Club Pelican

London Diary

2003年8月19日(火)

7時間ほど熟睡できた。朝はユーロスターの轟音と振動とで爽やかな目覚め。さて、今朝も朝食バトルだ・・・。ところが、朝食に降りていくと、昨日の超ムカついたアホ従業員どもの姿はみえなかった。昨日とはちがう中年のオジさん従業員一人だけがいて、コーヒーを出す機械を白い布でみがいている。カウンターには牛乳もオレンジジュースもシリアル類もたっぷり、グラスや皿もきちんと用意されていた。各テーブルの上には、朝食用の小さな皿、ソーサーの上に置かれたコーヒーカップ、紙ナプキンに包まれたナイフとフォーク、ジャムとオレンジ・マーマレードの入った小さな籠が整然と並べられている。ちなみに客は一人もいない。

あり?なんか昨日とは様子がチガウな、と思いながら、一応おはようと声をかける。オジさん従業員は振り向いて私を見ると、無愛想な表情で「おはよう」と言い、「朝食だよね。コーヒー?紅茶?」と尋ねてきた。コーヒーを頼むと、「席に座って待っていて」と言う。オジさんはすぐに、あの銀色の小さなコーヒーポットと、シングル・クリームの入ったピッチャーを持ってきてくれた。あのさ、B&Bの朝食って、ふつうこういう展開だよね?

しばらくして、黒人のコックさんが朝食の載った大皿とトーストの入った籠を運んできた。・・・ここでも、厨房で働いているのは有色人種なのか・・・。去年泊まったB&Bの厨房にいたのは、全員がアジア系だった。

朝食が終わる時間が近づくと、オジさん従業員は各テーブルの朝食用食器をテキパキと片づけ、昼からのパブ営業の準備を始めた。メニューを各テーブルにさし込んでいく。オジさん従業員は無表情に、ひたすら自分の仕事をこなしていた。私はこういう人が好きである。

今日は「クーパー君ゆかりの地めぐり」をすることにする。まず、近くにあるはずのOld Vic Theatreへと向かう。去年、この劇場で“On Your Toes”を上演する計画が一時あったらしい。結局実現はしなかったが。徒歩5分(もっと少なかったかも)であっさりと到着。小さい劇場である。今は閉鎖中で、9月に再オープンするという。正面は改装してあるけど、外壁はレンガにしっくいを重ねたもので、いかにも古い。楽屋口とかも古い木製のドア。外壁にはめ込まれたプレートを見ると、なんと1816年の建造だという。

次は地下鉄に乗ってレスター・スクエア駅で降りる。散策しながらコヴェント・ガーデンへ。なんか人があんまりいなくて閑散としている。気のせいかな?Royal Opera Houseもメンテナンスのため9月まで閉鎖だという。ガラス戸の向こうのホールをのぞくと、内装用の資材がたくさん置いてあった。ただしボックス・オフィスとショップは開いていた。とにかくパンフレットやチラシを手当たり次第にもらっていく。ショップは、あいかわらず大したものはなし。雑誌をいくつか買う。

去年観るのをすっかり忘れていたTheatre Museumに行く。観覧は無料。私の持っていたガイドブックには「演劇博物館」って訳してあったけど、文字どおり「劇場博物館」っていう方が近いんじゃないかと思う。ロンドンの劇場の歴史紹介がメイン。博物館は地下にあって、なぜかRambert Dance Companyの公演ポスターがいっぱい貼ってあった。ひときわ印象に残っているのが、マリー・タリオーニが実際に履いたという、黒いシルクのサテンのバレエ・シューズ。驚いたのは、その異常な小ささである。足幅が5センチくらいしかない。長さも私の足の3分の2くらい。子どもの靴みたい、というレベルではない。まるでカヌーのミニチュア版みたい。これは本当に人間の足か?本当にこんな細くて小さい足をしていたのか?マリー・タリオーニが踊っている絵、あの不自然な形の小さな足は誇張ではなくて、本当の姿だったのかもしれない。

