員たちに食ってかかります。女性の駅員は平然と答えました。「それは私どもにもさっぱり分かりません。5分後かもしれませんし、数時間後かもしれません。」

これが日本の駅員だったら、「まことに申し訳ございません、ただいま原因を調べております。なるべく早くに復旧できるようにいたしますので、お待ちになるか、お乗り換え下さるようお願いいたします。お急ぎのところ、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」とくるでしょう。でもイギリスの駅員は、「列車が動かないのが悪いんだもん、私たち駅員は悪くないもん」という、責任の所在を明確に区分した、実に毅然とした立派な態度でした。

私は半ば感心しつつ、半ばキレかかりつつ列車を降り、ヒースロー・エクスプレスのチケット・カウンターに行きました。払い戻しをしようとしたら、職員が「ではこの払い戻し申請書類に記入して下さい」と一枚の紙を手渡してくれました。記入事項をみると、氏名、住所、銀行口座、またはクレジット・カードの番号を書く欄がありました。

これが日本の鉄道だったら、切符と引き換えに即座に払い戻しをしてくれるはずです。私は驚いて「今すぐに払い戻しはできないんですか?」と尋ねました。なにせ13ポンド(約2,600円)という大金です。職員は「ええ、システム上、今すぐの払い戻しはできないんです。」と答えました。私は更に尋ねました。「払い戻しはいつになるんですか?」 職員はしばらく考えてから答えました。「数週間から数ヶ月後です。」

私はもはや何も言う気がなくなり、黙って書類に記入して職員に手渡し、重いトランクを引きずって、とぼとぼと地下鉄のホームへ向かいました。ヒースロー空港は地下鉄のゾーン6にあります。市の中心、ゾーン1へは片道3,80ポンド(約770円)もかかります。むなしい気分でピカデリー・ラインに乗り、たぶんハマースミスかアールズ・コート駅で乗り換え、宿のある駅へ行きました。結局1時間余りもかかったでしょうか。

「最初からやってくれるぜイギリス」と心の中で苦い思いを噛みしめながら、「でも明日からは負けなくってよ!」と決意を新たにしました。


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