あとは忘れたけど、「レッドグレーヴ一族の系譜」という特別展があった。レッドグレーヴ一族って、演劇界のケネディ一族みたいなもんだったんだね。そうだ、ルドルフ・ヌレエフ展もあった。衣装が何点か飾ってあった。小柄でちょっとずんぐりした体型の人だったみたい。

いきなり疲れて気分が悪くなってきた。近くのカフェに入ってコーヒーとベーグル・サンドを食べてしばらく休む。それでもあかん。体を引きずるようにしてまた地下鉄に乗り、ホテルに戻った。夜の観劇の前に倒れてしまっては元も子もない。ホテルにたどり着いて、ベッドの上に座り、明日以降の昼の予定を決めようとガイドブックを読み、日記を書いた。こうしておけば、夜帰ってきてからすぐに休める。

ガイドブックを確かめながら日記を書いていると、いきなり喉をなま暖かい液体が流れていくのを感じた。鼻水か?カゼひいたかな?と思ったら、広げたガイドブックの上に、いきなり真っ赤な血がぼとぼとっ、としたたり落ちた。鼻血だあ〜!!!どうして!?あわててティッシュを鼻の穴に詰め込む。が、みるみるうちに真っ赤に染まる。上を向いて次々とティッシュを交換し、ひたすら安静にする。頭がクラクラして、めまいがしてきた。目の端っこに白い光が飛んでいるのが見える。ユーロスターがまた通過していく。ものすごい轟音と揺れ。このホテルは早く出た方がいい、よかった、明日から静かな場所に泊まれる、とぼんやりと考える。

鼻血と貧血はなんとかおさまった。そろりそろりと歩きながらRoyal Festival Hallに向かう。“On Your Toes”公演の真っ最中に、鼻血がまた出たらどうしよう。特に「王女ゼノビア」の最中に。アダム・クーパーの裸にコーフンしたとか、周囲の観客に誤解されたくない。

“On Your Toes”、今日も楽しんだ。帰りかけたところで、イレク・ムハメドフが私の前を小走りに通り過ぎた。あっ、と思って手を上げて呼び止めようとしたが、急いでいる感じだったので諦めて手を下げた。ところが、ムハメドフはそれに気づいたらしく、なんと私の方に駆け戻ってきてくれたのだ!!あの偉大なダンサーが!!うわあああ〜、と思いながら、プログラムとサインペンを取り出し、サインをもらった。緊張しながらも、あなたのパフォーマンスが観られて本当に嬉しいです、と言った。ムハメドフは、ありがとう、と言い、また走っていきながら「バイバイ!」と手を振ってくれた。いい人や〜。なんて気さくなんだ。ぜんぜん偉ぶってない。

サラ・ウィルドーにも声をかけることができた。サインをもらう。「ヴェラがいちばん大変な役ですね」と言うと、「そう、ダンスの上にセリフもあるから、本当に大変」と答える。美しい顔だち。でもそれ以上に、きれいな微笑み。優しい雰囲気。穏やかで柔らかい声音。なんてステキな人なんだろう。見とれてしまった。「体を大事にして下さいね」と言うと、「ありがとう。大丈夫。あなたもね」と言ってくれた。たった一言だったけど、この人は、優しくて思いやりのある人だと分かった。なんだかとても癒された気分になって帰途についた。

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2003年8月18日(月)

まず、「建物のド真ん中を鉄道の陸橋が貫通している」ホテルなんて実在するのでスか?というお問い合わせを多数(3件)頂いたので、証拠写真を以下に提示する。

どーです、ホントでしょ〜?みなさん、これを他山の石、あれ?対岸の火事?反面教師?にして下さい。これから駅の近くのホテルに問い合わせをするときには、「あなたがたのホテルは建物の中を線路が通っていますか?」という質問を忘れずにつけ加えるようにしましょう。

時差ボケは、睡眠時間のズレという形で現れる。前の晩12時頃にはベッドに入ったのに、朝の3時半くらいに目が覚めて、そのままうつらうつらとして8時前に起きた。疲れていたせいか、列車の轟音は、ナゼかそんなに気にならなかった。

食堂(昼からパブになる)に朝食に降りていくと、客はほとんどおらず、テーブルには何の用意もされていない。カウンターにオレンジ・ジュース、牛乳、シリアルやオートミール、あの黒い麦の粉末をすりつぶして固めたやつ(名前不明)などが無愛想に置いてあるだけ。私はこの牛乳に浸して食べる類のモノが好きでない。しかも牛乳の入ったビンはカラ、ジュースもほとんど残っていない。

店員3人(男1人、女2人)はひたすらおしゃべりにふけっている。私はこの類の店員も好きでない。ここは「フル・イングリッシュ・ブレックファスト付き」ホテルだったはずである。「イングリッシュ・ブレックファストはないか」と尋ねると、作ってくれるという(当たり前だ)。そうか、朝食付きのホテルでも、こっちから丁重にお願いしないといけないのだ。

しばらくすると、一枚のデカい皿に、ハーブ・ソーセージ、ベーコン、ローストしたトマトとマッシュ・ルーム、ソース煮豆、目玉焼きが載っかって出てきた。それに全麦パンのトースト2枚。店員の質はよくないが、食材の質はよい。

ふつうはコーヒーがいいか紅茶がいいか聞いてくるものだが、聞いてもこないし、もちろん出てもこない。これも客の方から自己主張しなければならないらしい。喉がつまってきたので、ジャパニーズ・スマイルを浮かべ、心の中で「このズ○公」と思いながら、丁重な態度で女店員様にコーヒーを持ってきてくれるようお願いする。女店員様は舌打ちしながらも、やがて白いマグカップになみなみと注いだミルクコーヒー(最初から)を持ってきて下さった。

部屋に戻って身支度をすませてさっそく出かける。今のホテルは、あと2泊しなくてはならない。料金を前払いしちゃったから。その後はどこに泊まるか・・・。渡英前、いおさんからWaterloo駅近くにある別の宿の情報を教えてもらっていた。今のホテルから歩いて2、3分のところにある、King's College LondonのStamford Street Apartmentsである。特に長期休暇中はほとんどの部屋が空くため、その部屋を一般旅行客に開放しているのだろう。オフィスに行って部屋を予約してもらった。とりあえず1日分のデポジットを支払わされたが、1泊31ポンド(約5.900円)だ!安い!各個室にトイレ、シャワー、しかも小型冷蔵庫が付いているそうだ。なによりも、建物の中を鉄道が貫通していないのはすばらしい。

気分がラクになったところで、South Bank一帯を探索することにする。夜、劇場からの安全な帰り道を決めるため、いったん今のホテルまで戻ってWaterloo駅東口から駅構内に入り、そこからSouth Bankへ出た。やっぱり帰りはWaterloo駅構内を通った方が安全そうだった。

中央口からガード下をいくつか抜けると、おお、目の前に白い外壁の大きな建物が。壁面には青で“ROYAL FESTIVAL HALL”の文字。ここですか〜。ホールの正門に行くには、左にある階段を上って、テームズ河に面した方に回らなくてはならない。階段の脇にも“ON YOUR TOES”のあのポスターが♪

さて、1年ぶりのテームズ河よ、元気でしたか〜?あいかわらず茶色でゴミが浮いてますね〜。ホールのボックス・オフィスに行ってチケットを発券してもらった。なにせ7枚なのでえらい長さになった。ちょっと恥ずかしかった。ホール内のショップ巡りをした。プログラムを買う。他には大したものはない。“ON YOUR TOES”グッズをもっと増やしてくれ、と思った。たとえばポスト・カードとか。これなら荷物にならない。

次に又隣のNATIONAL THEATREのボックス・オフィスに行き、“THREE SISTERS”のチケットを受けとる。夜はみんな“ON YOUR TOES”でつぶれるこの週に、“THREE SISTERS”の昼公演があったのは幸運だった。NATIONAL THEATREのブック・ショップに行くと、今回上演されるNicholas Wright版の本がすでに販売されていた。さっそく購入する。木曜日までに目を通さないといけない。

テームズ河の遊歩道でしばらく読む。大体同じ気がするけど、どこがちがうんだろう?でも難しい語彙や表現はほとんど使ってないようだった。これなら大丈夫だろうか?それにチェーホフの原作を大幅に改編することなんてできないだろうし。

河の風で寒くなってきた。South Bankの劇場街はカフェだらけ。しかもどこも人でいっぱい。平日なのにどこからわいてくるんだろう。暖かいコーヒーとサンドウィッチを頂く。

LONDON EYEに乗ろうかと思ったが、当日券受付カウンターは長蛇の列でイヤになった。で、LONDON AQUARIUMに行く。ヨーロッパ最大の規模を誇る水族館だという。私が魚を見てまず考えること。コレは食えるか食えないか。私は水槽を泳ぐ魚たちを眺めながら、この魚はどうさばけばいいかな、どういう味付けや調理法がいいだろうか、とぼんやり考えていた。

この水族館はエイとサメが目玉らしい。でかい水槽に、エイやサメがたくさん泳いでいた。2メートルほどのサメがガラス窓に近づいてくるたびに、子どもはキャッキャッとはしゃいでいた。他には、エイがいっぱい放されている、底の浅い広い水槽があって、子どもがエイに触ろうと一生懸命に手を伸ばしていた。

結局大したことはなかったが、唯一面白かったのが、サメの紹介文パネルの中の1枚。“75-100 shark attacks are reported every year, and fewer than 20 are fatal. Statistically, this is in extremely low number. To put it in perspective, more people are killed by pigs or falling coconuts every year.”

ホテルに戻って身支度、ROYAL FESTIVAL HALLへ。さあ、いよいよ“ON YOUR TOES”鑑賞よ♪ホールの正門前で、ひなさんとそのお友だちに会う。

“ON YOUR TOES”、とても楽しかった。踊りでは、やはりアダムがダントツ。すばらしかった。セリフ回しもよい。歌も歌えていた。声がとてもよかった。声量があって伸びる感じ。期待以上だった。

あと6回も観られるんだなあ。嬉しい。

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2003年8月17日(日) (2)

パディントン駅から地下鉄のベイカールー線(Bakerloo Line)に乗り換え、ウォータールー(Waterloo)駅に向かった。20分くらいで着いた。エスカレーターで上がって地下鉄の出口を出ると、そこはウォータールー駅の構内だった。とにかくデカい。ウォータールー駅はターミナル駅らしいので、デカいだろうとは思ってたが、それにしてもデカい。構造的には、上野駅によく似ているけど、上野駅を縦・横・高さともに2、3倍にして、ホームが駅の建物と水平に位置しているみたいな感じである。

学校の体育館をもっと巨大にしたような構内には、チケット・センター、両替所、コンビニ、ドラッグ・ストア、スーパー・マーケット、カフェ・レストラン、軽食のスタンド、旅行用品店、書店、化粧品店、文房具店などが詰まっている。この建物から、ユーロスター(Eurostar:ドーヴァー海峡を縦断するトンネルを通って、イギリスとヨーロッパを結ぶ列車)など各線のホームが、鯉のぼりみたいに一斉に伸びている。各線のホームは複数本あり、それぞれがまた体育館のような屋根で覆われている。

駅構内は人でごったがえし、いかにも大都市のターミナル駅といった光景が広がる。トランクを引きずって歩いてゆく人々、巨大なバックパックを床に置いて座りこんでいる(または寝ている!)人々、列車の発着状況を示すモニターにいつまでも見入っている人々、チケット・センターに長い列を作って並ぶ人々、そして行き倒れやホームレスらしい人々。一言でいえば雑多。久しぶりにこんな雰囲気の場所へ来た。青い制服のガードマンが、3人一組で巡回している。同じターミナル駅でもパディントン駅なんかは、しょせん飛行機に乗る人々ばかりが使っているのだから、お上品だしはるかに安全だ。

さて、ホテルはどこにあるのだろう・・・。とりあえずその辺の出口から外に出た。出口の階段の壁には、駅の由来を記したプレートがはめ込まれ、外に出てから後ろを振り返ると、その出口だけが白い大理石(?)の古風な作りになっていて、上に“WATERLOO STATION”と書いてある。どうやらここが駅の中央口らしかった。

ウォータールー駅の周りにはガード下がやたらと多く、しかもゴミや小便のニオイがただよう。これはこれは・・・。今はまだ明るいからいいけどね〜。夜ははっきりいってコワいぞ。ガードの向こうにIMAX CINEMAの円形の建物が見える。ガード下をいくつもくぐり抜けて、ようやくホテルがあるはずの場所までたどりついた。なんだ、駅の東口から出ればすぐ前にあったんだ。

ところが、ホテルがない。ホテルと同名のパブはある。でもホテルだとは書いてない。どっからどうみてもパブだ。っていうか、それ以前に重大な疑問がある。この建物はいったいなんだ。建物のすぐ横を鉄道の陸橋が走っているのはいい。でも、なんで建物のど真ん中を別の鉄道の陸橋が貫通しているのか。線路を貫通させるのなら、建物をいったん全部壊して、もっと適したデザインのものに建て直せばいいと思うのだが・・・。

とりあえず中に入ってみる。パブの客たちが一斉に私を見た。なんかヤな展開だな〜。いろんなお酒のボトルが、電灯の光を反射しながら逆さになってズラー、とカウンターの後ろに並んでいる。よく見ると、そのドリンク・カウンターの横に、“Reception”と書いてある小さなカウンターがあるではないか!パブの中にホテルのフロントがあるなんて。びっくりした。

店員の兄ちゃんが寄ってきてすぐに手続きしてくれた。階上がホテルになっているのだという。カード式キーを発行してくれて、ホテル専用の出入り口を教えてくれた。その出入り口は暗くて小便臭いガード下に面していた。木製のガタついたドアだったが、生意気にもカード式キーである。それがないとホテル内部にも入れない。ついでにこの辺の治安について尋ねてみた。特に夜。ギャヴ・パーザンド似の兄ちゃんは、夜でもぜんぜん危なくない、大丈夫、と言っていた。でも階段の踊り場に出るたびにピッという音が聞こえる。センサーだろう。人が通ってセンサーが反応するたびに、どこかにある防犯カメラでチェックしているはずである。この辺って、ホントに安全なの?

部屋はとてもキレイだった。ふつうのB&Bだ。でも、コーヒー・カップのソーサーの上に置かれているのが、コーヒー・カップじゃなくてビール・ジョッキなのが不思議だが・・・。日が暮れかけている。もう8時になる。カーテンを開けて外を眺める。そう、私は思い出したのだ。この建物は、鉄道の線路と線路に挟まれている(しかも1本は建物内部を貫通している)ことを。その時点で、このホテル選びが大失敗だったことは、もはや揺るぎない事実となった。窓のたった1メートル先は、ユーロスターが疾走する鉄橋だったんだよ〜ん。明日になったら別のホテルを探そうと固く決意する。

まだ完全に暗くならないうちに周辺を探索する。ウォータールー駅東口から入って駅構内をしばらくぶらつき、さっき通ったばかりの中央口からまた出てみた。そしたら、中央口のすぐ前のガード下に、“On Your Toes”のでっかい看板があるではないか!雰囲気あってるよ〜。さっそく写真に撮る。この暗さではうまく写らないだろうけど、でも暗いときの方が絵になる。

ウォータールー駅で夜ご飯、お菓子、水などを買い、ホテルに戻った。やれやれ。

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2003年8月17日(日) (1)

飛行機は午後5時前にヒースロー空港に着陸した。予定到着時刻よりも30分も早く着いた。到着先はターミナル4で、飛行機を降りてから連絡バスでターミナルに入った。ターミナル内はがらんとして人影がまったくなく、閉鎖でもしているのかと思われるくらい静かだった。

これから入国審査(パスポート・コントロール)を受けることになる。去年は審査を受けるのに1時間以上並んだ。今度はどのくらいの時間待たなければならないのだろう、と実に憂鬱でならない。ところが、去年とは大違いだった。入国審査の列にはせいぜい数十人しか並んでおらず、審査窓口は5つか6つもあったから、列はスカスカと進む。それに、去年のあの仏頂面をした慇懃無礼な審査官たちとは違い、今年の審査官たちはニコニコとした笑顔を浮かべ、時には入国者と一緒に明るい笑い声をあげたりしている。

なんじゃこりゃ、と思って自分のパスポートに押された去年の入国スタンプを見てみた。そしたら、去年私が降り立ったのはターミナル3であった。後でガイドブックを確かめたら、ヒースロー空港のターミナル4は、事実上、英国航空(ブリティッシュ・エアウェイズ)長距離線だけの専用ターミナルなのである。他の航空会社は、ぜーんぶまとめてターミナル3に押し込まれているのだ。たぶん、去年の入国審査があんなに混み合っていたのは、このせいだったのだろう(時間帯も悪かったのかもしれないけど)。審査官たちがイラついていたのもよく分かる。

というわけで、あっというまに私の順番になった。ワン・ウィーク、サイトシーイング、アローン、ア・フュー・ハンドレッズ・パウンズ・キャッシュ、チェックス・アンド・クレディット・カーズ、オフ・コース・アイヴゴットリターン・ティキト・・・もう一度心の中で暗誦しなおす。

審査官は中年の男性であった。最初の質問。審査官「どのくらいのご滞在ですか?」 予想通りだ。私「ほぼ一週間です。」 2つめの質問。審査官「ここへは何しに?」 これも予想通り。私はお約束の一言。「観光です(サイトシーイング)!」 ふふふ、これで文句はあるまい。と思ったら、審査官はこちらの予想を裏切る質問を出してきた。「イギリスの何をご覧になるんですか?」 そうきたか。観劇以外には観光する場所なんて決めてなかった私はうろたえた。そんなものは前の晩にでも決めようと思っていたから。

私はとっさに言った。「ミュージカルです!」 審査官は顔色ひとつ変えず更にたたみかける。「どのミュージカル?」 なんだよこの質問。こんな入国審査があるのか。私は答えた。「・・・オン・ユア・トウズ。」 審査官「えっ?」 私は大きな声でもういちど言った。「オン・ユア・トウズ!」 審査官は、ああ、というふうにうなづいて、「オニュアトゥーズ!」と言うと、とたんに「わっはっはっは!」と笑い出した。

私「なんで笑うんですか?」 審査官「おかしいからですよ!(←何が?)」 まさか入国審査で「オン・ユア・トウズ」の名前が出るとは思わなかったが、ここで私は「石の上にも三年作戦」または「からめ手作戦」を決行することにした。これは中国大陸の、あるいは東南アジアのどこかにある日本という極東の小国でも、アダム・クーパーがどんなに人気があるか、ということをイギリスの人々にも知ってもらい、クーパー君のキャリア・アップに少しでも役立てよう、という地道な草の根作戦のことである。

よって私は、今までもイギリスのサイトのアンケート・フォームに書きこんだり、メールで問い合わせをするときには、必要もないのに「私はアダム・クーパーのファンなのですが」という前置きを必ず忘れないようにしてきた。入国審査官はいうなればイギリスの窓口、このチャンスを逃してはならない・・・。私はカウンターに身を乗り出して言った。「私はアダム・クーパーのファンなんです!彼はイギリスの偉大なダンサーです!彼を観るために日本から来たんです!」

審査官はクールな笑いを浮かべ、私のパスポートにポン、と入国スタンプを押して言った。「そーなんですか。ハイ、もう行っていいですよ。」 流された。まあいい。これで彼の頭の片スミに、「アダム・クーパー好きなヘンな日本人女」という情報がインプットされたハズである。同僚とのティー・タイムや家族との夕食の話題に出たりすれば、そこからネズミ算式に、イモヅル式に、この情報は伝播していくであろう。これぞまさに大河の一滴である。

預けた荷物を受けとる(これもすぐに出てきた)と、そのままヒースロー・エクスプレスに乗ってパディントン駅へ向かった。15分くらいで着いてしまうから、列車が地上に出ると、イギリスへやってきたという旅のロマンに大急ぎで浸る。頭の中には「世界の車窓から」のテーマ音楽。さて、列車はパディントン(Paddington)駅へと到着しました。駅では大きな荷物をかかえた様々な国の人々が行きかいます。・・・次回はウォータールー駅まで。


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